第二話 神託
僕はジークを見ながら小首を傾げていた。
彼が冒険者になりたいと思っていることは知っていた。
騎士になる前に実戦経験を積むために冒険者になるものは多い。
騎士学校に入学できるのは18歳からなのでそれまで学校に通うか、兵士になるか、冒険者になるかが普通だ。
でも、なんでジークは僕なんかを誘うのだろう。
こういっては何だが僕は腕っぷしには自信がない。
背も低いし、いくら筋トレしても筋肉がつかなかった。
ガックシ
だけど、彼は真剣な目で僕を見つめてくる。
だから、こんなことは言いたくないけど僕は正直に答えた。
「確かに僕も冒険者にはなりたいと思ってるよ。でも、そんな急に言われても困るよ。それに僕が戦闘系のスキルが得られる確率はかなり低いし……」
自分で言っていてかなり悲しくなってきた。
僕の父親は代々農家でスキルは農業。そして、母のスキルは料理だ。
家族は僕の見た目から農業は大変だから、料理スキルを得られたらいいなぁ、と言っている。
きっと、料理屋をやれば大繁盛するだろうと。
でも、やはり、僕としては冒険者になりたいのだ。
唯一の望みは母の母方の祖父が神官だったこと。
もしかするとその系統のスキルが得られる可能性はある。
まあ、万に一つあるか、ないかくらいだが。
「それでもだよ。戦闘系のスキルが無かったら諦める。マルコには危険な目に合ってほしくないからね。ただ、戦闘系のスキルがあったらちょっと考えて欲しんだ。僕がマルコを守るから」
必死なジークに僕は気圧されて思わず頷いてしまっていた。
それを聞いてすっきりしたのか、ジークは祭壇の方に足を向ける。
「さあ行こう。きっといいスキルが貰えるよ」
満面の笑顔を浮かべたジークは歯をキラリと輝かせながら手を差し出してくる。
僕はその差し出された手を握り返した。
「神の子 マルコ。汝は成人を迎えた。ここに神の祝福を与えん。神よ。この者に神のご加護を」
この町は公爵様が治める街なので人口もそれなりに多く、この教会も非常に大きかった。
それにこの教会ではかつて勇者が洗礼を受けたことがあり、冒険者を目指す若者がわざわざ洗礼を受けにやってくる程有名なのだ。
そんな教会の祭壇の前に司祭様が立ち、天に向かって祈りを捧げている。
それを僕は跪いて頭を垂れて受け入れていた。
しばらく、祈りの言葉が続き、司祭様は右手に持つ杖で僕の肩を二回叩いた。
これが洗礼の儀式だ。
杖が光って僕にその光が移るとスキルを得ることが出来る。
だが……
司祭様が持つ杖の光は小さなものだった。
だけど、それが僕の身体に移るとその光は強さを増していく。
しばらくすると僕の身体は太陽のような輝きに包まれていた。
「おおおお」
司祭様が驚愕の声を漏らしている。
その時だった。
リーン ゴーン。リーン ゴーン。
なんの前触れもなく教会の鐘が厳かに鳴りだした。
鐘の鳴り響く音だけが静かな教会に響き渡る。
そして、鐘の音が収まってきたところで僕の身体から放たれていた光は徐々に薄れていった。
しかし、今度は祭壇の上のステンドグラスから光の帯が降りてくるのだった。
「女神様」
そうそこには女神アクアが顕現していたのだった。
白いベールのような波打つローブを着た美しい女神は胸の前で両手を結び、祈るように天から降りてくる。
そして、女神はゆっくりと目を開くと僕に向かって神託を下した。
「いまこの世界には魔王が復活しつつあります。しかし、恐れることはありません。魔王を討ち果たす力を持つ者もまたこの世に顕現しています。汝もその一人。汝、聖女としてこの世界を救うために力を尽くしなさい」
神々しい女神からのお告げだった。
だが、そこには聞き捨てならない台詞が
「聖女ですか?」
「そうです。いきなり大任を受けて戸惑っているかもしれません。しかし、大丈夫。貴方には仲間がいます。彼等を探し、手を取り合って世界を魔王の手から救ってください」
そう言って頭を下げる女神様。
だが、そんなこと言われても困るのだ。
魔王と戦うのは確かに怖いけどそれが使命だと言いうなら一生懸命頑張る。
でも
「聖女なんですよね」
「ええ、そうです」
「無理です」
「最初はみんな恐ろしい――」
「だから、違うんです!」
不敬だと思ったが大きな声を出して女神さまの言葉を遮った。
そして
「僕は男なんです」
「…………」
その場にが沈黙に包まれるのだった。
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