第十九話 鋼の身体を持つ男はどこか怪しい
「グラああああああ」
獣の咆哮が聞こえる。
この野太い吠え声から察するに……
「これってやっぱりグラップラーベアだよね」
「ただのクマかもしれないわよ」
自分でも信じてもいないことを言うリーナの台詞に僕たちはツッコむ余裕もなかった。
だって、僕もそう思いたいもん。
『グラップラーベア』
名前の通りクマの魔物でその大きさは大きなものになると5mを越える。
その巨漢からわかる通り怪力を持っており。森の木など一撃で粉砕する。
そして、この魔物の最大の特徴であり、最も危険なところはその腕。
なんと腕が4本あるのだ。
グラップラーベアの最大の攻撃は立ち上がった状態から4本の腕を縦横無尽に振り回す攻撃。
手数も攻撃力も半端なく。
嵐のような攻撃は並の冒険者では回避も防御も不可能と言われている。
グラップラーベアと戦う時は常に背後をとるか、立ち上がらせないように牽制するのが常套手段だ。
そして、足を攻撃して立てなくした後に止めを刺す。
そんなことを考えていると声を潜めてジークが聞いてきた。
「それでどうする?」
彼の言っていることはわかる。
逃げ出すかどうかを聞いてきたのだ。
戦闘の音はここから少し距離がある。
いま動けば逃げ切れるだろう。
だけど
「いこう」
僕は震える声でそう言った。
リーナとジークは苦笑しながらも頷いてくれる。
そうなのだ。
さっきから魔物の咆哮と共に金属が激しくぶつかるような音がしている。
考えるまでもない戦闘中なのだろう。
僕はジークに強化魔法をかけていく。
そして、僕達は覚悟を決めて音の方に走り出した。
ガンガンと金属音が鳴り響いている。
「……大きい」
思わず声を漏らしていた。
僕の倍はあるんじゃないだろうか?
そこには巨大なクマがいた。
そのクマには腕が4本あり、その4本の腕を縦横無尽に振り回している。
そして、その嵐のような攻撃はどんどん加速していった。
激しい金属音が鳴り響いている。
音からその一撃の威力が途轍もないことが容易に想像できた。
ガィーン
ひと際、大きな音が鳴り、グラップラーベアの攻撃がやんだ。
魔物はグルグルと威嚇をしながら相対する敵を睨み付けている。
というか、少し戸惑っているようだ。
「んん。なかなかいい攻撃だったぞ」
その時、初めてその存在を思い出した。
グラップラーベアの迫力に負けて我を忘れていたのだ。
僕は慌てて回復魔法を使おうとしたが
「あれ? なんか、あの人喜んでない? もしかして今の攻撃が効いてないの?」
頭にハテナマークを浮かべながら僕はその男に注目する。
フルプレートに巨大な盾を持った男だ。
男はグラップラーベアの前に立っても怯んだ様子もなく佇んでいる。
それどころかグラップラーベアを挑発するかのように盾を振っていた。
グラップラーベアは憤りの咆哮を上げて突進していく。
その巨体を生かした体当たりだ。
男はグラップラーベアの突撃に対して盾を突き出して迎撃する。
激しい衝突音が鳴り響いた。
僕は男が跳ね飛ばされる姿を想像して目を瞑る。
だが、結果は
「温い。さっきの攻撃の方が良かったぞ」
撥ね返されたのはグラップラーベアの方だった。
僕は目の前で起こっていることが信じられずに目を擦る。
その時、ジークが声漏らした。
「すげえ。シールドバッシュでグラップラーベアをはじき返した」
同じ近接戦闘職だからそのすごさがわかるのだろう。
ジークは戦慄している。
その間にもその男はグラップラーベアに近寄っていく。
グラップラーベアは今の一連の戦闘で勝てないことを察知したのか逃げ出そうとする。
しかし、男はそれをさせない。
フルプレートメイルを装備しているとは思えないほどの俊敏さで回り込んだ。
グラップラーベアはやぶれかぶれと言った感じで闇雲に腕を振り回す。
今度はそれを盾も構えずに自らの身体で受け止める。
「ん、んん……うん。――うう、ンんん」
これは何かの鍛錬なのだろうか。
ガンガンと金属音が鳴り響く中、男のうめき声だけが響いていた。
なんか少し喜んでいるような――
「うわあ、マジもんだ」
「こんな人が存在するんだな」
何か察したのか二人の顔は引きつっている。そんな中、僕は
「凄いなあ。あんなに攻撃を受けて平気だなんて。僕もあんな風になりたいな」
なぜか二人は必死になって僕を説得していた。
なんで強くなりたいと思うのがいけないんだろう。
僕は首を傾げることしか出来なかった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
評価ポイント100、ブックマーク50達成したら記念投稿いたします。
記念投稿するくらいなら更新頻度上げろとは言わないでくださいw
書き溜めがもう少し出来たら週2にしたいのですが書く暇がなかなかないのが現状です。
これからもよろしくお願いします。




