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第一話『運命』

 「え? 」

 彼女は、急の出来事に思わず驚く。

 「ちょっと待って! まだ私は行くなんて一言も__」

 彼女が焦るなか、僕は彼女の手首をつかみ、坂を駆ける。まだ学校終わりの放課後ということもあり、下校中の生徒たちが此方をじっと見つめていたが、僕は気にしなかった。


 目的の場所に着くと、僕は彼女の手を放す。彼女はようやく自分のいる場所を把握し、目の前に映る景色に、感動の言葉を漏らす。

 「きれい…」

 そう少しだけ言うと、しばらくそこをじっと見つめていた。

 やがて時間が経ち、僕は彼女に話しかける。

 「ねぇ、君って確か…」

 そう言うと、僕の言葉を遮るように優しい声で言う。

 「新橋美香〔あらばしみか〕…」

 「そっ、美香さんだよね。あ、因みに僕は竜凪春馬〔たつなぎはるま〕って言うんだけど…覚えててくれた? 」

 「へぇ、春馬ね。覚えてるわけないでしょ」

「どうして? 」

「覚える必要性が全く感じられないからよ」

「ひどいな…」

 彼女は、クスクスと笑いながら言っていたため、内容は少し酷いが僕も笑えてきた。

 彼女はこの場所にきて、何を感じただろう。でも、理由はわからないけど、一人で歩いてるときのつらそうな顔は、そこにはなかった。


 もう、この場所にきて、一時間は経っただろう。辺りも暗くなりつつあり、冷たい空気が制服姿の僕たちをおそった。

 「さむっ…。だいぶ冷え込んできたね。そろそろ帰ろうか。家まで送るよ」

 「そうね。でも送ってってもらわなくて大丈夫。私の家、多分春馬と家逆だろうしね」

 「そっか。ならこの山道を降りるまで送るよ」


 僕たちが山道を降りると、時計は既に十七時を回っていた。

 「あっ…。もうこんな時間…。ごめんね、美香さん」

 「謝ってもらう必要はないわ。私も、その」

 「どうした? 」

 「きれいな景色を見れて、た、楽しかったから…」

 「そっか、良かったよ」

 「今日はありがとう。おかげで元気が出たよ」

 「うん。じゃ、明日学校で会おう」

 「ちょっとだけ待って…」

 「ん? 」

 「美香…さん付けしないで。私も春馬のこと覚えておくから」

 「え? あぁ、わかったよ。じゃ、明日ね、美香さん。じゃなくて、美香」

 暗い夜道で、二人の男女はまた一歩と進んでゆく。


◇◇◇



 翌日の朝。

 「おーい」

 僕がいつものように通学路を歩いていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。僕は黙って振り向く。すると、そこには美香が立っていた。

 「お、美香さ…美香か。おはよう。昨日は遅くまでありがとう」

 そう言うと美香は黙って頷き、言葉を返す。

 「おはよう、春馬。またさん付けで呼ぼうとしたの? 」

 「え…あぁごめん」

 「え? いいよ別に。最初から呼び捨てだったわけでもないんだし、そう自然に呼べるものではないもの。それに…」

 「それに? 」

 「な、なんでもないっ…」

 「気になるなぁ。ま、いいけど」

 そう言いながら僕は周りに目を配る。あれだけ美香が避けられていて、僕がこんなに仲が良さそうに話していたら、じろじろ見られるのは当たり前だがさすがに視線が気になった。

 「春馬、ごめん。私のせいで…」

 「え? 」

 「私のせいで、春馬が避けられる対象になる。やっぱり昨日の約束…守れそうにない…っ」

 そう言って、彼女は走り出す。でも僕はそれを上回る速さで、彼女の手を掴む。彼女は、

「離して! 」

 と言いながら必死で抵抗する。でも、その手は絶対に離せない。今離せば、彼女はもう戻れない。

 「ねぇ、美香。今からいうことを覚えておいてほしいんだ。だから抵抗しないでくれ! 」

 美香は掴まれた手を、必死で離れるように抵抗していたが、僕の言葉によって抵抗をやめた。

 そうして、彼女の耳元で言った。

 「僕は、君のことが好きだ__」

 その声は、優しく囁いたつもりが、周りに聞かれていたらしく、登校中の生徒がみんな驚きを隠せないようであった。

 そして彼女自身もまた、驚いただろう。昨日話したばかりの仲なのに、いきなり告白されて。

 __私のせいで、春馬は避けられる対象になる、と美香は言った。

 でもそれは大きな間違いだ。彼女、美香はまだ気付いていない。自分が皆を避けているということを。多分それは、相手に自分と同じ目に逢ってほしくないからだと思う。

 美香には、絶対に何かがある。それが痛感するようにわかった。


 「え…」

 最初に声を上げたのは無論のこと、美香だった。

 「嘘でしょ? 」

 嘘ではない。ただ美香のことが好きで、ただ思いを正直に伝えただけだ。

 「…本当、だよ。好きな子が悲しそうにしてるところを見て放っておけない。それにね」

 僕は大きな深呼吸をし、話を続ける。

 「さっきから、犬みたいにキャーキャー騒ぐ奴らも君にとっては辛いだろうしね。お前ら、学校行かねーの。あと五分だぜ? 」

 僕がそう言ったとき、生徒たちが現実に戻る。そうだった。そう言わんばかりに学校へと走り出す。

 「さっきの話は本当? 」

 学校中の生徒がいなくなり、美香は僕に問う。

「うん。今なら堂々と言える。美香、君のことが好きだ。もし良ければ付き合ってほしい。いいかな? 」

 少しの沈黙を終え、次に美香は笑顔で回答する。

 「よろしくお願いします」

 その日二人の男女が、一つの壁を越えた。二人は社会から見て、恋人同士というものに配属された。この日僕は誓うんだ。君のことを一生守る、と。

何とか期間に間に合いました。

ご迷惑をおかけしました。

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