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平和な学生と備えをする学生

さあ、首都封鎖まであと一日です

『アメリカ政府及び国防総省は日本時間で午前三時、メキシコ国境およびメキシコと隣接する各州の封鎖を発表しました。これによりメキシコと隣接する州への人の出入りは一切禁じられることとなります。これに対しアメリカ国内では一部の反発が強まっています、しかし、専門家は日本国内でも観察期間中の男性の感染が確認されるなど世界各地で広がり続ける反社会的人格障害の猛威を防ぐには仕方ないとこの措置を評価しています』









本日、二月十五日金曜日


地獄の後には天国があると誰かが言った(石田が期末試験で全教科100点取った時の話だ)


その言葉の通り(かどうかは分からないが)俺こと後藤雄大にも地獄(バレンタインデー)のあと天国がやって来た






うちのクラスの担任である老人教師は言った

「えーと、本日からですね、学校は午前授業になるそうです」


え?なんだって?


「ですから、四時限目が終わったら帰宅してください」




や、や、や…


「やったああああああああ!!!!!!!」


おっと、声に出てしまった

だが、まわりの数名もそれにつられて喜びの声を上げ、たいして目立ちはしなかった


よかった、よかった




隣の席の石田に話しかける

「なあなあ、午後どっかにいかね?」

石田の顔を覗き込むと彼は恐ろしいほど深刻な顔をしていた

この顔は…たしか小テストの追試に引っかかった時の、いやそれ以上の顔だ

「石田?」


「おい、石田、聞いてんのか?」

石田は顔を上げた

「ああ…すまない、聞いてなかった」

「今日、学校終わったらどっかいかね?」

「ああ、僕も行きたいところあるし、行くか」

「おう!」















「・・・で、なぜにここが待ち合わせ場所なんだ??」

「ここじゃ不満か?」

「いや、不満と言うか・・・ここさ」



「ショッピングセンターじゃん」


俺達がいるのは昨年完成した東京湾に浮かぶ新東京港湾島のその駅前にあるショッピングセンターだ


「新東京港湾島、噂には聞いていたがすごいな」

「この島は、東京都の大規模人工島建造計画の産物だ、といっても、実際にはあるもの(・・・・)を埋め立てた埋め立て島だがな」

「噂によると、ここは有事の際の軍事拠点になるそうだ、すごいよな」


上から、石田、山本、藤木のセリフだ

まあ、こいつらとはよくつるんでいる


「いやいや、そうじゃなくて、なぜここなの」

その疑問には石田が答える

「ここは品ぞろえがいいからな」

「品ぞろえ?」

石田はまわりをうかがい、小声で

「ああ、災害対策用品を今のうちに買っておこうと思ってな」


「は?災害対策?なんの話だよ」


「今のうちに備えておかないと大変な事になるぞ」

「だからなんの事を―――」

さえぎるように山本が言ってきた

「反社会的人格障害だよ」


は?なにをいってるんだ、こいつらは

ふざけるな、何が反社会的人格障害だ、何が『備え』だ

いくら世界中で感染症が流行ってるからって、敏感すぎるだろ

ホントにこいつらの言う『備え』は使われる日が来るのか?

どうせお蔵入りの品になってしまうなら、買わない方がマシだ

そもそもこれまで誰も感染症(・・・)に対する『備え』なんて誰もしてこなかった

感染症で文明崩壊なんて、笑わせる冗談だし、映画のネタだ

まあ、バイオテロなら納得だけど、今回もただの感染症だ


「まったく、最近お前ら変だぞ」

「そうだそうだ」

藤木もそう思っていたのか同調してくれる


「ま、そうかもしれないな」と石田

しかしその眼には真剣さがいまだに残っている

「だが、僕はこれが『想定外』だと思っている、そうじゃなきゃ政府もこんなに慌てないだろ」


結局は状況証拠だけって事だろ


「お前なぁ、政府政府ってなんでそんなにホイホイ信じられるんだよ」


「僕は普段の政府はともかく有事の際の政府は信用している、こういう事態には企業や個人には対応できない、対応できるのは政府だけだ」


藤木も石田に対して訴える

「待てよ石田、そうやって個人個人が慌てるのはよくない事だ、お前は有事の際の政府を信頼してるんだろ、だったら混乱を招くような事をするのはよくない、1人が慌てれば100人がパニックに陥る」


「おいおい、藤木君、僕は政府を信頼してるが、事態への対応を一任する訳ではない」

「そうだ藤木、政府にまかせきりでオレらが死んだら元も子もないだろ」

山本も議論に入る


あれ、俺、こいつらが言ってる事についていけねえ・・・


「違う、今こそ皆の心を合わせるときなんだよ」

「なるほど、国家主義者(ナショナリスト)の言いそうな事だ、しかしな、政府が優先して守るのは何だ?少なくとも俺らではない」

「ああ、そうだよ、俺はあくまで国家主義者だ、そして、政府を信頼している!」

「おい、石田、藤木、ちょっと熱くなり過ぎ、とりあえず続きはワックで話そう」

山本が止めに入った


俺はその様子を黙って見ていた



「ワック」という名の全世界展開のチェーンハンバーガー店へ向かう途中、ずっと考えた


さっきの会話に、俺は途中から全く入れなかった


なんなんだ、さっきの必死さは

なんでこいつらは、全員本気なんだ?


・・・ああ、そうか。こいつらは本気なんだ


――――石田と山本は本気で文明が崩壊すると考えている

だから、『備え』をしようとしている


――――藤木は文明が崩壊しても政府が守ってくれると考えている

だから、混乱を呼ぶ行動は控えるように言っている



さっき俺が

『まったく、最近お前ら変だぞ』と言った時

藤木は『そうだそうだ』と同調していたが、俺と藤木の考えは全く違っていた



俺は文明崩壊があり得ないと考え、藤木は文明が崩壊しても(・・・・・・・・)大丈夫と考えていたのだ


という事は、口論しているこいつらは、『文明が感染症で何らかのダメージを受ける』前提で話を進めている

俺が入れるはずもない

文明が崩壊する可能性はそもそもないのだ



その後も、ワックでポテトをむさぼりながら血気盛んな学生たちのトークは続いた

「皆さん、こちら資料をご覧ください」

「なんだ?学会か??」

スマホで検索した資料を見せあい

「これを見ろ!」

「『パニック・イン・重慶』?」

動画共有サイトや、時には翻訳ソフトを使いながら掲示板の真偽を議論したりしていた

「なら、何なんだよ?」

「だめだ、資料が足りない」

「「お前が言うな!」」

結局、議論は二時間ほど続き、『その時の状況に応じて政府の指示に完全に従うか、政府の意向を完全に無視するかを決める』という結論に至った…らしい(・・・)

要するに『蓋を開けてみないと分からない』、まあ引き分けなのだが、そうなるのは当然だろう


蚊帳の外で生温かく見守っていた俺には分かった








起こりもしない事を議論したところで、時間の無駄だ

















・・・首都封鎖まであと1日

さあ、いよいよです


次回投稿は明日です


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