終章 女性記者と編集長
この話は、もともと予定されていなかった回です
思いついたので、最終話として投稿させていただきました
ある新聞社の女性記者である高坂は、放棄された封鎖区のあるビルの中で、隠れるように食事をしていた
彼女は、あの後必死で逃げ、逃げ、逃げ続けていた
ふと、彼女のポケットに入っていたスマホが振動する、恐らく電話だろう
しかし、彼女は気付かないかのように食事を続ける、どれだけ腹が減っているにしても、今の彼女の『食』への執着は、いささか不気味だ
床に直接座り、前傾姿勢で食べていたせいだろう、スマホがポケットからこぼれ落ちる
画面には予想通り、『電話着信 編集長』と表示されていた
しかし彼女はそちらを一瞥しただけで電話に出ない、それはあまりにも彼女らしくない行為だった
電話に誰もでなければ、当然留守番電話に切り替わる
新聞社のオフィスで、高坂の上司でもあるこの新聞の編集長は、事務的な留守番電話ガイダンスの機械音声に耳を傾けていた
メッセージ録音開始の合図である電子音が鳴った、制限時間は三十秒
「もしもし、私だ高坂君、あの電話の後、メールも電話もないな…」
まるで自分に言い聞かせるような言い方、しかし録音できる時間は限られている、素早く要件を伝える
「たった今、関東地方の一部が放棄された、どうやら封鎖線が破られたらしい、当然ながらこの建物もその放棄地域の中にある」
まくしたてるように急いで喋る、だが、ここからはゆっくり言い聞かせるように話したかった
「この事態が沈静化したら、またどこかに食事に行こう、もちろん奢ってやる、ゆっくり夜景でも眺めて、な、だから、絶対に…」
電子機器に願うかのように語りかける編集長の声を、録音終了の電子音が遮った
彼は、誰もいないオフィスの中で、ひとり、受話器を握っていた
『<愛読者の皆さまにお知らせ>関東地方の一部放棄に伴い、弊社は一時閉鎖されます、過払い分の料金に関しましては…』
<神奈川新聞HPより抜粋>
次話は後書きになります




