表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/27

2月19日 封鎖線と歩哨

夜だ


普段なら東京のネオンがここまで届く事はないが、神奈川と東京の境目、そして今は封鎖線の一角となった多摩川のほとりからでも光が見えた

いや、正しくは光ではない、炎だった

「すごい燃えてますねえ」

「ああ、燃えてるなあ」


ここは東京都大田区の新東京国際空港、羽田空港だ

こんなのんきな会話をしている二人だが、手には実弾の込められた小銃を持ち、街灯とサーチライトに照らされた街からの来訪者に備えている

先ほどから彼らが話題にしている火災は、ただの火災ではない、火災旋風と呼ばれる、災害時に発生しやすい大変危険な現象だ

火が上がったのは下町の一部だったらしいが、緊急避難区域に指定されている事もあり、火を止めようとする者はいなかった、もしかすると上層部(うえ)はこの火災で感染者が焼け死んでくれればいいと思っているのかもしれないが、この調子で火事が広がれば、大変なことになるのは明白である


「まあ、いたしかたない事なのか・・・?」

「どうしたんです、急に?」

ついつい口から漏れてしまったようだ、彼は部下の方を向き

「いや、なんでもない、ちょっと考え事をね」

と笑った


この二人のしている仕事は・・・おおよそ見当がついたかもしれないが、警備である

封鎖、といってもただ単に多摩川に指定された封鎖線だけを守ればいい訳ではない

封鎖区からの「脱出」の為に保護観察を受ける人々

これが今日の避難命令を受けて急増しているのである

もちろんこの羽田空港もその保護観察を行う場所なのだが、急増した避難民を全てさばき切れる訳ではないので、一種の強硬策が取られていた

――――説明できない外傷があった場合、受け入れを拒否する、というものである

当然ながらこれに伴うトラブルも多少は発生していた

まず、説明できない、の基準である


受け入れ担当の係員達は傷を発見するたびに、細かく聞いていくのだが、みんな脱出したいので説明する、もちろんそれが嘘かどうかなんて、プロの腕にかかれば簡単にバレてしまうのだが、いかんせんプロの数が足りない

そのため、やっつけ仕事になってしまう事が多く、トラブルに発展する事もあるようだ


そして、もうひとつの問題は、「身体検査」をするという事自体に対する疑問だった

これに関しては、きちんと『反社会的人格障害に関する国民保護の為の法案』という法的根拠が存在するのだが、今日の午前中、その身体検査によって女性都議会議員の児童虐待が発覚したのだ

・・・つまり、子供の身体検査をしたら、虐待の跡が多々見受けられたのである・・・

確かに、ここまで徹底的に身体検査をしてしまうと、それこそプライバシーに関わる問題になりかねない

しかし、今は虐待の事実よりも封鎖区(ここ)から逃げる事が重要なので、極端に大きな問題とはなっていないそうだ


それにしても・・・

「暇ですねえ~」

彼の心の声は部下が代弁してくれたようだ

確かに暇であった、もちろん、暇な方が警備する側としては助かるのだが

こんな夜になると、もはや外を出歩く人間なんてほとんどいないだろうし、いまや封鎖区の夜はいろんな点で危険だ

「ま、暇にこしたこちゃあねえが、気を緩めるんじゃねえぞ」

「なんですかそれ、まるで新兵に言うようなセリフっすね」

「何言ってんだ、お前まだ一年生だろ」

一年生、部下は入隊一年目である

その言葉に、もうすぐ丸一年ですよ、と小さくつぶやきながら部下は銃を構えなおす、まさかホントに気が緩んでるんじゃないか、少々心配だ


すると部下が、突然声をあげた

「あれ?」

「どうした?」

「あれ見て下さい」

「?」

部下の指差した方向を見ると、大荷物をしょった人影が駆けてくる、こんな時間に一体何の用だ?

「とにかく、状況を本部に報告だ、そいつの特徴を教えてくれ」

「はい」

そう言って部下は双眼鏡を取り出し、観察し始める

無線機のスイッチをいれる

「こちら、羽田歩哨43番、指揮所、応答せよ」

数秒待つと、寝ぼけたような声が聞こえてきた

『こちら指揮所、感度良好、どうぞ』

寝てんのかよ、こっちは頑張ってるのに、とは言わない、人員が足りなさすぎるのだ

「前方に、人影、特徴は…大荷物を背負ってる、外傷の有無は不明、どうぞ」

その途端、むこうの声は跳ね起きたかのように興奮し始めた

『なんだって?? 了解、増援を送る、追って指示を待て、どうぞ』

追って指示を待て、か

「現場指揮権の委譲を進言する、どうぞ」

そんな悠長な指示には従ってられない、現場指揮権があれば、現場の自衛官でも発砲を許可できると特例法案に明記されているので、指揮権を持っているにこしたことはない

『…分かった、ただ今をもってそちらに指揮権を委譲する、極力発砲は控えよ、どうぞ』

むこうにもその考えが伝わったようだ

「了解、おわり」

そう言って通信を終了する


「三曹殿・・・」

部下が不安そうな目で見てくる、今の会話から最悪の事態を想定しているのだろう

「大丈夫だ、きっと感染者じゃないよ」

そう部下には言ったが、とても不安だった

もし感染者なら、初めて見る感染者なのだ、撃てるだろうか?

不安を拭うため、声を出す

「で、どうだった?」

「はい、外傷はなさそうです、きっと避難してきたんだと思います」

「そうか、応援が来たら迎えに行こう」


人影が徐々に近づいてきて、こちらにも応援が二人来た

「よし、ここは任せたぞ」

応援に伝える

むこうは揃って「了解」と応じる


部下とともに、避難民と思われる人影に小走りで近づいて行く

人影は何かを叫んでいるようだ


「なんか言ってるぞ」

「でもよく聞こえませんねえ」

しかし、その瞬間、二人の耳には避難民の声がはっきりと聞こえた



「感染者が来る! 助けてくれ!!」




「なんだって!」

「三曹殿!」

部下が指示を求めてきた

「よし、お前は民間人保護、俺が後ろから援護する」

そう言って立ち止り、銃の安全装置を『ア』から『タ』切り替える


どうでもいいかもしれないが、安全装置には『ア』『タ』『レ』『三』の四つのモードがある

『ア』は安全、『タ』は単発、『レ』は連射、『三』は三発連射を意味する


そして無線を掴み

「人影は非感染者! ただしその後ろに多数の感染者がいる模様!」

と叫ぶ、むこうもすぐにただ事ではないと判断したようで

『了解した、直ちに増援を送る、おわり!』

と言ってきた


避難民も部下も走っていたため、両者はすぐに合流する

それと時を同じくして、サーチライトが動き、感染者の群れを照らす

群れというより、波だ

まずい、予想よりも多い!


素早く小銃の安全装置を『タ』から『レ』に切り替える

まずは連射で牽制だ

念の為、叫ぶ

「反社会的人格障害に関する国民保護の為の法案に基づき、発砲を許可する!」


日本の誇る自動小銃が、火を噴いた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ