2月19日 いよいよ、その日が来た
『その日』、封鎖区内での感染爆発が表面化する日です
分かっていた事だ
でも目を背けていた
『避難完了率15%』
『何をやってる!最悪避難所の人間だけでも全員逃がせ!』
こんなバカみたいな出来事も予言がなかった訳ではないのだ
しかし対策なんて普通するか?
首都直下地震の方が起こる確率は高いのにも関わらず、準備している人間は一握り
『繰り返します、緊急避難命令が発せられたのは、東京都江東区、中央区、千代田区、港区です、お住まいの方は至急広域避難所及び臨時避難所に行って下さい、自衛隊と二次避難所に移動できます、臨時避難所の場所は江東区で…』
だったらなおさら準備をした人間はいないだろう
夢の島
かつてはゴミの島
78年にゴミの島としての役目を終え、今では公共施設やスポーツ施設がある緑あふれる島だ
東京都江東区に存在するこの島は地区内残留地区として避難する必要のない土地になっているが、これは災害時の話だ
現にさっきのラジオでは、ここを臨時避難所として紹介していた
この臨時避難所から、一時的な避難をおこなうのだ
『落ち着いて、列になって進んで下さい、列からはみ出た場合、警告の後に発砲する事を我々は許可されています!』
見渡す限りの青空だ、しかし少しでも顔を下げればそこにはやつれた人々の顔がある
家財道具を(何と薄型テレビを)背負っている者もいれば、何も持っていない人もいる
必死で別れを告げようと電話をかけたが繋がらず、悪態をつく人もいれば、無邪気に陸自のヘリを指差して「すごおい」と言ってる子供がいる
列の周りで警戒している警官や自衛隊員
ふと、1人の警官が何かに気付き、
「そこの方、ちょっと」
と声をかけるが誰が「そこの方」なのか見当もつかない
「そこのあなたですよ」
警官はゆっくりと1人の女性に近づいて行く
まわりの人が女性を見るが、本人はうつむいたまま何かをブツブツ言っている
「ちょっと、すいませんが」
警官が肩に手をかけると、女性は血走った眼で警官を睨みつけた
表情は恐怖で埋め尽くされ、手には物騒この上ない血まみれのパイプが握られている
その様子を見ていた数名が顔をしかめ、振り返って女性の様子を見ていた1人の避難民が口を押さえた
現状を考えれば、彼女の身に何が起こったかなど想像にたやすいが、それを頭の片隅でも考える事は誰もしない
そんな想像はゲームの中だけでいいのだ、妄想と呼ばれる方がいいのだ
いやまて、これはゲームに出てくるウイルスではない、反社会的人格障害なのだ
繰り返しておこう、これは反社会的人格障害なのだ!断じてゲームなどではない!
「その棒は危険ですので、回収させてもらいます」
「あ、はい・・・」
女性はゆっくりと顔を上げ、ゆっくりとその凶器を渡した
『次のテントでは検疫を行います、少しでも傷がある方は通過できないのでご了承ください』
1人の消防隊員がハンドマイクで叫び、背中に『江東区』と書かれた職員が簡易手荷物検査をしていく
無駄に大きい登山用リュックサックが回収され、薄型テレビも当然回収されてゆく
テント前では喧騒が広がり数名が警察に取り押さえられる
うつむいた顔のままで、残りの避難民がテントに入っていく
テントの中では隔離装備の救急隊員、対毒ガス装備の衛生班、さらには原発用と思われる防護服を着た区の職員が男性と女性を分けて身体検査をしていく
その様子は避難民たちに大きな危機感を感じさせ、彼らはおとなしく服を脱いでいく
そんな夢の島の一角、「江東区防災課」と書かれたテントに、1人の職員が入って行った
「で、進み具合はどうだ?」
「ええ、もう外からやって来るのは感染者ばっかりですよ、あとは…」
江東区職員が答える
「バカ!感染者じゃねえ、『(反社会的人格)障害者』だ!」
「そんな事言ったって、感染するんだから感染者でいいじゃないですか」
「あのなあ、感染者っていうと悪い奴みたいだろ」
まあ、見境なく人を襲うので悪い奴なのだが、感染前は一般人だったのだ
「じゃあ、『反社会的人格障害』の「害」をひらがなの「がい」に直して下さいよ」
最近は障害者の「害」が差別用語だとして、ひらがなに直される事があるのだ
「・・・そうかもしれんが・・・で、後何分で完了だ?」
「そうっすね、あと2,30分ですかね?」
彼らはやけに平和である
仕方がない事だ、彼らは感染者と会った事がないし、これから向かう二次避難所は安全だと考えている
しかし、二次避難所も封鎖区の中にあるのだ、安全なはずがない
夢の島と本土をつなぐ橋には数台の軽装甲機動車と自衛隊員、警視庁の機動隊員が警備をしていた
彼らの顔は恐ろしいほど強張っていた
先ほどから散発的な攻撃(?)はあったが、今回は違う
橋の向こうから、橋いっぱいに広がった感染者達が向かってきていると報告があったのだ
1人の軽装甲機動車の上で機関銃を構えていた隊員が叫んだ
「よし、LAV(軽装甲機動車の略称)でふさぐぞ!」
どうやら彼が指揮官のようだ
軽装甲機動車が適当な配置で並び、その後ろに念のためパトカーを配置していく、これらの隙間を埋めるように土嚢を積めば二重の防衛線が完成する
3分クッキングの新メニューに追加できるかもしれない、なんて事を指揮官が考えているうちに、自衛隊員や機動隊員が配置についていく、準備はできた、感染者の大軍(軍?)が見え、こちらに迫って来る
しかし、問題はある
人数が圧倒的に足りないのだ
本部(夢の島の本部)に問い合わせたが、他も似たような状況で、余裕がないのだ
さらに問題なのは・・・民間人が目の前にいる事だ
感染者の事ではない、彼らは法律によって人権を停止されているので、彼らは法的に人ではない
問題は・・・彼らの前をよたよたと逃げている民間人達・・・幼児を抱えながら逃げる母親だ、なぜ逃げ遅れたのだろう?
いづれにせよ、彼らが感染者たちを連れてきた事は間違いない
すでに部下が向かって行って誘導にあたっているが、誤射の可能性から発砲許可を出せない
どんどん感染者達が迫って来る
「隊長!もう誤射の危険性はありません!撃たせて下さい!!」
部下が懇願する
しかし、そうはいかない、民間人が日本国民である以上、保護が最優先なのだ
「ダメだ、まだわずかながら誤射の危険性はある、許可を出すまで全員撃つな!」
それに民間人から見れば、自分の方向に銃を撃たれるのだ、最悪の場合、発狂するかもしれない
「何言ってるんです!彼らを助ける為にここの避難民全員を危険にさらすんですか?」
そんな事は分かっている
様々な危険性を無視して撃つべきなのは分かっている
そして、部下たちが誤射するような奴でない事も知っている
しかし、だから撃つ訳にはいかないのだ
「避難民全員は危険にさらさない、俺達が防ぐからだ」
虚勢を張ってやる、しかし部下は引き下がらない
「そんなカッコよさ気な事言ったって、突破されたらおしまいです!!」
「いいから命令に従え!!」
民間人が防衛線に到達するまで30メートル
しかし感染者達もすぐそこまで迫ってきている
感染者の顔が細かく見え始めた
まだ血が流れているようで、全く死人には見えない
皆どこかに怪我の跡があり一部の人は顔が大きく損傷しているが、傷口がいなかったら完全にデモ行進だろう
攻撃ヘリの爆音がやって来た、どうやら他のところは守り切ったようだ
まてよ、攻撃ヘリなら上空から攻撃できるから兆弾の危険はほぼない!
慌てて無線をいれる
『そこのヘリ、こっちは民間人保護で撃てない、支援を頼む』
そこのヘリ、という呼び方は変だが、むこうは快く『了解』と答えてくれた
攻撃ヘリがチェーンガンの射撃音を立てながら援護射撃を開始する
弾が次々と学生や会社員、専業主婦に命中する
先頭の感染者達が一斉に倒れていく
倒れるというよりは、砕けていくといういい方が正しいかもしれない
橋の上に鮮血が飛び散る
・・・人殺しにしか見えないな、だが、あいつらは人じゃない、人じゃないんだ
そして、防衛線にあらかじめ開けておいた隙間から民間人を脱出させると
「撃て!」
と力の限り叫び、自分も機関銃を握りしめた
次回投稿は四月三日です
いよいよストックが減って来ました
そろそろ限界かもしれません
一応現時点で次回分は完成しているので、次は大丈夫です
話の内容は初めから全部固まっているので、連載中止にはならないはずです
ただ、文章にするのはちょっと難しくて
・・・これなら全部書き終わってから投稿するんだった・・・




