2月16日 取り残された女性記者
どうも帝都造営です
これからは封鎖後の東京を描いて行きます
『番組の途中ですが、ここで臨時ニュースをお伝えします、日本政府は本日午後四時…』
『高坂君、じゃあ君はまだ都内にいるんだね』
彼女の上司である編集長は慌てた様子で言った
「はい」
『ならすぐ帰って来なさい、封鎖区から出る為のの手続きは都民以外を優先してやってくれてるから』
「編集長まで何言ってるんです?これは大スクープの大チャンスなんですよ、中に残った記者ができるのは様子を最期まで語る事です」
彼女は決して逃げるつもりはなかった、その証拠に今も手帳に渋谷の混乱の様子を書き写している
『最期って…きみなあ!』
さすがの高坂くんでもそんな無茶はさせられない、と訴える編集長に事務的に記事を送る時間を伝え、携帯を切った
「まさか、こんなに早いとはね・・・」
本日の午後4時、日本政府は反社会的人格障害の感染拡大を防ぐために、多摩川~環状八号線~荒川を封鎖線と定め、「首都封鎖」に踏み切った
港区などで感染爆発の兆候を見せていた反社会的人格障害だが、これに対する政府の対応は予想外に早かった
高坂の予測では封鎖は都内人口が昼に比べると少ない夜に封鎖が決行されると考えていたが、都内からの疎開者がほとんど出ないうちに首都を封鎖してしまった
封鎖と言っても、制限されるのは人の移動だけで、荷物などは届く
渋谷の大スクランブル交差点が赤信号になり、車が動き始める
しかし、車内ラジオやテレビがなくても分かる街の異様な雰囲気にどの運転手も慌てているようだ
待ち合わせ場所として有名なハチ公広場は、なるほど待ち合わせ場所には絶好スポットのようで、自衛隊の仮設指揮所のテントが張られている
それを警備する自衛隊員が持つ小銃は弾倉が外されてはいたが、腰にぶら下げてある弾倉を装着すればすぐに実弾が飛び出すのだろう
しかも彼らの銃は銃剣を先端部に取り付けており、物騒なことこの上ない
さらにそのテントの周りを取り囲むように三角コーンが配置され『これより先に無断で侵入した場合、断固たる措置を取らせていただきます』といくつかの言語で書かれた看板も置かれていた
『渋谷区』と背中に書かれた職員がハンドマイクを片手に叫んでいる
『皆さま、ここはまだ安全です、落ち着いて行動してください』
彼らのいう「ここはまだ」という言葉は安心させるどころか、さらに皆の危機感を強めさせている事も分からないのだろうか
いや、むしろ彼らは『危機感をあおりに来た』のかもしれない
日本人は危機的状況に陥ってもある程度なら団体行動ができるのだ
「和の心」と言いたいところだが、単に流された方が安全と考える国民的精神からのものだろう
だから、危機は大きければ大きいほどいいのかもしれない
そのような日本人の自主性のなさを誇らしげに利用するのもどうかと思うが
渋谷区の職員達がハンドマイクで煽っているのを遠巻きに眺めながら彼女は次の交差点へ向かう
ここには渋谷駅のバスロータリーがあるのだが、バスに乗る人間はあまり多くなかった
言い間違えた、乗る人が少ないのではなくバス一台当たりに乗る人が少ないのだ
ご覧の通り、バス乗り場には長蛇の列ができている
そしてガラガラのバスが出発していく
異様な光景だが、まあ疑問には思わない
密閉空間で感染者と出くわせば、それこそ『ジ・エンド』である
そんなに人ごみが嫌なら、歩いて帰ればいいものを
バスの人ごみを避けてバスロータリーの人ごみに残るとは、おかしな話である
しかしそれでも歩いて帰らないのは面倒だからか、はたまた日常への執着か
高坂はそんな事も記事として書きくわえながら東京メトロ銀座線の改札がある東急ヒカリエの建物へと向かって行った
この時間帯だといつもは地下鉄はとても混んでいるが、もしかすると今日は混んでないかもしれない
信号が青になり、人々が動きだす
まだ日が短いと言う事もあり、街のネオンがいつも通りに輝いている
驚くべきとこに、こんな日でも東急ヒカリエは買い物客で賑わっていた
この活気あふれる繁華街も、血と腐臭で埋め尽くされてしまうのだろうか?
彼女の小さなつぶやきは、陸自ヘリの奏でる轟音にかき消された
『封鎖区内の街はいつもと変わらないように見える、変わらないフリをしているのだ』
<神奈川新聞㋁㏰からの連載記事「封鎖区の隣と中」より抜粋>
投稿ペースの件ですが
残念ながら自分の執筆がそこまで速くなく、現在のストックが4話分ぐらいしかないのが現状です
とにかく連載を滞らせる訳にはいかないので、当面は2日ペースで投稿させていただきます
ご了承ください




