終わる平和と総理の「英断」
タイトルの通り
いよいよ運命の日です
『昨日、日本時間で午後四時頃、アメリカのサンディエゴ郊外で反社会的人格障害感染者と思われる変死体が発見されました。サンディエゴはメキシコ国境に隣接する都市で、米国防総省はサンディエゴ市内を全面封鎖しました。これはアメリカ国内初の都市の全面封鎖となります。これを受け、大統領は談話にて…』
執務室の小型液晶テレビでは国営放送が新しい情報を伝えるのを長瀬は見ていた
・・・一般向けのメディアに入る情報だけでもここまで状況はひどく、専門家しか目を向けないようなところまで調べると状況はもっとひどい
受話器を置いた秘書官が駆け寄って来た
「総理、第七艦隊が、横須賀を出たそうです」
「・・・そうか」
ヘリ特有の爆音が突然聞こえた
何が起きたのかと窓を見れば双発プロペラエンジンの輸送機ヘリが飛び去って行くところが目に入る
不審に思いモニターを見ると、首相官邸の庭に物資が置かれ、数名の自衛官が作業している
首相官邸の池は、水を抜くとヘリが着地可能なスペースができるのだ
「いつの間に、水を抜いたんだ?」
「今朝です」
「バカが、確かに準備をしろとは言った、しかしあんな堂々と非常事態ですって認めてどうする」
「しかし、アメリカ軍の各海域からの軍の一部もしくは全面撤退は、どう考えても非常事態ですよ」
「・・・まあ、確かにな」
アメリカの影響力は徐々に小さくなりつつある、いよいよ国家予算に限界が近づき軍縮を余儀なくされて来ていたが、州軍や陸軍などの地上兵力を減らし、装備を最新鋭に更新し続けることでどうにか11隻の航空母艦と潜水艦部隊だけは保ち続けている
しかし、アメリカンドリームが帰ってこない事は明白で、最大の同盟国である日本の今後の少子化に伴う経済展望も重なってアメリカの同盟国達に対し不穏な影を落としていた
しかし、今回の感染症に対して、航空母艦の持つ圧倒的な敵射程外からの攻撃も、潜水艦の持つ隠密行動能力もたいして役には立たない、陸軍が防衛線を維持できるかが重要なのだ
そう考えれば、日本にいる数万の海兵隊でもいいから、とにかく国内に配備する地上兵力が欲しいのは当然だ
「統合幕僚監部の国内でのアウトブレイク発生時の作戦計画も作成され、対策のための法案も成立とほぼ同時に公布・施行された、自衛隊、警察、消防も準備よし、あとは天命を待つのみ・・・」
「天命と言うよりは魔の手ですかね」
秘書官が軽くつっこむ
「はは、確かにな」
長瀬も苦笑するしかない
そして秘書官は腕時計を見て
「時間です」
と事務的に伝える
「おお、そうだな」
長瀬は立ち上がった
アウトブレイクまで何日かは知らない
だからせめてそれまではいつも通り過ごそう
警備員と自衛官たちの敬礼に見送られ、長瀬内閣総理大臣は国会議事堂へと向かった
衆議院では特例法案の審議によって中断されていた予算案の審議が再開され、審議中であったが、またしても内閣閣僚の面々は途中退場することとなった
今の閣僚の心境を一言で言えば
「最悪だな・・・」
うっかり誰かが口に出した
「・・・」
誰も咎めない、さらに沈黙が重くなっただけだ
長瀬はとりあえずその沈黙を破るとこにした
「で、対策は?」
内閣府の職員が答える
「現在、日本国内のサーバーに対し、『反社会的人格障害』『ゾンビ』『避難』でのキーワード検索に制限をかけています、これでだいぶ情報の漏えいは防げるはずです、しかし・・・」
「しかし?」
「ブログやツイッターなどには制限がかけづらく、恐らく半日を待たずに大混乱に陥ります」
「となれば、限界は会社などが終わる五時と見るべきでしょう」
「あと・・・」
全員の目が時計に向けられる
十一時二十三分
「約5時間か」
「『例の作戦』の発動に必要な時間は3時間、十分間に合います。しかし・・・」
「問題は発動するか否か」
沈黙が完全に会議室を占拠する
一昨日、一時帰国していた中国大使が家族とともに日本に来た
外交の秘密を守るために外交官に対する一切の身体・荷物検査は禁じられているが、空港関係者は一瞬で荷物の大半が家財道具である事に気付いただろう
早い話が、中国から逃げてきたのだ
そして昨日、中国大使館にて暴行事件があったと警視庁から連絡が入った
関係者は背筋が凍った事だろう
犯人は数名に噛みつき、取り押さえようとした警備を引っ掻いてそのまま行方をくらました
警察は直ちに被害者を全員保護し、厚生労働省の対策職員に引き渡したが、のちに確認すると人数が足りなかったのだ
つまり都内に、いや日本にウイルスは侵入してしまったのだ
そして今日、麻布消防署からの通報でついに本格的な感染拡大が判明したのだ
これを受け警察は大使館から半径300メートルを緊急封鎖、しかし住民達の中にに情報と感染者が漏れ出した事は間違いない
「私は、実施すべきかと・・・」
「き、君、二十三区だけで何人の人間が住んでいるか知っているのか?」
「我々は避難してもいいのですかな?」
「貴様、そんな事をすれば、一千万の都民は政府に失望するぞ」
「でも、内閣が全滅したらこの事態にどう対処するんです?」
「予備策とかそういう問題じゃない!都民は安全地帯に逃げた政府をどう思うかと聞いてるんだ!」
閣僚の面々の意見は割れた、封鎖するか否かではなく、東京から逃げるか逃げないかに
いつかこんな事態が起こる事は分かっていたのに、いや分かっていたからこそ、覚悟を決め切れなかった者がいたのだ
「実施しましょう、いや、実施するしかありません」
先ほどまで黙っていた伊東が口を開いた
「伊東君、君が特別アドバイザーとして呼ばれているかとはいえ発言は許可を…」
「構わない、伊東君、続けて」
長瀬総理が伊東を促す
「はい、まず重要なのは、中途半端な封鎖では感染拡大は防げないという事です。暴行事件の発生からすでに12間は経過しており、人の足でも十分都外に出ることはできます。疲れを知らない感染者ならば、なおさらです、そして・・・」
伊東は一瞬の間を置く、皆が息をのむ
「閣僚の中に感染者がいる可能性は否めません」
全員が押し黙る、考えればすぐにわかる事実に愕然としたからだ
たとえ閣僚の中に保菌者がいなくても、一緒に逃げたスタッフの中に感染者がいたら意味がないのだ
日本国内に感染者が放たれた以上、人が動いた瞬間に感染は加速する
そんな重要な事を目に見えないウイルスの恐怖で見失っていたのだ
しかし責める事はできない、変えることのできない恐怖から少しでも逃げたいと思うのが人だからだ
「『想定外』で批判されるよりも、『過剰反応』としてマスコミのネタになる方がマシでしょう?」
「「「・・・」」」
普段ならば、一部の閣僚がすぐに怒りそうな伊東の言葉も沈黙をもって受け入れられる
伊東が東京封鎖の概要を話す間も、皆黙ったままだった
そして
「…以上です、総理、ご英断を」
伊東がそう締めくくる
「総理、ご決断を」
覚悟を決めたのか副総理も総理に迫る
「・・・」
「我々は政府なんだ、『過剰反応』をするぐらいがちょうどいい」
2023年2月16日土曜日
『英断』が下った
・・・首都封鎖『当日』
これにてカウントダウン編は終了です
つまり、序章が終わったという事です
今後も一日一話のペースを保ちたいのですが、どうやら難しそうです
とりあえず、明日は投稿しません
次回更新は3月24日、そこで今後の更新ペースを決めようと思っています




