第三章
なんとか隙を見て、このうそつき山賊さんから逃げ出さなくちゃ!
と、
「あっ、しまった!」
ジョンが、慌てている。
そういえば、なんかさっきから焦げ臭いような。臭いが漂ってくる方を見てみる。あらら、ジョンがさっきから火にあぶっていた肉が真っ黒になっていた。
「す、すいません、魔女様。つい、話に夢中になってしまっていて」
ジョンが申し訳なさそうな顔をして、あたしを見ていた。
「ううん、いいのよ。気にしないで」
「いえ、そういうわけには」
そう言ながら、自分のかたわらの皿をあたしに差し出してきた。
「すでに冷めてしまいましたが、よろしければ、私の分をお召し上がりください。こっちの炭は私が食べますから」
「で、でも、そっちは、あなたの分でしょ?」
「いいのです。いえ、ぜひにも、私の分をお召し上がりください。私の失態が原因だとしても、私にとっては、それはとても名誉なことなのですから」
「で、でも……」
困惑しているあたしに、ジョンは無理やり皿を押し付けてくる。
「ぜひ」
グッ…… ここまでやられて、言われて、断るってわけにもいかないじゃない!
ここで断ったりしたら、女がすたるというか、なんというか。
それに、山賊さんとはいえ、ジョンみたいに様子のイイ男が、まるであたしが女王様みたいにチヤホヤしてくれるなんて、今までにない経験。
一瞬、この人はあたしをだまそうとしているんだって、警戒心を忘れてしまったとしても、仕方がないことじゃない? どう思う?
というわけで、あたしはジョンからありがたく、彼の分の皿を受け取ってすでに冷めてしまっている肉片を口の中に放りこんだのだった。
ま、まぁ~! ジューシー。口の中で溶ろけるぅ~
冷めた上に、味付けも塩ぐらいのもの、それほど美味しくないはずだというのに、生まれてから今まで食べていたものはなんだったのかって言うぐらい絶妙な味だった。
な、なんで山賊さんがこんなに美味しいものを……
王宮で出される肉というのは、口の中で溶けるほど柔らかいって噂を聞いたことがあるけど、まさにそんな感じ。ど、どうして……?
も、もしかして、ジョンの言っていたことって、やっぱり本当のこと?
いや、いやいや、そうじゃない! これもこの人たちの手なのよ。あたしをだまそうとする仕掛けの一つなのよ!
でも、ほっぺたが落ちるぅ~ おひしい~
幸せな気分で、ほっぺたをおさえて、ほんのり頬を上気させて、夢見るような瞳で揺れる焚き火を眺めて。
そんなあたしをジョンはうれしそうにしながら、まるで女神を賛美するかのように見つめていた。
今の状況を絵にしたら、きっとタイトルは、愛の女神に供物を捧げる美青年ってところね。もっと、愛の女神があたしじゃ、ちょっと美しさが足りない気がするけど。
――ガサッ!
近くの草むらが大きく揺れる。直後にヌッと大きな影があたしたちのいるくぼ地に飛び出してきた。
レイブンさん。
レイブンさん、頬を赤らめているあたしとうれしげな様子のジョンをジロリと眺め回し、目を大きく見開いている。そして、急にくるりとあたしたちから背を向け、袖で顔のあたりを抑えた。
「おお、陛下、殿下が、殿下が、ついに婦人と…… 陛下があれほど熱心にお望みになられていた孫殿下のお顔を拝見いたす日も……」
なにか、そう小さくつぶやきながら、袖をぬぐっていたようだけど。
う~ん…… きっと聞き間違えよね?
あたしたちは焚き火の始末をして、くぼ地を出発することにした。
相変わらず、ジョンはあたしにすごく親切、紳士的。道の危ない箇所ではあたしに手を貸してくれるし、あたしが退屈しないように、積極的に話しかけてくれる。
一方、レイブンさんはというと、グッと押し黙ったまま。相変わらず昨日と同じ刺すような鋭い視線をしているのだけど、でも、昨日はなかったどこか温かいものがすこしだけ紛れ込んでいるような気がする。気のせいかしら?
道の両側には鬱蒼とした森が広がり、小鳥たちののどかな声が聞こえてくる。
太陽はポカポカと暖かく、森を抜ける風に吹かれて、どこか乾いた平らな草っぱらでお昼寝なんかすると、すごく気持ちいいのだろうけど。
あ、いけない、いけない!
この二人と一緒にいるときに、こんなのんきなことを考えていちゃいけない! いつなんどき、この二人が本性を現してくるかもしれないのに。油断しちゃダメ!
で、でも、いい天気だわぁ~
あたしは、胸の前に抱えているお守りをギュッと抱きしめるのだった。
しばらく、そんな調子でこの平和な光景の中を進んでいたのだけど。
――ヒュン!
なにかが、あたしの耳元を飛びぬけていった。直後に道脇の草むらでガサリと音がする。
えっ? なに?
ふと見ると、レイブンさん、ジョンを背後にかばうようにして立ち、森のほうを睨みながら、剣の柄に手をかけている。
するどく、研ぎ澄まされた視線。緊張感。
羽織っているマントから伸び出ている腕の筋肉が張り詰め、盛り上がっているのが分かる。
――ヒュン!
また来た。今度は、レイブンさんの頭めがけて。でも、ヒョイと首をひねるだけで、その飛んで来たものをよける。
「だれだ?」
ビリビリとあたりの空気が震える大声。たちまち、鳥たちの声が止んだ。でも、レイブンさんが睨み据える先からは、返事なんてない。代わりに。
――ヒュン! ヒュン!
一つ目は、また、首をひねってよけ、二つ目は体を開いて避けた。でも、マントに引っかかって、飛んできたものは下に落ちる。
見ると、銀色の金属の玉。えっと、弾丸?
不意に、あたしの手を誰かがとって、強く引っ張る。
「キャッ!」
「そこに立っていると危ないですよ。こちらへ」
すぐ耳元にジョンの声が聞こえた。気がついたときには、あたし、ジョンのマントに包まれて、ジョンの背後にかばわれるようにして、立っていた。
え、えっ! な、なに?
レイブンさんが、懐に手をいれ、抜きさす手を見せずに体の横に振るう。
――パァーン!
木の幹になにかが突き刺さるような音が森に響いた。その途端、すこし離れた道の向こうに、人影が飛び出してくる。
浅黒い肌、黒い髪。ずいぶん着古した感じの深い緑色のチュニックを着て、腰を茶色の太いベルトで締めている。こんな格好で森の中に潜んでいたら、周囲の下草に溶け込んで、見分けるのは困難だろう。
でも、一点、異彩を放っているのが、その髪に巻かれている真っ青な鉢巻。折角、周囲に溶け込んでいても、あの真っ青な鉢巻を見れば、全て台無しのような気もするのだけど。
木こりさんかな? でも、斧を担いではいないけど。
その人、道に出てくると、腰を落とし、重ねた両こぶしを前に突き出した。キラリと、そのこぶしの脇が光る。小さな刀を握っていて、刃が太陽の光を反射しているのだ。
うっ、まぶしっ!
まともに、あたしの顔に、刃の反射光が当たった。でも、すぐに移動する。って、それって!
急にレイブンさんが、顔を背けた。
やっぱり! 反射光をレイブンさんの顔に当てて、目潰しをしかけてきたのだ。
次の瞬間、その人が間を詰めて来るのが見えた。刃を持った腕をレイブンさんめがけて振るう。
でも、次の瞬間に、急制動して、今度は、後ろに跳ぶ。
レイブンさんとの間にできた空間をなにか巨大な金属質の光が駆け抜けた。レイブンさんの剣が薙いだのだ。
もし、あのまま、あの人が、レイブンさんに攻撃を仕掛けていたら、レイブンさんを切りつける前に、体に剣が叩きつけられていただろう。
「ヒュゥ~~~」
その青鉢巻の襲撃者、感心したように口笛を吹く。けど、油断なくあたしたちを睨んだまま、不意にお腹を抱えるようにしゃがみ、ガバッと腕を開く。
次の瞬間、レイブンさんめがけて、なにかの塊が飛ぶ。石?
「フンッ」
レイブンさんは鼻を鳴らしただけで、マントを払って、その石をよけたのだけど。襲撃者の手、なにか丸いものを握っている。腕を振るった勢いで、そのまま振りかぶり、投げつけてきた。
でも、レイブンさんの方は、先にとんできた石に気をとられているのかして、その投げつけてきた丸いものの方に注意を向けていない! 気がついていない!
あたしが叫びをあげる前に、ジョンが叫んでいた。
「危ない!」
間一髪のところで、レイブンさんがマントで障壁を作る。
――ポトッ!
マントに当たって、その丸いものが小さく跳ね返り地面に落ちた。途端に、丸いものの中から、勢いよく、真っ白な煙が湧き出す。たちまち、あたりは白いもやで覆われる。
もう、あたしの眼にはなにも見えない。ただ、白いもやの中で、なにかが何度かキラリと光った気がした。
「けほっ、こほっ……」
やがて、森を抜けて風が吹き抜ける。しだいに、もやが薄まり、あたりの景色が見えてくるようになった。
そこに見えた景色は……
レイブンさんの剣を首筋に押し当てられ、身動きすら取れない状態になっていた鉢巻の男だった。
「おい、貴様、なんで私たちを襲ってきた? 強盗か、追いはぎか?」
レイブンさんの怒りを含んだ冷たい声があたりに響く。
「クッ、オレの負けだ。降参だ。すまなかった。あやまるよ。だから、この剣を引いてくれないか? ただ、単に、強そうなあんたらを見かけて、その実力を試したくなっただけなんだよ」
「なにゆえだ?」
「あ、その、できれば、この剣を引いてくれないか? 約束する。逃げないから。そしたら、正直に話すからよ。それに、あんたらの実力はよぉく分かったから。な? オレを信じてくれ、な?」
冷や汗を掻いて、レイブンさんに懇願してくるのだけど、レイブンさんの冷たい眼の色は全然変わらない。
「レイブン」
横から、ジョンが声をかける。その声には逆らえないようで、渋々な様子でレイブンさんは剣を引いた。
たちまち、鉢巻男、足から力が抜けたように、その場に崩れる。
「た、助かったぁ。あんた、すげーつぇな。たまげたよ」
レイブンさんに愛想笑いを向けるのだけど、変わらない冷たい眼の色にであって、気まずそうにジョンの方をみた。
「すみませんっした。突然、襲ったりなんかして。悪気があったわけじゃないんすよ」
あっさりと頭を下げた。そして、様子を改めて、
「実は、オレ、今、すんげぇつえ~人を探していて、それで、たまたまここを通りかかったあんたらに眼をつけたんだけなんす」
「おや? それはどうしてですか?」
ジョン、ニコニコしながらも、手は首から提げた例の石をまさぐっている。
「オレ、ジューン・カードといって、この森の近くに住んでいるものです」
「ふむ、それで?」
「オレには妹がいて、そいつも一緒に住んでいたんすが、三日前に、オレたちの家に山賊が押し入ってきて、死んだ親父のコレクションだとか、金目のものとかをもっていっちまって。その上に、うちの妹まで攫いやがって! あいつら、絶対ゆるさねぇ!」
ジョンが、レイブンさんになにか眼で合図している。
「でも、相手は十何人って人数。オレ一人で乗り込んでいっても、全然かなわねぇ。で、その妹や親父のコレクションを取り返すために、この近くの廃墟になった砦に巣くってやがる山賊どもを、一緒に退治しに行ってくれる人を探していたんす」
どことなく、人を小ばかにしたような表情だけど、切々と語りかける口調、とてもウソを言っているようには聞こえない。
でも、冷静になって聞いていると、すごく胡散臭い話。でもでも、話の筋は、一応、通ってはいるようだけど。どっちなんだろう?
「その親父さんのコレクションというのは?」
なにか、考え込んでいるジョンに代わって、レイブンさんが口を挟んできた。
「ああ、オレのおやじっていうのは、このあたりじゃ、ちょっとは名の知れた探険家だったんす。で、あちこちの古代遺跡をめぐって、残されていた魔導書だとか、魔法のアイテムなんかを持って帰ってきて、それを町の領主さんや好事家の金持ちたちに高く売りつけて暮らしていたんすが、その中でも、特に希少価値の高いものは家にもって帰っていたんすよ」
なんか、一瞬、チラリとあたしとあたしの持ち物の方を見た気がするのだけど?
それに、ジョンもあたしのことをチラリと見た。
な、なに? なんなの?
「お願いだ! 妹を助けるために、俺と一緒に砦の山賊たちを退治してくれないか?」
鉢巻男はペコリと頭を下げた。
「どうします、魔女様?」
「どうしたものかしら? あなたはどう思う?」
「そうですね。あの者の言っていたことは、半分ウソで、半分は本当のことのようです」
「え?」
ジョンは、ネックレスをあたしにかざした。
「これが、そう教えてくれました」
「そ、そうなの……」
たちまち怪しさ倍増! そんなウソに、あたしだまされないわよ!
「もし、魔女様がお急ぎの旅でないようでしたら、あの者についていって、山賊退治を手伝ってみるのもいいかもしれませんね」
って、あんたも山賊でしょ?
なんて、考えた瞬間、気がついた。
あ、もしかして、あの鉢巻男が言っていた山賊って、この人の仲間なんじゃ? もし、そうなら、そんなところへ、のこのこ出かけたりしたら……
ブルッと一瞬震える。
「そうね。どうしようかしら……」
考えるのよ、あたし! しっかりと考えるの! なんとか、山賊たちがいるという砦へ近寄らなくて済むように話をもっていかなくちゃ!
「それに、魔導書や魔法のアイテムがあるらしいですし、魔女様も興味がおありなのでは?」
「えっ?」
『どうして?』って、口にしそうになって、グッと口を押さえる。
危ない危ない。今のあたしは、魔女を演じているのだから。いやしくも魔女たるものが、旅の途中で出あった魔導書に興味をしめさないなんてヘンな話だ。魔法のアイテムを見たがらないなんてありえないだろう。
魔法が書かれた魔導書。
古代の遺跡で時折見つかり、たまに地上に現れるけど、そのどれもが今は失われた高度な魔法に言及したものだし、きわめて貴重なものだと、ファム伯母さんから聞いたことがある。
魔法使いにとっては、魔導書に出会うというのは、新しい魔法を覚えることと同じ意味だし、そんな機会が与えられて、逃す者など、まずいないだろう。
ああ、それで、さっき、あの鉢巻男もジョンも、あたしのことをチラリと見たのね。
今さらながら、理解した。でも、でも、それって。
クッ…… 魔女を演じている限り、あたし嫌でも、砦へ向かわなくちゃいけないってことじゃない!
は、はかられたぁ~
い、今さら、あたしが魔女じゃないなんていっても、この人たち信じないよね?
いや、信じたとしたら、それはそれであたしがさらに危険な目に遭ってしまう。なにしろ、この人たちは、あたしが魔女で、魔法を使えるから、慎重に行動しているのであって、あたしが魔女ではないってバレたら、すぐに本性を見せてくるに違いないのだし。
ムムム。し、仕方ない。
「わ、分かったわ。行きましょ。その砦とやらに」
「はい、そうですね。そうしましょう」
ジョン、ニコリと微笑むのだった。
クッ、やっぱり、してやったりって顔してる! ど、どうしよう。はやく、はやく、逃げなきゃ!
あたしたちは、鉢巻男・ジューンの案内に従って、少し行った先の脇道にそれた。
獣道にも似た荒れた道をたどり、さっきよりももっと鬱蒼とした森の中へ踏み分けていく。たちまち、方向感覚を失った。日の光も届かない森の中。梢の方からは、あたしたち侵入者にそれ以上近づくなと警告の声をかける鳥たちの鳴き声が降ってくる。
不安。これからなにが起こるのだろうという恐怖。
今すぐにでも走り出し、来た道を引きかえしたい。でも、もうどこが道でどこがそうでないのかも判別がむすかしい。一人では、絶対に、さっきの道に戻るなんて、もう不可能。
あたし、刻々とワナに飛び込んでいっている。そんな感覚がチクチクとあたしの肌を刺す。
か、帰りたい! あのなつかしのカインバラの町に戻りたい!
じわりと、あたしの視界が滲んだ。
でも、慌てて頭を振って、気を落ち着かせようとする。
ここでパニックになったら、この人たちの思うツボ。とにかく、冷静に。冷静になって、しっかり考えて、この場をのりきるの! 落ち着け、あたし! 落ち着くの、あたし!
やがて、どれぐらい歩いたのだろうか、先頭のジューンが振り返って、小声であたしたちに声をかけてくる。
「ほら、そこっす。そこの開けたところにある池の縁に建っているのが、山賊たちのいる砦っす」
見ると、たしかにキラキラと日光を反射している水面がある。そして、その岸辺には、苔むした大きな建物が。
「正面は向こう側にあって、こちらは横手になるっす。向こうの方が道はよかったすけど、山賊どもの見張りに見つかる可能性があったので、こっちの道を通ったす」
「そか……」
「ちなみに、もうちょっと横手の方へ移動すれば、裏口がありますが、普段はカギがかかっているっす」
「うむ、では、ぐるりと回りこんで正面から、入るしかないわけか」
「いえ、大丈夫っすよ。オレ、裏口のカギなら、開けられるっすから」
そういって、懐から針金のようなものを取り出して、ニヤリと笑った。
「うむ。そうか」
レイブンさんが重々しくうなずいた。
あたしたちは、そのまま、森の中で時間をやりすごすことにした。
砦を襲うなら、日が暮れて暗くなってからの方がよいだろうという判断。それまでの間、あたしたちは乾パンや干し肉なんかで、火を使わずにお腹を満たし、男たち3人が交代で見張りをして、すこし横になることにした。
寝苦しい。不安で押しつぶされそう。とてもじゃないけど、こんなときに眠ってなんかいられない!
横になりながら、必死に頭を働かせ続ける。考え続ける。
でも、いくら考えても、よい案なんて浮かばないし、八方ふさがりのまま。まったく絶望的な未来しか見通せない。
眠ることもできず、ただ、体を横たえていただけで、時間がゆっくりと過ぎていった。
と、人の話し声が聞こえた気がして、目を開く。レイブンさんが見張りの当番で、その近くでジューン(ここへ来るまでの道中で、自分のことをジューンと呼んでくれと言っていた)が横になりながら、なにか話していた。
「なあ? あんたらのその胸当て、光ってないか?」
「ん? ああ」
「親父に聞いたことがある。呪いのかかった防具は暗いところで光ることがあるって」
「呪いか……」
レイブンさん、苦笑交じりにつぶやいた。
「なんでも、呪いの防具は、身につけると本来以上の力や不思議な能力を発揮できるようになるが、その防具は着ている者の魂を食って生きているから、いずれ身につけているものを滅ぼしてしまうってな」
「ふふふ……」
「それに、一旦、身につけると死ぬまで脱ぐこともできないとか、いろいろ聞いているぜ」
「そうか。そう聞いているか」
「ああ、あんたらも大変だな」
ジューンが同情するかのように、ポツリとつぶやいていた。
「いつか、その呪いが解けるといいな」
「……」
レイブンさんは、さっきの苦笑を浮かべたまま、それにはなにも答えようとはしなかった。
そ、そうなのか……
そういえば、レイブンさんの着ているものも、ジョンが身につけているものも、ときどき光って見える。
彼らは、呪いのかかった防具なんていう物騒なものを身につけていたんだぁ。そして、その防具をまとっているかぎり、彼らの魂は食い荒らされ、いずれ滅ぼされてしまう。しかも、その呪いの防具、一度装着してしまうと、もう二度と脱ぐことはできないという。
ジューンじゃないけど、同情しちゃうよね。かわいそうに……
ん? って、待てよ。
ハッとひらめいた。そうか、そうだったんだ!
彼らが、あたしをだまそうとするのは、あたしを魔女だと誤解していて、その魔女であるあたしに彼らの着ている防具にかかった呪いを解いてほしいからだ!
あたしの魔法(?)で、自分たちを破滅から救ってほしがっているんだ! だから、こんな手の込んだことをしてでも、あたしが必要だったのね!
分かったわ! これで理解した!
で、でも、あたしにそんな能力なんてあるわけもないのに。あたしに頼っても、なんにもならないのに。
ジョンもレイブンさんも、あたしに頼ったせいで、このまま防具に魂を食べられて、死んでしまうのね。ごめんなさい……
すこし、しんみりとした気分になったけど、強いて、気分を奮い立たせるように、別のことを考えようとする。
だ、ダメよ! 今はそんなことを考えている場合じゃないわ。
ジョンたちには悪いけど、このことを何かに利用して、なんとか無事にあたしが生き延びられる方策を探さなきゃ! あたし自身のために、今のこの苦境を乗り越えるヒントにしなくちゃ!
ほんの少しだけ、希望の光が見えた気がした。たった一つの心細げな明かりだけど。
そして、あたし、そのままストンと寝入ってしまった。きっと、よっぽど疲れていたのね。