別の話① オイラ よっつめ
話の順番がいろいろ前後しますが、あまりこだわらずに読んでいただけるとうれしいですね。
レオと別れてからのオイラは、相変わらず流れに乗って下っていった。
でも、ずい分と流れの幅が狭まってきたような。レオが暴れるのを止めたせいだろうか?
しだいに水が引きはじめ、洪水も収まっていくのだろう。
アイツの種族は、精霊を思い通りに操るという。だから、レオが暴れたので、水の精霊たちも暴れて、こんなことになってしまったのだろう。
水の上にプカプカと浮かぶオイラは、金属の杭のようなものの傍を通りかかる。
通り過ぎて気がついた。あれって、どこかの教会の塔の天辺についているモノなんじゃ?
ってことは、オイラの下、町が丸ごと一つ、沈んでいるってことか。
と、とんでもないことをするヤツ。
やがて、どこかの岸辺に流れ着く。
おそらく、本来なら、ここは丘の中腹なんだろうが、今はあふれ出した河の水が洗う。
久しぶりの大地。
オイラは、安心し、気が抜けた。そして、疲れがどっとでて、気を失うようにして……
ハッ! だれかが、オイラの体を掴んでいる。
目の前には焚き火。
「うまい具合に、こんなものがあったでよ。これでも燃やして、暖をとるべ」
って、オイラを燃やす気だ!
万力のようないかつい両手で、オイラの上半身と下半身を握り締め、力を一気にかけて、オイラの体をへし折ろうと。
――や、止めてくれ! お願いだから。お助け! お助け!
そんなオイラの懇願にも耳を貸さず、さらに、力を込めてくる。体の節々からピキピキと不吉な音が、
――どうか、どうかお助けを! 命を助けていただければ、あなたのために、働きますから!
でも、オイラの声を無視して、さらに体にかかる圧力が増し、
――わかった、わかりました。あなただけでなく、あなたのお子様、そのまた、お子様。七代に渡って、オイラ、お仕えします!
まだまだ、強まる力。
――ヒッ! 七代なんて、ウソです! 末代まで、一生、あなたのご子孫のためにお仕えいたします! だから、どうか、命ばかりは! どうか、命ばかりは!
「こらっ! バカ親父、なにやってるのよ!」
不意に、オイラにかかっていた力がなくなった。
「痛ぇな。なにすんだ! 親を足蹴にするたぁ、何様のつもりだ!」
「はぁ? なに言ってるのよ! 大体、アンタが悪いんでしょ! なんで、そんなもの燃やそうとしてんのさ? 洪水のせいで、掃除道具類が全部流されちゃったから、そいつで家の中を片付けるつもりで拾ってきたのに!」
そういって、オイラを握るいかつい手から、オイラの体を奪っていった。
やわらかい、優しい感じの温かい手。命の恩人。好感が持てる手。
そう、この瞬間から、この手の持ち主こそがオイラの新しいご主人となったのだった。そして、オイラの所有権は、この手の持ち主からその娘へ孫娘へ、代々受け継がれていくことになった。