↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

彼女と僕と、カップ麺。

作者: 廃棄人形
掲載日:2026/09/27

廃棄人形です。

こちらは暇潰しでプロットもなく書いた短編です。推敲もしてないです。


評判が良ければ何かしらでシリーズ化するかもしれないです!

「世界五分前仮説って知ってるかい?」


 少女――というのには少々年齢が惜しいが――は、目の前のカップ麺を見つめながら訊いてきた。

 一週間ほど前、邪魔だからという理由でハサミで髪を切った彼女は、まるで寝癖のようにぼさぼさとなった髪を撫でながらも、その表情は真剣そのものだ。

 だからなのか。

 僕はわざとへらへらと笑いながらそれに答える。


「名前だけは聞いたことあるかなー」

「まぁ、そのままの意味さ」


 そんな僕の様子に怒る様子も呆れる様子も無く、淡々と彼女は言う。


「世界は、実は五分前に出来たばかりだという説。私ら人間の記憶や経験も、この世界で発見された化石や遺跡なども、全て用意された状態で世界が構成されたという話さ」


 そういえば、そんな話だった気がする。思考実験の一種だったっけ。


「中々、荒唐無稽な話だね」

「そうとも言えない。何せこの説は、千九百二十一年に提唱されてから、誰も否定出来ていないなのだから。

 世界、記憶、証拠……諸々が既に用意された上で五分前に世界が構成されたのなら、それを論理的に肯定することも出来なければ、否定することも出来ないのだよ」


 悪魔の証明、に近いのかもしれない。

 居る、若しくは有ることを証明することは、不可能である、ということ。

 しかし、それを目の前のカップ麺を見て言い始めるとは、彼女はよっぽどの変わり者らしい。知っていたけれども。


「じゃあ今、ここでカップ麺を作り始めたら、その瞬間から世界が出来上がった可能性もあるってこと?」

「ふふ。まぁそういうことになるか。お湯はあるかい?」

「ないよ。さっき飲んじゃったでしょ」


 残念、と然して残念でもなさそうに彼女は言う。

 本当にここにお湯があったとしても、きっと彼女はこのカップ麺を作りはしなかっただろう。水もお湯も貴重だし、そもそも、僕らはもう覚(・)悟(・)は(・)出(・)来(・)て(・)い(・)る(・)。

 彼女はその貴重なカップ麺を、見つけやすいようになるだけ高い瓦礫の上に慎重に置いた。


「もし、この世界が本当にその説の元、構成されたのなら…………」


 少しの沈黙。

 その沈黙の間、彼女の言いたいことが判った僕は、彼女から目を離して周囲を見渡す。彼女もきっと、同じことをしているだろう。


「…………これはこれは、随分と鬼畜モードだ」



 ――――世界は、一度滅びてしまった。



 滅びた、という言葉がどこまで意味するのかが分からなかったけれど、彼女と僕はそう表現している。

 随分と二人で歩きまわったが、ここは東京の渋谷。かつて人が行き交い、人で溢れかえっていた場所。人と一緒に過ごすのが苦手だった僕らは、嫌厭(けんえん)していたところ。

 それが今となっては、人(・)だ(・)っ(・)た(・)モ(・)ノ(・)こそあれ、生きている人間は僕らの他に見当たらない。

 高層ビルも少し古ぼけていた家屋も、全てが崩れ落ちてしまった。


「神様とやらが居るとしたら、なんて残酷なのだろうか」

「神様なんて、僕は最初から信じてないけどね」

「なんて罰当たりな。ああ神よ、哀れな仔羊二匹に、どうしてこんな試練を与えたのか!」


 大袈裟に両手を広げる彼女と、大袈裟に肩を竦める僕。

 正反対の僕らは、けれどそれでも、お互いにこの世界で唯一の生存者(なかま)だ。


「その試練に、僕らは負けたんだよ」

「まだ負けてないさ」

「そのセリフ、明日にまた言ってみてよ」

「君は異なことを言うね。死人に口はないよ」


 馬鹿な子を見る目で僕を見つめてくる。理不尽だ。

 若しかしたら――いや、居ないとは言えないか。それこそ悪魔の証明だ。

 きっと、他にも生存者は居るんだろう。僕らよりも希望を捨てず、生き続けようとする主人公のような人たちが。

 僕らはきっと、間違えているんだろう。


「……空が、青いねぇ」

「何が見えてるの。曇り空だよ」


 いつ降ってきてもおかしくない。

 世界を滅ぼした、"黒い雨"。

 雨に触れた人を、動物を、植物を死へと誘う謎の現象。建物さえもその誘いには抗えなかった。

 僕は、その誘いから逃げることが出来たし、数日経って出会った彼女もそうだったらしい。

 あれから……青空は、顔を見せない。太陽も恥ずかしがり屋だ。

 黒い雨が降った時と同じ、薄暗い曇り空だけが世界を覆っている。


「見えるさ。こうして――」


 彼女は開けたその場所に横たわり、瞼を閉じる。

 僕もそれに倣って、彼女の横で眼を閉じた。


「――ほら、見えてくるだろう?」


 その声には少し、泪が含まれている気がした。

 僕は彼女の手を強く握る。


「……ほんとだ。見えるよ」


 僕の声も、震えているのだろうか。

 彼女の手が、僕の手を強く……つよく、にぎる。

 青い空が、みえる。

 "黒い雨"が降る前に見た、最後の空。


「わたしのような変人につきあってくれて、ありがとう」

「こちらこそ……と言いたいけれど、そこはもっと褒めてほしい」

「褒めているさ。こう見えてわたしは、うまれてこのかたゆうじんもこいびともいなかったのだから。

 そんなわたし、に……つきあってくれたの、だか、ら…………」


 そろそろ、世界が構成されて(できあがって)五分経つ。

 研究者だったらしい彼女が遺した、世界でたった二つのカップ麺(クスリ)。

 僕の意識も、少しずつ遠くなっていく。


「……うそ、だよ。こんな、世界で、きみに出会えたから……僕も、たのしかった」

「…………」

「――――?」


 彼女の名前を呼ぶ。

 返事は、ない。

 世界が出来上がり、五分が経ったんだ。


 それなら……ぼくも、もうすぐ。


「…………」


 さいごに、彼女になんて告げようか。

 お別れの言葉か、愛の言葉か。

 悩んでいるうちに……時間がやってくる。


 ああ。

 さいごまで。

 しまらない、なぁ。







 世界五分前仮説。

 世界が構成され、たった五分。されど五分。


 また、新しい世界が生まれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。