私と女性のオカルト現象
目を開けると、そこには一人の女性がいた。黒髪ロングヘアーで、顔はよく見えない。
寝ている私の上に、その女性は乗っている。邪魔だ。今すぐ消えてくれないか。
というか、女性の身体が薄っすら透けている。つまり、これはオカルト現象の類だろうか。
「私はあなたがうらやましい。お願い、人生を代わってほしいの。私はもう耐えられない」
女性はそう言いながら、私に向かって手を伸ばしてきた。女性は不健康なほど痩せた腕をしていて、正直気持ち悪い。BMI絶対低いでしょ、基準値って知っているか。
まあいい。この状況をいかに乗り越えるかが最優先だ。
「私は私の人生で満足しているので、あなたの人生とは変わってあげられませんね。それとも何ですか。あなたは私を満足させるため、どんな対価をくださるのでしょうか」
きっぱり言ってみた。すると、女性は戸惑ったように固まった。
「そんなことを言われても困ります。私の人生がひどいから、あなたに変わってほしいのです。つまり、私に差し出せるものなどありません」
女性は渋々言ってくる。なんでそれでいけると思った。
「お金という対価を支払って、お店でも商品を買いますよね。価値が釣り合わないと、交換は成立しないと思うのですが」
そのように問い詰めてみる。私の人生を、女性が無理やり奪うという選択肢もなくはないが。そういう都合の悪いことはあえて伏せておく。
「悲しいことを言わないでください。私はあなたに憧れていて、ずっと代わりたいと願っていたんですよ。私の気持ちを断らないでください」
女性は寂しそうに言ってくる。そんなこと知らないよ。
「大体、私なんかの何がいいのですか。私の人生もそんないいものではありませんよ」
仕方がないので、自分を卑下する方向に変えてみた。これでどうだろう。
「あなたの見た目が綺麗だったので、うらやましいんです」
女性は怨みっぽく言ってきた。この女性にはそう見えているのか。自分そんな美人じゃないけどな。
「人間の美醜の判断なんて、主観的なものが大きいと思いますよ。美しさの絶対的な基準なんて存在しません。そもそも、時代によって理想の美人像もどんどん変わっていきますし。ネットを見れば分かるでしょう」
とりあえず、そのように伝えてきた。本人の思っている美しさと、他人の思う理想像は、大体違うものだ。
「でも。あなたは素晴らしく美しくしか見えません」
女性が私をひたすら褒めてくる。あんまり嬉しくないな。
「そもそも、なぜあなたは美しくなりたいのですか」
呆れつつも聞いてみる。すると、女性は微かに笑った気がした。
「男性にモテたいんです」
ずいぶん率直な意見をどうもありがとう。だとしたら、この女性は致命的に間違っている。
「私は男性から告白されたこと、ほとんどありませんよ。つまり、ほとんどの男性に人気のない見た目である可能性が、非常に高いということです。女性から冗談半分で愛をささやかれたり、おふざけのラブレターをもらった回数の方が、はるかに多いですね」
はっきりと伝えてみる。すると、女性は驚いたらしく、気まずそうに揺れた。
「そうですか。申し訳ございません。ご迷惑をおかけしました」
女性はそう言って頭を下げ、ふっと消えた。
あの女性に哀れまれて気遣われた事実が、ちょっとつらい。自分はそこまでかわいそうな存在なのか。
いや、自分で自分を下げる方向に誘導したんだから、会話成功ではある。うん。嘆くより喜ぼう。
「というか、今の女性は何だったんだ。幽霊だったのか。でも、あの女性にも人生があるような言い方だった。つまり、あの女性はまだ生きているよね、生き霊かな」
訳が分からない。とりあえず、お布団から出て、おいしいものでも食べて一息つこうか。冷蔵庫には何が入っていたっけ。確認してみよう。
「今見てみたらさ。冷蔵庫に食材がほとんどないんだけど。どうしよう」
仕方がないから。スプーンでお砂糖をすくって食べた。とっても甘くておいしいね。




