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私と女性のオカルト現象

掲載日:2026/03/21

 目を開けると、そこには一人の女性がいた。黒髪ロングヘアーで、顔はよく見えない。


 寝ている私の上に、その女性は乗っている。邪魔だ。今すぐ消えてくれないか。


 というか、女性の身体が薄っすら透けている。つまり、これはオカルト現象の類だろうか。


「私はあなたがうらやましい。お願い、人生を代わってほしいの。私はもう耐えられない」


 女性はそう言いながら、私に向かって手を伸ばしてきた。女性は不健康なほど痩せた腕をしていて、正直気持ち悪い。BMI絶対低いでしょ、基準値って知っているか。


 まあいい。この状況をいかに乗り越えるかが最優先だ。


「私は私の人生で満足しているので、あなたの人生とは変わってあげられませんね。それとも何ですか。あなたは私を満足させるため、どんな対価をくださるのでしょうか」

 

 きっぱり言ってみた。すると、女性は戸惑ったように固まった。


「そんなことを言われても困ります。私の人生がひどいから、あなたに変わってほしいのです。つまり、私に差し出せるものなどありません」


 女性は渋々言ってくる。なんでそれでいけると思った。


「お金という対価を支払って、お店でも商品を買いますよね。価値が釣り合わないと、交換は成立しないと思うのですが」


 そのように問い詰めてみる。私の人生を、女性が無理やり奪うという選択肢もなくはないが。そういう都合の悪いことはあえて伏せておく。


「悲しいことを言わないでください。私はあなたに憧れていて、ずっと代わりたいと願っていたんですよ。私の気持ちを断らないでください」


 女性は寂しそうに言ってくる。そんなこと知らないよ。


「大体、私なんかの何がいいのですか。私の人生もそんないいものではありませんよ」


 仕方がないので、自分を卑下する方向に変えてみた。これでどうだろう。


「あなたの見た目が綺麗だったので、うらやましいんです」


 女性は怨みっぽく言ってきた。この女性にはそう見えているのか。自分そんな美人じゃないけどな。


「人間の美醜の判断なんて、主観的なものが大きいと思いますよ。美しさの絶対的な基準なんて存在しません。そもそも、時代によって理想の美人像もどんどん変わっていきますし。ネットを見れば分かるでしょう」


 とりあえず、そのように伝えてきた。本人の思っている美しさと、他人の思う理想像は、大体違うものだ。


「でも。あなたは素晴らしく美しくしか見えません」


 女性が私をひたすら褒めてくる。あんまり嬉しくないな。


「そもそも、なぜあなたは美しくなりたいのですか」


 呆れつつも聞いてみる。すると、女性は微かに笑った気がした。


「男性にモテたいんです」


 ずいぶん率直な意見をどうもありがとう。だとしたら、この女性は致命的に間違っている。


「私は男性から告白されたこと、ほとんどありませんよ。つまり、ほとんどの男性に人気のない見た目である可能性が、非常に高いということです。女性から冗談半分で愛をささやかれたり、おふざけのラブレターをもらった回数の方が、はるかに多いですね」


 はっきりと伝えてみる。すると、女性は驚いたらしく、気まずそうに揺れた。


「そうですか。申し訳ございません。ご迷惑をおかけしました」


 女性はそう言って頭を下げ、ふっと消えた。


 あの女性に哀れまれて気遣われた事実が、ちょっとつらい。自分はそこまでかわいそうな存在なのか。


 いや、自分で自分を下げる方向に誘導したんだから、会話成功ではある。うん。嘆くより喜ぼう。


「というか、今の女性は何だったんだ。幽霊だったのか。でも、あの女性にも人生があるような言い方だった。つまり、あの女性はまだ生きているよね、生き霊かな」


 訳が分からない。とりあえず、お布団から出て、おいしいものでも食べて一息つこうか。冷蔵庫には何が入っていたっけ。確認してみよう。


「今見てみたらさ。冷蔵庫に食材がほとんどないんだけど。どうしよう」


 仕方がないから。スプーンでお砂糖をすくって食べた。とっても甘くておいしいね。

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