エクリプスのトップに立つ男
《ロイド(デケム)目線》
東領から離れ、一週間でエクリプス研究所まで帰った。
執務塔に踏み入った瞬間、いつも俺の周りにうろついている下っ端が泣きながらしがみついてきた。
「デケムさまあああ~!帰ってきてくれて良かったです!上層部の方達が大変お怒りでしたよ~」
鬱陶しい。
「それをどうにかすんのがお前の役割だろうが」
俺を引っ張っている下っ端を蹴り飛ばす。
「ノイルはいるか?用がある」
「所長なら、ご自分の執務室にいらっしゃるはずです」
「そうか」
地面に倒れている下っ端に目もくれず、俺はその場を離れた。
「あ、デケム様、ちゃんと戻ってくださーい!溜まっている書類が――」
――――
目的の部屋に辿り着き、ノックをせずに扉を開けて入った。
「やあ、デケム。一月近く会っていないねえ。どこに行ったんだい?」
真ん中に置かれた机に、深緑の癖っ毛の男が座っていた。
男――ノイルは笑っていた。
俺が長い間帰ってきていないことを、ちっとも気にしていないかのように。
「東領のファルムだ。あそこの領主は殺された」
「そう、報告ご苦労。こっちから対処しとくよ」
「余裕そうだな。仕入れ場が一つ潰れたというのに」
「まあ、あそこは常々切りたいと思っていてね。最近、報酬への要求がエスカレートしてきたから、強制的に領主交代させようかなと考えていたんだ」
彼は楽しそうに手を振った。
「それでー、報告はそれだけかい?君のご執心なウームデキムの情報は?」
「……ねえよ。見つからなかった」
ノイルは目を細めながら、微笑んだ。
「ふーん。君は彼女のことになると、わかりやすい嘘をつくんだね」
「……何のことだ」
この男を騙せるわけがない。
それでも俺はしらを切る。
「だって君が、あの子を見つけずに帰ってくるはずないじゃないか。君は狂気を感じられるほど、彼女に拘ってるから」
ノイルは立ち上がり、後ろにある窓の外を眺めた。
「しかし、何回見てもわからないね。彼女の何が、君をこう崇拝させているのか」
「お前にわかられたくねえよ。気持ち悪い」
ノイルは俺の彼女への執着を、崇拝と名付けた。
それは間違いだ。
俺はあいつの言葉を全て鵜呑みにし、盲目に信じてるつもりはない。
でも、矯正するつもりもない。
あいつへの感情は、言葉だけで説明できるものじゃない。
「酷いなー。幼い頃から知り合った仲じゃないか。もっと優しくしてくれてもいいと思うけどね」
「お前と会ってたのは、ガラス越しだ」
「僕は心の中で、君達を親友だと思っていたんだよ」
こいつは何を言ってんだ。
気色悪いな。
「で、君はこれからどうするんだい?」
「彼女がいないここに用はない」
「悲しいね。君も去ってしまったら、僕は寂しいよ」
「お前に寂しいという感情があったのか?」
彼は俺に向き直した。
相変わらず笑顔だ。
ちっとも寂しそうじゃない。
「それに、ウームデキムが去ったことで、スポンサー達がすでにカンカンだ。国境を封鎖してまで彼女を見つけ出そうとしてたのに、君までいなくなったら、僕が怒られてしまうよ」
「お前はウームデキムが逃げ出したことに、何とも思ってないようだな」
この男は始終余裕そうに構えている。
積極的にあいつを探す動きを見せない。
「心外だなー。寂しく思ってるよ。でも――」
彼の黒い目がギラつく。
「彼女がいなくなったら、また育てればいいのさ」
「……そうかよ」
俺は彼に背を向け、部屋から出ようと歩き出す。
「報告はもうねえから、俺は出る。探すなよ」
「えー、君もいなくなったら困るんだけど」
ドアノブに手をかけたまま、俺は頭だけ彼に向ける。
「お前が言ったんだろ。また育てればいいって」
そして、部屋から出た。
「やれやれ、少し甘やかしすぎたかな」
机の上に置かれていた、赤黒い液体の入った小瓶を指でいじる。
「君のような実験体を育てるのは、ウームデキムと同じ実験体を育てるより面倒だよ、デケムくん」
ここでSecond Showは幕を閉じます。
ご愛読ありがとうございました。
ご感想をいただければ、創作のモチベーションになります。
この章でメロい男ーーデケムもといロイドが登場しました。
個人的には結構お気に入りなキャラクターですが、いかがでしたでしょうか?
仲を徐々に深まっていくリリィとカイの関係性も気になります。
まだまだ続編を書いていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。
なお、同時進行で新たな作品、《人間から嫌われている私は、魔族に愛される魔女だったらしい》を創作中です。
そちらはがっつりの恋愛ストーリーなので、ご興味ありましたら、是非読んでください。
今後ともよろしくお願いいたします




