答え合わせ
あの暗殺決行の日から二日が経った。
案の定、領主が暗殺されたことで町はしばらくその話題で持ちきりだった。
けれど、ウィルさんの言う通り、人々は今まで通りに生活している。
その朝、私はウィルさんを呼び出した。
「あなたからわたしを呼び出すなんて、珍しいですね」
「ウィルさんに聞きたいことがあります」
ウィルさんは紅茶を淹れ、私の前に置いた。
「聞きたいことは? ちなみにわたしの好みは、少しおっとりした女性ですよ」
聞いてもいないのに女性の好みを語る。
私ではないということだけは分かった。
「ウィルさんは、双子達をどうしたかったんですか」
ウィルさんは紅茶に口をつけようとした手を止めた。
「と、言いますと?」
「あなたは最初から、双子達を両親に会わせようとしていましたよね」
ウィルさんは空き地の使用許可を取るため、領主邸に入っている。
なら双子達の両親――アケドール夫妻を見かけてもおかしくない。
だから屋敷では、私にあの指示を出せた。
「やはり鋭いですね」
ウィルさんは小さく笑った。
「わたしも他人の家庭事情に踏み込むほど暇ではありません。ただ、あの双子はまだ幼い。選択肢を与えるべきです」
「選択肢とは?」
「自分を捨てるか、他人を捨てるか、です」
今度こそ紅茶に口をつける。
「双子達がサーカスに入る時、彼らの父親に会いました。貴族の子供を預かる身ですから、挨拶は必要でしょう」
アケドール卿はサーカスのことを知っていた。
だからあの時、彼だけが比較的冷静だったのか。
「その時、アケドール卿に頼まれました。『あの子達は少し他の子と違う。情けない話だが、我々の手には余る。妻には内緒にするので、どうか代わりに導いてほしい』と」
少し驚いた。
「今回のことが、あなたの導きの結果ということですか」
「わたしが子供を導くなど、大それたことをすると思いますか?」
意地悪な返しだ。
「彼らは光の中に生まれながら、闇を抱えた子です。だから両親とは相容れない。しかし光に馴染もうとしている。このままでは、いずれどちらかが崩壊する。だから一度、きちんと選ばせるべきでした」
「光を受け入れるか、自分の闇に生きるかを……」
「ええ」
理解した。
彼なりの責任の取り方なのだろう。
「質問がそれだけなら、次はわたしから」
「何ですか?」
ウィルさんは今度、探るような目を私に向ける。
「サックスからの報告がありました。りりィ様は赤い瞳の男性とお知り合いのようですね」
あの執務室でのことか。
いずればれるだろうと思ったけど、こんなすぐとは。
「りりィ様は、エクリプスの関係者ですか」
「そうですよ」
間を置かずに答える。
別に隠すことはない。
この国では、エクリプスに入るだけで、優秀というレッテルが張られるくらい、光栄なことだ。
――表向きには。
「よくわかりましたね」
「個人的に調べているので、知っているのですよ。赤い目をした闇部隊について」
これを知っているということは、彼はかなり深いところまで調べているのだろう。
「あなたの正体を暴く気はありませんが……あなたの目的は、エクリプスから逃れることでしょうか」
ウィルさんにとって、これこそ本題だろう。
「そうですね……今のところはそうでしょうか」
「おや、目的は定めてない感じでしょうか」
ウィルさんのいう通り、私にははっきりとした目的はない。
とりあえず、あそこから逃げ出しただけ。
本当はロイドに連れ戻されても、きっとどうでもいいのだ。
(でも、私はまだ答えを探している)
「なら、わたしに協力していただけますか」
ここで、ウィルさんからお誘いが来た。
「協力、とは?」
「実はわたし、エクリプスを潰そうと思いまして」
彼は満面の笑みで、怖いことを言ってきた。
領主の暗殺よりも、国を揺るがすようなこと。
「随分大胆なことを考えていますね」
「個人的にあそこが気に入らなくてね。あなたが協力してくれれば助かりますけど」
「……」
さすかに即答できない。
あそこから逃げる度胸はあっても、喧嘩を売る無謀さはない。
「一緒にエクリプスを潰そうとは言いません。あなたにはサーカス入団し、情報提供していただきたいのです。その代わり、あなたの安全を引き続き保障します。あなたの目的も協力します。あなたに損はさせません」
正式なスカウト、ということか。
正直私も、あそこから離れたいという曖昧な目的だけで、行動している。
ここで彼に協力することも、悪くないかもしれない。
それに、あの双子、カナ、サックス、そしてカイ……
彼らを見てたら、答えのヒントが見つかる予感がした。
「――別にいいですよ」
なんとなく答えた。
ウィルさんは満足げに微笑み、私に右手を差し出す。
「これからあなたの、サーカスの一員です。よろしくお願いいたします。」
私も手を差し出し、彼の手を握りしめた。




