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シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
Second Show

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50/55

覚悟

 私は隠し部屋から盗み出した契約書を服の中に隠し、カイと階段まで駆け抜ける。


 その間に、カイは珍しく私に問いかけてきた。


「あの男は、お前のなんだ」


 さっきの会話が気になったらしい。

 

「よく一緒に組んだ、仕事仲間だよ」


 ロイドはそう思っていないかもしれないけど、少なくとも私にとって、ロイドは信頼できる仕事仲間だった。


「じゃ、俺は……」

「うん?」


 カイがまだ何かを呟いた気がするけど、仮面の中にこもっていて、よく聞こえなかった。


 やがて階段にたどり着くと、一匹のカメレオンが手すりの上にいた。


「この子、カナのところのミーミだよね」


 そのカメレオンの体には、小さな紙が巻き付けられている。


 それを取って、広げる。


『屋敷の庭にいます。この者達を連れて来るように……』


 そこには人物の名前と、いるであろう部屋の位置が書かれている。

 たぶん、ウィルさんからの指示だ。


 少し遠回りになるけど、ロイドが戦闘不能の今、サックス達だけでも大丈夫だろう。


「カイ、先に二階へ向かうよ」


 彼は無言で私について行った。


――――


《ニナ目線》


 私達はシーツを長く結び、窓の外に放り出す。

 それを伝って、一人ずつ庭へ降りていく。


 全員が降り切ったのを見て、私は適当に置いてあった鎌を、ニノは斧を持ち上げる。

 それを、思いっきり窓ガラスにぶつける。

 

 サックス兄さんは、いつでも戦いを始められるように、槍を構える。


「ニノ、楽しいね!」

「うん!楽しいね!」


 やがて大勢の警備員達が迫ってきた。


 農具は私とニノにとって重すぎるから、適当にその辺に放り捨てる。

 代わりに、いつも使っている針付きの縄を取り出す。

 

 今でこそカイ兄さんに糸で方向転換を手伝ってもらっているけど、元々これはニナとニノの特技なのだ!


 警備員たちはすぐそこまで迫っている。ニナとニノは縄を木に向かって投げる。

 針を使って縄を固定し、私達は飛び上がる。


「おい、そこの侵入者、おとなしく、うあ!」


「うおおおおー」

「やああああー」


 笑いながら縄を操って、近づいてくる警備員達の間に割って入る。

 それだけで警備員達は慌てて避け、体勢を崩す。


「はあああっ」

 サックス兄さんが私達の間を通り抜けて、警備員達に襲い掛かる。


 向こうには人が多いが、サックス兄さんは槍を大きく振り回すことで、一気に多くの警備員を薙ぎ払う。


 警備員達の後ろから、野太い声が聞こえる。


「貴様ら、大人の方は殺していい!子供の方は捕らえろ!」


 私は飛ぶ勢いを利用して、木の上に登る。

 後ろの方を覗く。


 太ったおじさんがパジャマを着て、叫んでいる。

 しかも、鼻の下に綺麗に曲がったちょび髭が付いている。


「ぷっははははは、ニノ、あのおじさん面白い顔してる」

「そうだろう!ニナに見せたかったんだ!」


 ニノはブランコのように縄で揺れながら、手当たり次第、警備員達の頭を踏みつける。

 それらを、サックス兄さんは死なない程度にとどめを刺す。


 警備員達は剣を持っているけど、あたふたしている。

 私とニノに向けていいのか分からないのだろう。


 サックス兄さんはそんな警備員達を次々と倒していく。


「ニノ、あの男が領主か?」


 警備員達が弱すぎるのか、サックス兄さんは余裕な態度でニノに聞く。


「そうだよ!ファットマンっていうんだ。名前も面白いでしょう!」

「そうだな……面白すぎて、斬りかかりたい」


 サックス兄さんから黒いオーラが出てきた。

 今朝の光景を思い出したからかな。


 そんなことを考えている間にも、警備員達は次々と倒されていく。


「ひいいいいい、貴様ら、何簡単に倒されている!立たんか!」


 サックス兄さんが一歩ずつ領主様に近づいていく。

 領主様の顔は徐々に恐怖に染まっていく。

 

(あの顔……面白い)


 抑えきれず口角を上げる。


「ねえ~サックス兄さん~」


 サックス兄さんは立ち止まる。


「領主様を殺すの、ニナがやっていい~?」


 私は縄を回収して、木から飛び降りる。


 立っている警備員はもうほとんどいない。

 私は落ちている剣を適当に拾い上げた。


 ニノも縄を回収して、私の隣まで走ってきた。


「いいね。僕も一緒にやるよ」


「ひいいい、ち、近づくな」


 領主様は地面に倒れ込む。

 

 「……」

 サックス兄さんは何も言わない。

 彼も領主様を殺したいかもしれない。


 でもダーメ♡

 ニナは領主様の歪んだ顔、一番近くて見たいの♡


 「ニノ!」

 女の人の声が聞えた。

 とても聞き慣れた声だ。


 心が一気に冷え切った。

 領主様の後ろの、遠くない位置に、パパとママがいた。

 その隣にりりィ姉とカイ兄さんちゃんがいた。


 りりィ姉ちゃん達が連れて来たのかな。


 ママの目から怯えが見える。

 今にも泣きだしそうだ。

 隣のパパはそんなママを支えているけど。

 彼も心配そうな顔だ。


 「ニノ、危ない!速くこっちに来なさい!」


 ママは必死に叫ぶ。

 でも、ママはニノの名前だけ読んでいる。

 なんで?

 ああ、ニナは仮面をつけているから気づかないかな。


 「ニナも剣を捨てて、こっちに来なさい!」

 「ニナ?あの子ニナなの?」


 パパがニナを呼んでいる。

 それなのに、ママはニナがわからない。

 なんで?

 仮面越しでも、ニノはわかるのに。

 なんでニナはわからないの?


 ああ、どうしよう。

 心の奥から黒いもやが沸き出てる。

 ダメ、抑えなきゃ。

 これは、『お母さん』に向けていい感情じゃない。


 「はっ……っ!」

 地面で座り込んでいた領主様は、ニナの動きが止まっているのを見て、すぐ這い上がってパパとママの方に逃げた。

 ああ、ニナのせいで暗殺が失敗する。


 逃げていく領主様を、カイ兄さんはあっけなく捕まえる。

 刀を取り出して、領主様を刺そうとしたけど、りりィ姉ちゃんが止めた。

 りりィ姉ちゃんの、きれいなアメジストの目は、私を見ている。


 どうしてカイ兄さんを止めたんだろう。

 どうしてニナを見るんだろう。

 ニナはどうすればいいの?


 ふっと、剣を握っている手を、暖かい手で包まれる。

 ニノの手だ。


 横にいるニノに顔を向ける。

 ニノは優しく笑っている。

 ニノはきっと、私が覚悟を決めるのを待っている。

 

 私は剣を握る手の力を緩めた。

 剣が、私の手から滑り落ちた。

 パパとママはすぐ安心そうな表情を見せた。


 「そうよ、ニナ、ニノ。こっちにいらっしゃい」

 ママは私達を迎え入れようと、両手を広げた。

 でも、私もニノも、一歩も動かない。


 「ニナ?ニノ?」

 ママはまた不安そうな表情を見せる。


 頭に大きいな手が乗せられた。

 サックス兄さんの手だ。

 「領主は俺達が処理する。お前らは自分のことだけを考えてろ」


 そしてサックス兄さんはカイ兄さん達と、この場を去った。


 ニノの手を握りしめる。

 なんって言ったらいいんだろう。

 そもそも私達の言葉は、ちゃんと届くかな。


 「お父様、お母様」

 ニノが先に声を出した。


 「僕たちは、家に帰りません」

 はっきりと、ニノは言った。


 ママはとても驚いた顔をした。

 「何を言っているの、ニノ?もう大丈夫よ、パパとママが守ってあげるから」


 それでも、私達は動かない。

 私は大きく深呼吸した。

 「ニナはもう、ママのニナじゃない」

 

 もう一度ニノの手を強く握る。

 「ニナもニノも、もうママの自慢な子供になれないから、家に帰らない」


 ママはとても傷づいた顔をした。

 目からポロポロと涙が溢れ出した。


 でももう、ニナとニノは戻らない。

 戻らないんだ。

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