表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
Second Show

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/55

譲れない

 私達のいる小さな部屋で、カイとロイドが激戦を繰り広げている。

 ロイドが振り下ろしたかぎ爪を、カイは小刀でさばいていく。


 二人の実力は拮抗している。

 一瞬でも気が抜けたら、勝負が決まる。


 部屋の外から足音が聞こえる。

 大勢の足音だ。


 この部屋から気配を感じたのか、ほとんどの足音は扉の向こうで止まった。

 やがて扉の鍵が開けられた。


 数人の警備員が入ってくる。

「動くな!侵入者め!」


 それでも、カイとロイドは止まらない。

 警備員達を視界に入れない。


 入ってきた警備員達は、目の前の激戦に圧倒され、身動きが取れない。

 邪魔してしまえば、死ぬのは自分だ。


 それでも目の前の状況を打開したく、一番先頭に立っていた警備員は私に目を向けた。

 あの激戦に巻き込まれないように私に近づき、手を伸ばす。

 私が反応する前に、肩をつかまれた。


「おい、お前ら!この女を傷つけられたくなければ、すぐ止め――」


 警備員の顔から一滴の血が流れ出た。

 その隣にロイドのかぎ爪、そして首筋にカイの刀が当てられていた。


 「「彼女に触れるな」」


 二人の声が重なった。

 二人の目は恐ろしいほどぎらついている。


「ヒッ!」


 私の肩をつかまえていた警備員が、力が抜けたように地面へ滑り落ちた。

 他の警備員も息を飲む。


「えい、何の騒ぎだ!」


 ちょうどその時、パジャマを着たふくよかな男が警備員達をかき分けて入ってくる。


 彼はすぐ、私が立っている隠し部屋に目を向けた。

「なっ、なぜお前らがその部屋を!」


 彼は騒ぎの元であるカイとロイドを見た。

「なんだ、そのふざけた仮面は!それに貴様――」


 彼の視線はロイドの顔で止まった。


「貴様、その赤い目……エクリプスの執行部隊か」


 ロイドはゆっくり手を下ろし、その男の方に向ける。


「エクリプスの人間がなぜここで暴れている!これは立派な契約違反行為だぞ。エクリプスに弁償を要求してやる!」


 ロイドは冷たい空気をまとわせたまま、その男に近づき、そのパジャマの襟をつかみ上げた。


「ファットマン卿、今は大事なところなんだ。弁償でも何でも好きにしろ。俺の邪魔をするな」


 その圧のかかった声と恐ろしい瞳に脅され、男――ファットマンはロイドに怯み、彼の手から逃れようとして後ずさり、地面に倒れ込んだ。


 部屋の外から叫ぶ声が聞こえた。

「おーい!一階にも侵入者がいるぞ!」


 それを聞いて、ファットマンはすぐ立ち上がった。

「こ、ここは貴様に任せてやる!その部屋にあるものを奪われるんじゃないぞ」


 それだけ言い残し、彼は逃げるかのように走り去った。

 大半の警備員を連れて。


 残りの警備員はここから逃れたいようだが、言い訳を失って立ちすくんでいる。

 最終的に全員そこから去った。

 それにロイドは目もくれず、カイの方に向き直った。


「お前、何者だ。俺の動きについてこれるとは」


 カイは何も答えず、ただ仮面越しにロイドを睨みつけている。


「答えねえか。その仮面、ピエロってやつか」


 カイは小刀を握りしめ、構え直す。


「あれか、表世界で生きてきたやつがダークヒーローごっこでもしてるのか。とんだ道化だな。お前にぴったりだ」


 ロイドは煽り続けるが、カイは反応ひとつ示さない。


「口もきけねえのか。心を失った悲劇の主人公でも演じてるつもりか」


 そこでようやく、カイが微かな声を発した。


「――お前に、何が分かる」


 仮面越しで表情は分からないが、カイの声色は凍りつくほど冷たく、重い。


 ロイドはふっと吹き出す。

「ふん。やっとおしゃべりに付き合う気になったか」


 ロイドはかぎ爪を嵌めた両手を構えた。


「お前のことは分からねえし、分かる気もねえ。ただな――」


 ロイドは笑顔を引っ込めた。


「本当の闇を受け入れたことがねえやつに、りりィの隣に立つ資格はねえんだよ」


 その言葉の終わりを合図に、二人は再び武器を交えた。


 私はただそこで立ち尽くし、この戦いを眺める。


 カイの実力は私の想像以上だ。

 ロイドと長い時間やりあえている。


 私が何をしても、この戦いに影響を及ぼすことはない。

 ただ邪魔になるだけ。


 私にできることは何もない。


(それにしてもカイ、息が全然上がっていない)


 ロイドはともかく、訓練し慣れた人でももう疲れを感じ始める頃だ。

 それなのにカイは疲れを見せないどころか、動きが全然鈍らない。


(いや……逆に速くなっている?)


 私はロイドの戦いを何回も見たことがあるから、大体の動きは見える。

 でも、カイの動きが段々と追えなくなっている。


 これは……うれしい誤算だ。

 サーカス全員がロイドに負かされるのを想像していたけど、まさかカイのポテンシャルがここまでとは。


 これなら、タイミングを見てロイドに隙を作らせるだけで、カイは勝てる。


 さて、どうするべきか。


 ロイドに隙を作らせることは、地味に難しい。

 どんな痛みでも動じないように訓練されている。


 そこで私は、赤い玉のイヤリングに目を向けた。


 これは賭けだ。

 うまくいく保証はない。

 

「カイ、イヤリング!」


 ロイドはすぐ反応し、手でイヤリングを隠そうとした。


 ――カイはそれを見逃さなかった。


 次の瞬間、カイの刀はロイドの腹を貫いた。


 ロイドは驚いたように目を見開き、地面に座り込む。


 カイはその前に立ち、とどめを刺そうとしたが、私はその手を止めた。


「……少し、私に彼と話させて」


 カイの手から力が少し抜けるが、刀を離すことはなかった。


 私はロイドに目を合わせるようにかがむ。


「……私を連れ戻さないって約束してくれたら、治療してあげる」


 ロイドは地面に視線を向けたまま、私の手をつかみ、自分の顔に当てた。


「お前は、俺を捨てたんじゃないのか」


「あなたを捨てられるほど、私は偉くないと思うけど」


 ロイドは皮肉な笑顔を浮かべた。


「お前がそう思ってなくても、俺は……お前がいないことを、受け入れられてねえんだよ」


 私の何が、彼をこう執着させているのか分からない。


 私は精一杯の言葉を彼に送る。


「私が何も言わずにあそこから離れたのは、私のやろうとしたことにあなたを巻き込みたくなかったからだよ」


 彼の目は少し潤んだ気がする。


「はっ、お前は相変わらず、他人のこと何も分かってないんだな。……お前が言ってくれれば、俺は喜んで巻き込まれてやるのに」


 屋敷の一階から騒ぎの音が聞こえてくる。

 そろそろサックス達と合流しないと。


 私は立ち上がり、カイとこの部屋を出ようとした。


「お前が話すまで、俺は諦めないぞ」


「……そうだね、あなたはそういう人だ」


 私は彼に背を向けて笑った。


「そのイヤリング、大事にしてくれてたんだね」


 それだけ言い残して、私はカイと一階に向かった。


 ロイドはその部屋でただ一人、呟いた。


「お前がくれた唯一のものを、大切にしないわけないだろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ