今度こそ、一緒に
《ニナ目線》
「僕はね、ニナがいれば、お母様に何と言われても耐えられるよ。でも、ニナが笑えないなら、僕はあの家を捨てられるよ」
――ニナは、僕の光だから。
ニノは真っ直ぐ、迷いのない眼差しを私に向ける。
これは強がりじゃない。
ニノは、私のためならなんだってできる。
私はボロボロと涙をこぼした。
そんな私を見て、ニノは手をあわあわさせる。
「ニナ、どうしたの? 僕が勝手なことをしたから、怒った?」
私は手の甲で涙を拭きながら、必死に首を振る。
「違うの……ニナは、嬉しくて、悲しいの」
感情がぐちゃぐちゃになっている。
ニノの気持ちを知れて嬉しいはずなのに、
今までニナのためにいっぱい我慢してくれたんだと思ったら、すごく悲しい。
うまく言葉にできないけれど、それだけは伝えたい。
「ニノはニナのこと、ヒーローって言ってくれたけど……ニナにとって、ニノは王子様なんだよ」
今度はニノがキョトンと目を丸くした。
ニノがいっぱい伝えてくれたから、私も頑張って伝えよう。
「ニナは、普通ができないの。だからママは、ニナのこと好きじゃないの」
ずっと分かっていた。
ママは最初、とても優しかった。
でも、いつの間にか私の話を聞いてくれなくなった。
だから私は、“かわいい普通のニナ”になろうとした。
いつかママが、もう一度ニナを好きになってくれるって願って。
それでも、時々息苦しくなる。
そんな時、ニノが本当の私を見つけてくれる。
「ニノは、ニナが辛い時に現れてくれる王子様なの」
私の好きなぬいぐるみをこっそり持ち出したり、
使用人の目を盗んで木登りに誘ったり。
ニナが、ニナでいられるように。
「だからニノが、ニナをサーカスに誘ってくれた時、嬉しかったの。逃げる時も、ニナと一緒にいてくれるって。ニノはずっと、ニナのこと考えてくれたんだね」
私の話を聞いて、ニノは微笑み、両手をぎゅっと握った。
「今度こそ、一緒に逃げよう」
私は涙でぐしゃぐしゃのまま、大きく笑った。
「ニナは、ニノと一緒に逃げる!」
誰かを逃がすんじゃなくて。
今度は、二人で。
――
私たちの話が一段落したのを見て、サックス兄さんが口を開いた。
「二人とも、サーカスに残るってことだな。帰ったらウィルにも伝えろよ」
「サックス兄さんは、何も言わないんだね」
ニノが問いかける。
「お前たちの決断に、口出しはしない」
私は首を傾げる。
「大人って、“逃げるな”とか、“親と話し合え”とか言うものじゃないの?」
サックス兄さんは少し考えてから答えた。
「話を聞いて、思うところはある。だが俺はお前たちの今までを知らない。気持ちも知らない。なら、俺から言えることはない。お前たちの決断は、お前たちで責任を負え」
それを聞いて、変な大人だなと思った。
でも、ほっとした。
「変なのー」
「変だねー」
私たちは、いつものように笑った。
その時、上階からガラスが割れる音がした。
私たちはすぐ窓を開けて上を覗く。斜め上の窓が割れている。
屋敷の中から人の声と足音が増えていく。
「上にカイとリリィさんがいる。何かあったかもしれない」
サックス兄さんは冷静に言う。
「でも外に人の気配がいっぱいある。ニナたち、出られないよ」
そこでニノが顎に指を当てた。
「僕の仮面は持っている?」
私はスカートの中に隠していた黒い猫耳の仮面を取り出す。
「持ってるよ。どうするの?」
ニノはそれを受け取り、顔にかぶった。
「窓から出よう。下の方にはまだ使用人はいない。カイ兄さんに何があったかは分からないけど、僕たちが下で警備の戦力を分散させよう」
落ち着いた声だった。
サックス兄さんが目を見開く。
こんな冷静なニノ、サーカスでは見せたことがない。
そのことが、少し嬉しい。
ニノも、どこか高揚しているみたいだ。
私も仮面を付け直す。
「うん! 私たちで暴れ回ろう!」
サックス兄さんは苦笑しながら鬼の仮面をかぶり、槍に手をかけた。
「頼もしいな。じゃあ、ひと暴れするか」




