ニノの思い
《ニナ目線》
私とサックス兄さんは二階の端からニノを探し始めた。
この屋敷にはゲストルームがいっぱいあって、開けても開けてもニノは見つからなかった。
反対側の部屋を調べようとした時、廊下を歩く足音が響いた。
私とサックス兄さんはすぐ適当な部屋に入った。
私はベッドの裏に隠れた。
サックス兄さんは図体がでかいから、そのまま槍を手で掴みながら扉を警戒した。
息を呑みながら、足音が通りすがるのを待った。
しかし、足音はこの部屋の前で止まった。
緊張で体が硬くなった。
手が汗でびしょびしょになってるのを感じた。
扉はゆっくり開く。
サックス兄さんの息呑む気配がした。
「ニナ、出てきても大丈夫だ」
私はサックス兄さんの言う通りに立ち上がった。
そこには、ロウソクを持っていたニノがいた。
私は今にも叫び出しそうになったけど、すぐ手で口を抑えた。
声を立てたら、見つかってしまう。
ニノは口をパクパクさせた。
「ついてきて」
そしてロウソクの火を消して、部屋から離れた。
私とサックス兄さんも、ニノの後ろについていった。
案内されたのは、ニノのゲストルームだった。
ニノはもう一回ロウソクに火をつけた。
「あまり大きな声を出さないでね。お父様とお母様は隣の部屋で寝ているから」
私は体を抑えきれず、ニノに思いきり抱き着いた。
「ニノ、会いたかったよー」
「僕もだよ、ニナ」
本当はなるべく音を立てない方がいいけど、それでも言わずにもいられなかった。
だから私達はなるべく声を小さくして、強くお互いを抱きしめた。
それをサックス兄さんは何も言わず、暖かく見守ってくれた。
しばらく再会を噛みしめた後、私達はようやく本題に入った。
「ニノはどうして、ニナ達がいることを知ってたの?」
ニノは部屋のカーテンを開けた。
「ほら、見て。部屋の外に木があるんでしょう。さっきここに、サリーがいたんだ」
確かに窓から大きな木が見えた。
今は見当たらないけど、サリーはこの木に登ったんだろう。
「それですぐ部屋から出て、ニナ達を探してたんだ」
「これはサリーに感謝だな」
サックス兄さんが優しい笑顔で、私達を見た。
後でサリーにプレゼントを買わなきゃ。
「ニナ達は?どうしてここにいるの」
私とサックス兄さんは目を合わせる。
私は説明するの苦手だから、サックス兄さんに任せよう。
それを頑張って、目で伝える。
サックス兄さんはなんか意味不明そうな表情を見せたけど、すぐ話を始めた。
「今日、元々ニノを探そうとしたけど、町で警備兵が子供を攫っているところを見てしまたんだ。それが領主の命令だと聞いて、領主を暗殺しようという話になった」
私はすぐ補足する。
「ニナはニノを探しに来たよ!団長さんが、ニノがここにいるかもしれないって言ってたから」
ニノは少し考えてから、口を開けた。
「大体わかった。今カイ兄さんは領主様の暗殺に行っているよね」
「そうだ」
「なら僕も手伝うよ」
その言葉に、サックス兄さんは驚く。
「ありがたいんだが、こんなにあっさり決めていいのか」
ニノは真剣な顔でサックス兄さんを見た。
「だって、領主様が子供を攫っているってことは――ニナが攫われたのは、領主様のせいでしょう」
ニノの言葉に、私はうっとりした気分になった。
「ニノ~ニナのために」
ついにやける顔を、手で包む。
こんな私達のやりとりを見て、サックス兄さんは少し呆れた様子だった。
「手伝ってくれるのはいいんだが、まずは自分のことを考えてくれ」
サックス兄さんは大きな手を、私達の頭の上に乗せた。
「サーカスの活動は危険が尽きない。お前たちはまだ子供だ。ちゃんと家族の元に戻るか、それともサーカスについていくか、話し合いなさい」
その言葉を聞いて、ニノはムッと顔を膨らませた。
「僕はニナと一緒に、サーカスにいるよ」
「それはどうしてだ」
サックス兄さんの質問に、ニノはギョッとした。
「ニナから聞いたぞ。お前、理由も言わずニナをサーカスに誘ったみたいだな」
私は出発前の会議を思い出す。
確かに、そんなことチラッと言ったような気がする。
それを、サックス兄さんはずっと覚えてくれていた。
「ちゃんとニナに理由を話せ。そして二人とも納得した上で決めるんだ。じゃないと、いつか話さなかったことを後悔するぞ」
サックス兄さんの私達を見る目は、少し悲しさをにじませていた。
そんな目を見て、私もニノも、これ以上サックス兄さんの言葉を無下にすることはできなかった。
ニノは言葉を考えているみたいで、口を開いては閉じ、それを繰り返した。
だから私は、頑張って、心の中に秘めていた疑問をぶつけた。
「ニノは、パパとママに期待されて、苦しかったの?だから家から出ようとしたの?」
それを聞いて、ニノは目を見開いた。
「ニナはずっと、そう思ってたの?」
「だってニノ、ママに褒められても全然嬉しくなさそうだし、跡取り嫌だったかなーって」
ニノは覚悟を決めたように手を強く握る。
「僕がサーカスに入ろうとしたのは、ニナのためだよ」
そして語り出した、遠い昔の記憶を。




