三日月の約束
その夜、サーカス一行は領主邸に忍び込むことを決めた。
目的はニノの救出と――領主の暗殺。
この二日だけで、東領が貴族至上の場所だということは十分思い知った。
証拠を揃えて摘発しても、もみ消される可能性が高い。
正直、領主を殺しただけで問題が解決するとは思えない。
それでも、少なくともこの町の騒動は一時的に収まるだろう。
計画は二手に分かれる。
ニノを探す組と、領主を暗殺する組。
暗殺はカイの得意分野だ。
もう一人の戦力であるサックスは、ニノの捜索へ。
ニナも当然、サックスについていく。
サックスとカナは暗殺を強く希望したが、適性を優先した。
ここでウィルさんは私に問いかけた。
「リリィ様はどうされますか?あなたはサーカスのメンバーではないので、あえて危険に飛び込む必要はありませんよ。カイをここに残すことはできませんが、ご希望であればマリーを傍に控えさせることはできますよ」
確かに、この暗殺はサーカスの決断だ。
私がわざわざ巻き込まれる必要はない。
カターレにいた頃の私なら、ここに残る選択をしただろう。
だが――ここにはデケムがいる。
昨日は運よく逃げられた。
けれどカイ一人では、彼に勝てない。
サックスでも足りない。
もし忍び込む最中に遭遇すれば、
ここにいる全員が死ぬ。
それは困る。
私一人では、領を越えて移動することはできない。
(何より――彼と決着をつけなければ、
いつか私は連れ戻される)
「いえ、私も行きます」
私はカイの方を見た。
彼も私を見ている。
「カイの方につきます。何があった時の伝達役にても使ってください」
「そうですか。あなたの有能さは十分わかっております。今更止めません」
ウィルさんはカイに視線を向ける。
「それに、あなたがいると、カイはやる気出るらしい」
ウィルさん再び、全員を見渡す。
「では、サックスとニナはニノの捜索、カイとリリィ様は領主の暗殺、わたしとカナは指令塔として、屋敷の外側で息を潜めます」
カナは蛇を首に巻き付け、カメレオンを手の上に乗せる。
「サリーとミーミを連れていくよ。この子達にあなた達の状況を伝えてもらう」
今回の計画は突発的だ。
事前調べができない。
だから全員、ある程度自己判断で行動しなければならない。
失敗の確率も高い。
だからこそ、ウィルさんとカナの役目は連携を取る上で重要になる。
計画は決まり、私達は馬車に載って、領主邸に向かった。
馬車に揺れながら、私はサーカスメンバー、一人一人の様子を伺った。
ニナはまだ暗い顔している。
片割れがいないだけで、彼女の調子が出ないようだ。
カナとサックスを体力温存のために、目を閉じて瞑想してる様子。
ウィルは馬車を御しているから、表情がよく見えない。
私の隣に座っているカイ、ただ無心と前を見据えている。
私はポケットから小さな箱を取り出した。
「ねえ、カイ」
箱を開く。
中には、町で買った三日月のイヤリング。
「これ、あげる。つけて」
彼は珍しく、目を見開いた。
「これがあれば、どんな状況でも、私はあなたを見つけられる」
私は彼の青と赤の瞳を見つめる。
今は眼帯をしていない。
カイは片方を右耳につけると、
もう片方を持ち上げ、私の耳元へ寄せた。
「……つけて。俺も、お前を見失わない」
私は一瞬戸惑い、
けれど素直に左耳につけた。
「わかった。私を置いていかないでね」
馬車は、静かに領主邸へ近づいていく。




