表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
Second Show

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/55

恐ろしい光景

 カナ、ニナと私が誘拐されてから一晩が経った。

 私達は今、サーカステントの中に集まっている。


 昨晩の帰り道、ウィルさんは馬車を御しながら現状を共有してくれた。

 私達が誘拐された後、カイとニノは行方を追っていたこと。

 その途中でニノが実家の人間と遭遇し、連れ戻されたこと。


 それを聞いたニナは、すぐに暗い顔になった。

 自分から話そうとはせず、何を聞いても一言二言で終わってしまう。

 今も私とカナの間に座っているけれど、どこか心ここにあらずといった様子だ。

 カナは心配そうにニナを覗き込む。


「――ニノはどうするの?迎えに行った方がいい?」


 今の状況で一番聞きづらい問いを、カナはあえて口にした。


「そうだな……そもそもニノはどうしたいんだろう」


 サックスも慎重に言葉を選びながら続ける。

 そして全員の視線がウィルさんに向けられた。


 それも当然だろう。

 カナもサックスも、双子がサーカスに入った経緯を知らないはずだ。

 加入は最後だったと聞くが、メンバーの選定はウィルが一任されているらしい。


「ここは直接本人に確認するのがよいでしょう」


 ウィルは余裕を崩さず、紅茶を手にしたまま答える。


「本人に確認って……そもそもニノの居場所がわからないけど」


「彼の居場所なら、心当たりがありますよ」


 ウィルは紅茶を一口啜り、静かにカップを置いた。

 そして視線をニナへ向ける。


「あなたも思うところがあるのでしょう。これを機に、今後の身の振り方を考えてみてはいかがですか、ニナ」


 ニナはびくりと体を震わせた。


 しばらく沈黙が続く。

 ニナは口を開けてば閉じ、何かを悩んでいる様子。

 やがて、ゆっくりと語り出した。


「ニナとニノはね、貴族の子なの。パパもママもとても優しくて、ニナ達を愛してくれていたと思う」


 彼女の手が微かに震えている。

 気づいたカナが、そっとその手を握った。


 ニナは深く息を吸い込み、続ける。


「ニノは凄く賢いの。勉強もできて、剣も使える。だからパパとママは、ニノを跡取りにするって、すごく喜んでた。ニナもね、ニノがいっぱい褒められて、嬉しかった」


 一度言葉を区切り、茶を啜る。


「でもね、ニノ……全然嬉しそうじゃなかったの。ママがたくさん褒めている時、ニノは笑ってるのに、笑ってなかったの。だからニノがニナに、一緒にサーカスに入ろうって言ってくれた時、きっとあの家から逃げたかったんだって思ったの」


 覚悟を決めたように、ウィルを見上げる。


「ニナは、ニノに直接会いたい!そして一緒に、これからのことを考えたい」


 その答えを聞いて、ウィルは穏やかに頷いた。


「いいでしょう。ご両親が遥々ここまで来ているということは、領絡みの用事があるはず。ニノは今、領主邸にいる可能性が高い」


 カナはぱっと顔を明るくする。


「それなら直接領主に会いに行こう!会わせてくれるかもしれない」


「会わせてくれるかどうかはわかりませんが、行ってみる価値はあります」


 ウィルは立ち上がり、全員を見渡す。


「昨日のような事態を防ぐため、本日は全員で行動しましょう」


 私は思わず声を上げた。


「テントを空けて大丈夫?」


「女性陣を一人にするわけにはいきませんし、かと言ってサックスかカイだけで全員を守れるとは限らない。ここはカナのご友人達に任せるのがよいでしょう」


「任せて!マリーもサリーもちゃんと守れるわ」


 カナは得意げに胸を張った。


 ふと、昨日のことを思い出す。


「では支度を整えた後、ショーテントの出口で集合しましょう」


 ウィルはそれだけ告げてテントを出ていった。


 立ち上がったカナの肩を、私は軽く叩く。


「ねえ、カナ。昨日のことでサリーにお礼したいんだけど、何がいいかな?」


 昨日、カイを私の元へ導き、縄を噛み切ってくれた蛇――サリー。


「そうね……生肉なら何でもいいわよ」


 ……結構ガッツリしたリクエストが来た。

 あとでこっそり買っておこう。

 ――――

 全員で町に出た瞬間、信じられない光景が広がっていた。


「いや!娘を連れていかないで!」

「お願いです!息子は帰ってきたばかりなんです!」

「子供達に触るな!彼らは貴族のおもちゃじゃないんだぞ!」

「いーやーだー!お父さん!お母さん!」


 警備兵らしき男達が平民から子供を引き剥がし、荷馬車に積まれた檻へと放り込んでいる。

 子供は泣き叫び、大人は怒り、悲しみ、ある者は必死に懇願する。


 だが警備兵達は逆らう者を暴力で鎮圧し、怒鳴りつけた。


「汚らわしい平民どもめ!これは領主様直々のご命令だ。貴族の役に立てることを光栄に思え!」


 ――地獄のような光景だった。


 私達はただ立ち尽くす。


「これはこれは……悪趣味の極みですね」


 さすがのウィル団長も、その光景に顔をしかめた。

 隣に立っていたニナは、瞬きせず、ただぼんやりと見ていた。


 私は後ろに立っていたカイの表情を覗き込んだ。

 相変わらず、無表情。


 けれど、その青い瞳は町の惨状を映しているはずなのに、どこかずっと遠くを見ているようだった。

 彼は今、何を思っているのだろう。


 警備兵の一人がニナの存在に気づき、こちらへ歩み寄ってくる。


「おい、そっちの子供を渡せ」


 ニナは視線だけをゆっくりと男に向けた。

 怯えも、怒りも浮かばない、ただ冷えた目。

 

 警備兵がニナに手を伸ばそうとした瞬間、ウィルさんがその手首を掴んだ。


「この子はわたしの連れです。手を引っ込めなさい」


 警備兵はウィルを睨み上げたが、その衣装と立ち振る舞いを見て、さっと顔色を変えた。


「し、失礼いたしました」


 そう言って、慌てて走り去る。


 その様子を見たカナとサックスの表情が一変する。

 今にも誰かを殺しかねないほどの形相だった。


「――何、これ」


「――領主の命令だと言っていたな」


 サックスは背負った槍に手をかける。

 私はとっさにその手を押さえた。


「ここで暴れても、何にもならないよ」


「じゃあ、黙って見てろってか」


 今まで聞いたサックスの声の中で、一番重かった。

 それほど、この状況が許せないのだろう。


「止めたいなら、根源を断つしかない」


 私はウィルさんを見た。


 視線を受け、ウィルさんは静かに頷く。


「一旦テントに戻りますよ……殴り込みの準備をしましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ