嫌がらせ♡
倉庫の外から、大勢が騒ぐ音がした。
その音に、ロイドは思わず外へ視線を向ける。
その隙を逃さず、私は密かに蛇に噛み切らせた縄をほどいた。
蛇を手に巻きつけたまま、ロイドの視線とは反対側へ駆け出し、カイに向かって全力疾走する。
普段ならすぐ捕まるだろう。
だがロイドの注意が逸れている今、少しでも距離を稼げばカイが受け止めてくれる。
カイも同じ判断をしたらしい。
私が走り出すと同時に、彼もこちらへ向かって駆ける。
ロイドが反応し、手を伸ばしたときには、すでに私はカイに抱き上げられていた。
カイはそのまま出口へ走る。
「おい、待て!」
背後からロイドの怒声が響く。
私はカイの首に腕を回し、小声で告げた。
「彼、細かいことが苦手。糸で足止めできるよ」
十分距離が開いたのを確認し、私は降ろしてもらおうと彼の胸を押す。
だがなぜかカイは腕の力を強め、私を片腕で抱えたまま、もう片方の手で糸を張り巡らせ始めた。
人一人を抱えているとは思えない身軽さで、障害物を足場に跳び回る。
やがてロイドは糸の張り巡らされた範囲へ踏み込み、その足を絡め取られた。
転倒を防ごうとして前へ転がるが、その先にも複雑に張られた糸が待ち構えている。
「何だこれは、くそっ!」
もがくほどに絡まり、身動きが取れなくなる。
仕上げに、カイは積み上げられていた石油缶を蹴り崩し、ロイドの進路へ転がした。
これでしばらくは追ってこられない。
私たちは騒ぎの元へ向かった。
倉庫前では、何十人もの警備兵が仮面の四人と黒豹一匹を取り囲んでいた。
鬼角の黒仮面の男は長槍を振るい、迫る警備兵を次々となぎ払う。
羽毛のついた仮面の女は黒豹へ指示を出し、獣は威嚇と共に警備兵を翻弄する。
猫耳の仮面をつけた少女は舞うように足を狙い、相手の体勢を崩していく。
その中心で、紺色の仮面をつけた優雅な男が静かに立っていた。
彼は私たちを見つけ、微笑む。
そしてゆっくりと口を動かす。
「し・ま・つ・し・な・さ・い」
カイは即座に小刀を数本取り出し、警備兵の肩や足へ正確に投げ放つ。
次々と戦線が崩れる。
私は周囲を見回す。
長引けば援軍が来る。
指揮系統を潰す方が早い。
遠くで様子を見ている執事服の男が目に入る。
「――十時方向、執事を」
カイはうなずき、距離を取り、私を地面に降ろした。
私は小瓶を取り出し、警備兵へ投げつける。
催涙成分を含んだ液体が弾け、悲鳴が上がる。
その隙にカイは背後へ回り込み、刃を執事の首元へ当てた。
私は声を張る。
「管理人は制圧した!」
警備兵たちは動揺し、やがて全員を無力化。
安全を確認した後、倉庫内の子供たちを解放し、
深夜直前まで町へ送り届けた。
――――
「旦那様、ご報告です。二番倉庫が何者かによって鎮圧されました。捕らえていた子供達は全員解放されたようです」
「なんだと! そこは一番大きい倉庫だぞ! しかも納品時期が迫っている」
両手で「バーン」とテーブルを叩き、使用人に怒鳴った。
使用人は怯み、肩を震わせる。
わたしは指を咥え、どう対処すべきかを考える。
(ちくしょう。このままだと契約違反になる。報酬金どころか、協力関係を打ち切られる)
それはまずい。
今の生活はあそこからの報酬で成り立っている。
ここで契約を破棄されたら、財務が回らなくなり、わたしは今の地位から追いやられる。
そもそも誰なんだ。わたしの大事な倉庫を荒らしたのは。
あいつらを見つけ出して、痛い目に遭わせてやる。
「旦那様、大変申し上げにくいのですが、派遣された協力者の方からも苦情が届いております」
「ええい、今度はなんだ」
使用人は深く息を呑んでから、報告を続ける。
「倉庫の警備が力不足だと……」
「なんだと! そんなもの、あっちが派遣すべきだろう!」
うちの警備の仕事はあくまで平民どもの相手をすること。
荒事の処理に慣れていないのだ。
我々は契約に従って、要求されたものを提供している。
あちらもそれ相応のサポートを提供すべきだろう。
くそ、事を解決した後、抗議文を送りつけてやる。
しかし、目前の問題は納品すべき品がなくなっていることだ。
ここは強引にでも、品を調達すべきだろう。
「警備兵全隊に知らせろ。明日からでも平民どもから子供を取り上げろ。名目は貴族の使用人候補を育てるためだと言っておけばいい」
多少の混乱は大領主様がなんとかしてくれるだろう。
「いいか、十五歳以下の子供を見つけ次第捕えろ。一人たりとも見逃すな」




