わるたくみ
《ニナ目線》
リリィ姉ちゃんが檻を出たあと、隣に座っているカナ姉ちゃんはどこかそわそわしていた。
やがて何か決意したように、口を開く。
「あのさ……さっきのニナとリリィちゃんの話だけど」
「うん」
私たちの話を聞いて、カナ姉ちゃんは何を思ったんだろう。
ニナのこと、おかしいって思ったのかな。
その可能性を考えた瞬間、胸の奥が少しちりちりと痛んだ。
「私にはリリィちゃんが何を見ていたのかわからないし、ニナの気持ちが本当かどうかもわからないけれど……サーカスにいる間だけでも、好きにしていいんじゃないかな」
カナ姉ちゃんの言葉は、どれも私を気遣うものだった。
「私たち、別に仲良くなりたくて一緒にいるわけじゃないでしょ。ただお互いの目的を果たすために集まっているだけ。ニナが何をしようと、何を思おうと、誰も気にしないと思うよ」
「だって……普通にしないと、誰もニナを好きになってくれないでしょう」
思わず本音がこぼれた。
さっきリリィ姉ちゃんと話したばかりだからか、口が止まらなくなってしまう。
「ああ、ニナは誰かに好きになってほしかったのか」
カナ姉ちゃんは納得したようにうなずいた。
「ていうか、サーカスメンバーの中に普通の人なんていないんだから、ニナも好きにやってよ。私はどんなニナでも好きになれる自信あるよ」
こんな状況なのに、とびきりの笑顔を向けてくれる。
どうしてだろう。
急に、泣きたくなった。
「……カナ姉ちゃんは、優しすぎるよ」
顔を見られないように、膝の間にうずめる。
最初に会ったときから、カナ姉ちゃんはずっと優しかった。
サックス兄さんは、カナ姉ちゃんがサーカスに入ったばかりの頃はいつも不機嫌だったって言っていたけれど、私もニノもそんな姿を見たことがない。
どうしてサーカスに入ったのかわからないくらい、優しい人。
だから私は、カナ姉ちゃんに嫌われたくない。
――じゃあ、リリィ姉ちゃんは?
ニナは、私は、リリィ姉ちゃんをどう思っているんだろう。
考えに沈んでいると、倉庫の中に再び足音が響いた。
だんだん、この檻に近づいてくる。
(また執事さんが、誰かを連れ出すのかな)
今度はカナ姉ちゃん?
それとも、大勢の子どもの中の誰か?
コン、コン、コン。
足音は、この檻の前で止まった。
「見つけました」
その声は、聞き覚えがあった。
顔を上げる。
「カナ、ニナ。ここにいる経緯を説明していただけますか」
「その前に、なんでここが分かったの? ウィル」
カナ姉ちゃんが、私の疑問を代弁する。
「カナのご友人たちに助けていただきました。どの子もお利口で、最近のカイに見習ってほしいくらいです」
「友人……マリーたちを連れてきたの?」
カナ姉ちゃんがはっと声を上げる。
マリーは、彼女がお世話している黒豹。カナ姉ちゃんは動物と仲良くなるのが得意で、彼女の世話する子たちは皆賢い。
「ええ。マリーにはサックスと共に警備の足止めを任せています」
ウィルは倉庫内を見回し、明らかに顔をしかめた。
「それより、この空間は何です? 気味が悪くて仕方ない」
「子ども攫いの仕業よ。貴族の依頼で子どもを集めているらしいの」
「把握しました」
ウィルは警備から奪ったらしい鍵束を取り出し、檻の扉を開ける。
「本来、この町の問題に関わる義理も興味もありませんが……この空間は気に入りません。少し嫌がらせをしてやりましょう」
それに、うちの団員を“もてなした”お礼もしないといけませんしね――と、穏やかな声で続ける。
扉が開いた。
カナ姉ちゃんと私はすぐ立ち上がる。
「どう嫌がらせするの? 依頼主の貴族がここにいるわけじゃないでしょ?」
「当人がいなくても十分です。この拠点を潰します。協力しなさい」
ウィルはきらきらした笑みを浮かべて宣言した。
私とカナ姉ちゃんは目を合わせ、同時に好戦的な笑みを浮かべる。
「いいわね。性悪貴族様なんて、思う存分困ればいいわ!」
「面白そう! ニナもやる!」
ウィルは満足げにうなずき、白い羽毛のついた紫の仮面と、白い猫耳の仮面を差し出す。
私は猫耳のほうを取り、顔に着けた。
カナ姉ちゃんも、もう一方の仮面で目元を隠す。
それを確認してから、ウィルも紺色の簡素な仮面を着けた。
「さあ――サーカスノックスの仕事の時間です」




