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シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
Second Show

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39/55

かわいいお人形

《ニナ目線》

 檻の中に閉じ込められて、もう一時間くらい経ったのかな。

 時計もないし、お日様も見えないから、正確な時間はわからない。


 周囲の檻から、啜り泣きが聞こえてくる。

 捕まえられた子供は、かなり多い。

 空間全体が、じっとりと湿っていた。


 カナ姉ちゃんが、声を潜めて聞いてくる。


「ニナ、大丈夫? 怖くない?」


 カナ姉ちゃんは、私のことを心配してくれている。


「怖いよ。カナ姉ちゃんに、くっついていい?」


 目に涙を浮かべて、不安そうな表情を作る。

 可愛い女の子は、ここで怖がるもの。

 だからニナも、怖がるの。


 カナ姉ちゃんは、自分の隣を軽く叩いた。

 「来て」って言ってくれている。

 私はゆっくりと体を移して、彼女に寄りかかる。


 そこから、沈黙。


 その沈黙を破ったのは、リリィ姉ちゃんだった。


「ずっと気になっていたんだけど、どうして思ってもいないことばかり言うの?」


 リリィ姉ちゃんは、真っ直ぐ私を見つめている。

 嫌味じゃない。ただの疑問。


「……ちゃんと思ってるよ」


 それでも、彼女は目を逸らさない。

 無関心そうなのに、全部を見透かしているみたいな目。


 その視線が怖くて、私は思わず目を逸らした。


「リリィ姉ちゃんは、怖くないの?」


「怖い? ……怖い……」


 彼女は言葉を繰り返す。

 まるで、その意味を一つずつ確かめるみたいに。


「怖いって感情は、身に危険を感じた時か、大切なものを失いそうな時に生まれるんでしょう。今は、感じないかな」


 淡々とした声。


「リリィ姉ちゃんって、おかしいんだね」


「おかしい?」


「だって、普通の女の子なら、ここで怖がるでしょう?」


 リリィ姉ちゃんは、また考え込む。

 その沈黙に、私はだんだん焦っていく。


「さっき買い物した時もそう! 普通は、かわいいお人形さんを選ぶでしょう? なのに、あんなヘンテコなぬいぐるみがいいなんて」


 話すほど、胸の奥がざわつく。

 口調も、だんだん荒くなる。


 ――実家にいた頃の記憶が、次々と浮かんでくる。


「ニナ、見て。かわいいお人形さんだよ」

「ママ、ニナ、この面白い顔のカエルさんがいい!」

「まあ!絶対こっちの方がかわいいわよ。そのカエルさんを買ったら、いつか後悔するわよ」

「……わかった。その人形さんにする」


「ママ、見て見て!ニノの服を貸してもらったの!」

「まぁ、ニナはズボン履かなくでもいいのよ。そうだ、ママ、新しいドレスを買ったの。フリフリがいっぱいついてて、ニナに似合うのよ」

「……うん、着てみる」


「ママ、あのお肉屋さん――」

「あ、ニナ、あのカフェに行きましょう!ケーキがとてもおいしいのよ!ニナも甘いもの好きでしょう」

「……うん、好き」


「ニナ、聞いたわよ。お茶会の時、一言も言わなかったって」

「だって、つまらないもん。ニナ、恋バナに興味ない」

「ダメよ。女の子はつまらなくても笑わないと」

「……」


「ねぇ、あなた。ニナはニノほど勉強が得意ではないから、いいところの婚約者を見つけないと」

「そうだな。ニナのために、いい子息がないか打診してみる」

「……」


 ニナは、かわいい女の子。

 かわいい女の子は、かわいいお人形が好きなの。

 かわいい女の子は、フリフリのドレスを着るの。

 かわいい女の子は、どんな時でも笑ってるの。

 かわいい女の子は、素敵な人と結婚するの。


 それが普通なの。


 だから、ニナは我慢するの。

 我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して。

 ニナはママが好きな、普通のかわいい女の子になったの。


「ニナが言う普通って、よくわからないけど。普通って、何か得するの?」


 その一言で、私は現実に引き戻された。


 リリィ姉ちゃんは、目を丸くして私を見ている。

 本当にわからないから、聞いている。


 私は、ぽかんと口を開けたまま、言葉を失った。


(……普通って、得?)


「……」

 何も答えられなかった。

 ニナはその質問の答えがわからなかった。


「ニナがそれでいいなら、いいけど」

 リリィ姉ちゃんはそれだけ言って、私から目を逸らした。

 まるで興味を失ったみたいに。


「リリィ姉ちゃんって、普通じゃないだね」

「私は好きにやってるだけよ」


 リリィ姉ちゃんはやっぱり普通じゃない。

 綺麗な顔してるのに、服は質素だし、かわいいお人形は好きじゃない。

 でも――普通じゃないリリィ姉ちゃんは、とてもかっこいい。


 私達の会話が一段落した時、執事服の男が私達の檻の前に来て、言った。

「白髪の君、出て来なさい」


 リリィ姉ちゃんは、何も言わず立ち上がる。

 カナ姉ちゃんが止めようとしたけど、彼女は手で制した。


 リリィ姉ちゃんは、檻を出て、男と共に去っていった。


 それ以来、

 私たちは、ここで彼女に会うことはなかった。

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