行く先
私達はテントで覆われた荷物車の中に放り込まれた。
手は後ろできつく縛られ、口には布切れを詰められている。
起き上がることもできず、床に倒れ込んだまま馬車の揺れに身を任せた。
カナが背中の後ろで手をゴソゴソ動かしている。
縄を何とか解こうとしているのだろう。
――だが、拘束をほどけたところで、動いている馬車から降りることはできない。
無理に飛び降りれば大怪我をする。
私はただ仰向けになり、大人しく馬車が止まるのを待つことにした。
ニナも特に抵抗することなく、私の隣でつまらなさそうに寝転がっている。
足が痺れたのか、ときどきバタバタと宙に浮かせていた。
しばらくすると、私達を拘束した男達の声が外から聞こえてきた。
「……あの女達、どうします? 必要なのは子供だけっすよね」
「どっちも上玉だ。依頼主がいらないって言ったら、俺らがもらおう」
「そうっすね。俺、あの茶髪の女がいいっす。あの体……そそられるな」
「あの白髪も顔はなかなかいい。どっちも売ったらいい値しそうだ」
人攫いらしく下衆なことを言っているが、そこはどうでもいい。
要は、私とカナはニナのおまけらしいという情報だ。
今すぐニナをどうこうするつもりはないだろう。
しかし、私とカナの処遇は不明――楽観できない。
目だけ動かし、カナの方を覗く。
彼女は身体を小さく震わせていた。息も少し荒い。
表情は見えないが、あの男達の話に何か思うところがあるのだろうか。
「あー、でも何週間か前、依頼主に『紫の目をした女も捕まえとけ』って言われなかったっすか? あの白髪の子、目は紫だったっすよね」
「黒髪に紫の目をした女をな。特徴が一つでも当てはまったら捕まえとけって言われた。……ったく、何人いると思ってんだ」
「報酬がいいからいいんじゃないっすかー。子供ばっかり集めてるお貴族様の考え、よくわかんねえっすけど」
なるほど。
この人達は貴族に依頼され、子供を攫っている。
しかも、黒髪に紫の目の女性も狙っている――と。
全く穏やかではない。
この町、ひいては東領全体は、貴族の裁量が大きいと見える。
貴族が指示したことなら、多少派手な犯行でも目をつぶられるというわけだ。
つまり、正規の方法では助からない。
ここはサーカスの男達に期待するしかない。
そうこうしているうちに、馬車の揺れが止んだ。
どうやら目的地に着いたらしい。
テントが開けられ、男達が乗り込んでくる。
一人がカナを、もう一人が私とニナを担ぎ上げた。
運ばれた先は、どうやら倉庫のような場所だった。
倉庫の奥に、執事服を着た男が立っている。
その横には檻が置かれていた。
「子供一人と女二人を捕まえた」
「ご苦労。その者達を檻の中に入れなさい」
「女の方もか? お前ら、子供だけ欲しいんだろう」
「その女性達もだ。こちらで処理する。報酬も弾む」
「頼むぜ。こんな上玉、こっちが欲しいくらいだからな」
執事は淡々と交渉を進めた。
私達三人はまとめて檻に入れられ、手の縄と口の布切れを外された。
正直、口の中が限界だったので助かる。
「っ……私達に何をする気?」
カナは口の自由を取り戻すなり、執事を睨み付けて怒鳴った。
「静かにしなさい。お利口にしていれば傷つかない」
それだけ言い放ち、執事は檻ごと倉庫の奥へ押し入れた。
――そしてそこには、檻の中に閉じ込められた子供達がたくさんいた。
――――
《カイ目線》
商店街まで来た。
日はまだ高く、ここは相変わらず賑わっている。
ここからどうやって、彼女たちの手がかりを見つけるか――。
「カイ兄さん、僕が聞き込みをします。カイ兄さんは周りを観察していてください」
ニノは険しい表情で言った。
まるで別人のようだった。
この双子はずっと、誰かに媚びているように見えた。
だが片割れがいなくなった途端、ニノから子どもらしさが完全に消え去った。
そんな彼を見るのは、初めてだ。
ニノは次々と店に入り、聞き込みをしていった。
ドレスを売っている服屋。玩具を置いている雑貨屋。お菓子が並ぶ屋台。
まるで彼女たちの行き先を知っているかのように、迷わず店の者に声をかけていく。
(いや、分かっているのは片割れの行動パターンか……)
おかしくはない。
あいつらは、生まれた時からずっと一緒にいるのだから。
そして、とある雑貨屋の店主に話しかけた時。
店主は心当たりがあるように声を上げた。
「あー、ツインテールの女の子ね。さっき来たよ。確か君が持っているぬいぐるみを買って行ったな。お連れの娘たちも別嬪さんだったから、よく覚えてる」
「何か、おかしなことはありませんでしたか?」
「いやぁ、そんなことはなかったと思うけど……何かあったのかい?」
店主が気になったように尋ねる。
「実は彼女、僕の姉なんです。全然帰ってこなくて……心配で探しているんです」
ニノは頬を赤らめ、涙ぐんだ目で店主を見上げた。
その表情に同情したのか、店主は優しい声色になった。
「そうかい、そうかい。それは心配だねぇ。特にこの町は、子どもにはちょっと危ないからね」
「危ないって……何かあるんですか?」
ニノはさらに店主の服の裾を掴み、見上げる。
店主は少し戸惑ったあと、決意したように語った。
「うーん。この町はね、子どもを攫う悪ぅい大人がいるんだ。君の姉、早く見つかるといいね」
「……そうなんですか。ありがとうございます」
ニノは無理に笑顔を作って礼を言い、店を出た。
店から遠ざかった瞬間、ニノの媚びるような顔つきは消え、冷静な表情に戻った。
――いや、冷静ではない。
目の奥に、怒りが滲んでいる。
「団長さんの言っていた子ども攫いは、本当のようです。戻って団長さんにも協力してもらった方がいいかもしれません」
判断は合理的だ。
俺たちだけでは、彼女たちを見つけきれない。
俺が引き返そうとした、その時――背後から声がかかった。
「――ニノお坊ちゃん?」
ニノは振り返り、声の主を見た瞬間、息を呑んだ。




