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シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
Second Show

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36/55

行く先

 私達はテントで覆われた荷物車の中に放り込まれた。

 手は後ろできつく縛られ、口には布切れを詰められている。

 起き上がることもできず、床に倒れ込んだまま馬車の揺れに身を任せた。


 カナが背中の後ろで手をゴソゴソ動かしている。

 縄を何とか解こうとしているのだろう。


 ――だが、拘束をほどけたところで、動いている馬車から降りることはできない。

 無理に飛び降りれば大怪我をする。

 私はただ仰向けになり、大人しく馬車が止まるのを待つことにした。


 ニナも特に抵抗することなく、私の隣でつまらなさそうに寝転がっている。

 足が痺れたのか、ときどきバタバタと宙に浮かせていた。


 しばらくすると、私達を拘束した男達の声が外から聞こえてきた。


「……あの女達、どうします? 必要なのは子供だけっすよね」

「どっちも上玉だ。依頼主がいらないって言ったら、俺らがもらおう」

「そうっすね。俺、あの茶髪の女がいいっす。あの体……そそられるな」

「あの白髪も顔はなかなかいい。どっちも売ったらいい値しそうだ」


 人攫いらしく下衆なことを言っているが、そこはどうでもいい。

 要は、私とカナはニナのおまけらしいという情報だ。


 今すぐニナをどうこうするつもりはないだろう。

 しかし、私とカナの処遇は不明――楽観できない。


 目だけ動かし、カナの方を覗く。

 彼女は身体を小さく震わせていた。息も少し荒い。

 表情は見えないが、あの男達の話に何か思うところがあるのだろうか。


「あー、でも何週間か前、依頼主に『紫の目をした女も捕まえとけ』って言われなかったっすか? あの白髪の子、目は紫だったっすよね」

「黒髪に紫の目をした女をな。特徴が一つでも当てはまったら捕まえとけって言われた。……ったく、何人いると思ってんだ」

「報酬がいいからいいんじゃないっすかー。子供ばっかり集めてるお貴族様の考え、よくわかんねえっすけど」


 なるほど。

 この人達は貴族に依頼され、子供を攫っている。

 しかも、黒髪に紫の目の女性も狙っている――と。


 全く穏やかではない。


 この町、ひいては東領全体は、貴族の裁量が大きいと見える。

 貴族が指示したことなら、多少派手な犯行でも目をつぶられるというわけだ。


 つまり、正規の方法では助からない。

 ここはサーカスの男達に期待するしかない。


 そうこうしているうちに、馬車の揺れが止んだ。

 どうやら目的地に着いたらしい。


 テントが開けられ、男達が乗り込んでくる。

 一人がカナを、もう一人が私とニナを担ぎ上げた。


 運ばれた先は、どうやら倉庫のような場所だった。


 倉庫の奥に、執事服を着た男が立っている。

 その横には檻が置かれていた。


「子供一人と女二人を捕まえた」

「ご苦労。その者達を檻の中に入れなさい」

「女の方もか? お前ら、子供だけ欲しいんだろう」

「その女性達もだ。こちらで処理する。報酬も弾む」

「頼むぜ。こんな上玉、こっちが欲しいくらいだからな」


 執事は淡々と交渉を進めた。


 私達三人はまとめて檻に入れられ、手の縄と口の布切れを外された。

 正直、口の中が限界だったので助かる。


「っ……私達に何をする気?」


 カナは口の自由を取り戻すなり、執事を睨み付けて怒鳴った。


「静かにしなさい。お利口にしていれば傷つかない」


 それだけ言い放ち、執事は檻ごと倉庫の奥へ押し入れた。


 ――そしてそこには、檻の中に閉じ込められた子供達がたくさんいた。

 ――――

 《カイ目線》


 商店街まで来た。

 日はまだ高く、ここは相変わらず賑わっている。

 ここからどうやって、彼女たちの手がかりを見つけるか――。


「カイ兄さん、僕が聞き込みをします。カイ兄さんは周りを観察していてください」

 ニノは険しい表情で言った。


 まるで別人のようだった。

 この双子はずっと、誰かに媚びているように見えた。

 だが片割れがいなくなった途端、ニノから子どもらしさが完全に消え去った。

 そんな彼を見るのは、初めてだ。


 ニノは次々と店に入り、聞き込みをしていった。

 ドレスを売っている服屋。玩具を置いている雑貨屋。お菓子が並ぶ屋台。

 まるで彼女たちの行き先を知っているかのように、迷わず店の者に声をかけていく。


(いや、分かっているのは片割れの行動パターンか……)

 おかしくはない。

 あいつらは、生まれた時からずっと一緒にいるのだから。


 そして、とある雑貨屋の店主に話しかけた時。

 店主は心当たりがあるように声を上げた。


「あー、ツインテールの女の子ね。さっき来たよ。確か君が持っているぬいぐるみを買って行ったな。お連れの娘たちも別嬪さんだったから、よく覚えてる」

「何か、おかしなことはありませんでしたか?」

「いやぁ、そんなことはなかったと思うけど……何かあったのかい?」


 店主が気になったように尋ねる。


「実は彼女、僕の姉なんです。全然帰ってこなくて……心配で探しているんです」

 ニノは頬を赤らめ、涙ぐんだ目で店主を見上げた。


 その表情に同情したのか、店主は優しい声色になった。

「そうかい、そうかい。それは心配だねぇ。特にこの町は、子どもにはちょっと危ないからね」

「危ないって……何かあるんですか?」


 ニノはさらに店主の服の裾を掴み、見上げる。


 店主は少し戸惑ったあと、決意したように語った。

「うーん。この町はね、子どもを攫う悪ぅい大人がいるんだ。君の姉、早く見つかるといいね」

「……そうなんですか。ありがとうございます」


 ニノは無理に笑顔を作って礼を言い、店を出た。


 店から遠ざかった瞬間、ニノの媚びるような顔つきは消え、冷静な表情に戻った。


 ――いや、冷静ではない。

 目の奥に、怒りが滲んでいる。


「団長さんの言っていた子ども攫いは、本当のようです。戻って団長さんにも協力してもらった方がいいかもしれません」


 判断は合理的だ。

 俺たちだけでは、彼女たちを見つけきれない。


 俺が引き返そうとした、その時――背後から声がかかった。


「――ニノお坊ちゃん?」


 ニノは振り返り、声の主を見た瞬間、息を呑んだ。

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