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シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
Second Show

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35/55

誘拐

 雑貨屋から出た私達は、サーカスに戻ろうとした。


 結局、ニナはあの謎のぬいぐるみを買っていった。

 今も嬉しそうにそれを抱きしめ、スキップしながら歩いている。

 ニノと一緒にそれで遊ぶんだと騒いでいた。


 カナはやけにリアルな熊のストラップを買った。

 その熊の仏頂面がサックスにそっくりだったかららしい。


 私は三日月を釣り下ろしたイヤリングを買った。

 なんとなくカイに似合いそうだからだ。


 男にアクセサリーを送っても喜ばない気がするけど、断られたら私がつければ良い。

 基本アクセサリーはつけないけど、イヤリングは比較的煩わしくない。


 それに、人の顔を見る時、イヤリングが目に入ればすぐ見分けられるから結構便利だ。


 頭の中で一瞬、澄んだ赤い玉のイヤリングを思い浮かべる。

 そしてすぐ、それを掻き消す。


 賑やかな街から離れ、人けの少ない道まで歩いた時、カナは密かに私に耳打ちした。


「――何人か、私達の後ろに付いている」


 カナは不自然に見えないよう後ろに振り向かず、手鏡を出して後ろを映す。

 確かに大柄な男が二人、私達と一定の距離を保っている。


 私達に付いているってことは、多分街にいた頃からカナは彼らの存在に気づいていたのだろう。


 これは困った。

 私達は戦闘要員ではない。

 自衛手段はあるが、大人数で来られたらかなわない。


 私は小さな声で呟く。


「二人しかいない。仲間と合流される前に対処しよう。次の分かれ道で左に曲がって」


 ニナもちゃんと聞こえているらしく、少し歩くペースを早めた。


 私達は分かれ道で左に曲がり、少し先まで歩いてから立ち止まった。

 私はジャケットのポケットに手を入れる。


 一分ほど待ち、二人の男がこちらに曲がってきて私達を見つけた。

 彼らは明らかに驚いたような反応をした。

 そしてすぐ、何かを取り出そうとする。


(黒、確定)


 私はポケットから小瓶を取り出し、男達の足元に投げつけた。

 小瓶が割れると同時に、生ゴミのような酷い悪臭が漂ってきた。


 男達はすぐ顔を顰め、慌てて手で鼻を押さえる。


「走って!」


 その隙を狙って、私達はすぐ男達に背を向けて全力で走り出した。


 ニナは流石の敏捷さで、すぐ私達を引き離して先へ飛び出した。

 そのまま私とカナも全力疾走したが、すぐ後ろに男の怒鳴る声と乱れた足音が聞こえてきた。


 私達の全力疾走も虚しく、足音は徐々に近づいてくる。

 そして私の髪が力強く引っ張られた。


「っ!」


 突然の痛みに思わず声が漏れ出た。


 その声を聞いて、カナが僅かに足を緩めた。

 それがいけなかった。


 カナの肩はもう一人の男に掴まれ、私の首も男の腕で締め上げられていた。

 私の後ろにいる男は、もう片方の手で刀えお持ち、ニナの方に向けた。


「前のガキ、足を止めろ! お前の仲間が殺されてもいいのか!」


 ニナは足を止め、私の方に振り向いた。


 私は首を締め上げられ、カナは手を後ろに拘束された。

 ニナは私達を見て、一言も発さなかった。


 彼女の目は暗く澱み、普段見せていた笑顔はなくなっていた。


「……お姉ちゃん達をどうする気なの」


 ニナは男達に問いかけた。

 その声には感情が一ミリもこもっていない。


「お前が大人しくこっちに来れば、このお姉さん達に何もしないさ」


 私の後ろに立っていた男は、笑みを含んだ声で答えた。


「ニナ、逃げ――!」


 カナはニナを逃がそうと叫ぶが、すぐに男の手によって遮られてしまった。


 ニナは少し考え、ゆっくりとこちらに向かって歩き出した。


 少し驚いた。

 今までの印象から、こういった状況でもニナは迷わず自分を優先すると思った。


「ニナはお姉ちゃん達のこと気にっているから、痛くしないでね」


 彼女はそれだけ言い残して、大人しく男達に拘束された。

 ――――

 《カイ目線》

 俺は彼女から預けられた荷物を持って、ニノと一緒に、馬車が止めている空き地に帰った。

そこに未だ武器を磨いているサックスの姿が見えた。


「おー、帰ったか……カナとニナは? それにカイ、その荷物……」


 サックスは頭を上げて俺達を見て、不思議そうに首を傾げた。


「あのね、国境の砦が封鎖されたから、リリィ姉ちゃん出られなかったの。それでニナがお姉ちゃんと遊びに行きたいって言って……」


 言いながらニノは、わかりやすくしょんぼりした表情になっていく。


「そっか、それは災難だったな。ウィルが帰ってきたらまた考えよう」


 俺は二人の会話に加わらず、彼女の荷物を馬車に乗せ、そして空き地を離れようとした。


「うん? カイ、どこにいく気だ?」


 俺は何も答えなかった。

 答える必要性を感じなかった。

 俺はすべきことをするだけ。


「女子達の遊ぶ時間を邪魔したら嫌われるぞ」


 その言葉に、思わず足を止めた。


 嫌われることは別に怖くないが……

 彼女の目に映らないことは、なんとなく嫌だ。


 俺は結局その場に留まり、馬車に寄りかかって待つことにした。


 そこから二時間ほど経ち、帰ってくるウィルの姿が見えた。


「おや、もう帰ってきたのですか?」


 彼は俺を見るなり、そう言った。


「カナとニナはどこに?」


 ウィルは俺達を一通り見てから、そう尋ねた。


「あいつらは遊びに行ったって。ついでに、リリィさんも国境の砦が封鎖されたから、またカナ達と一緒にいるらしい」


 サックスは、しょんぼりしているニノに代わってウィルに言った。


「そうでしたか。町におかしなところは見られなかったですが、どうして封鎖されたのでしょう」


「領主からは何か聞いた?」


「いいえ。この空き地を使う許可だけは取れましたが、その他の話は特に」


 ウィルは手を顎に当て、少し考えた。


「カナ達を迎えに行った方がいいかもしれません」


 ウィルは珍しく、何かを警戒しているような表情を見せた。


「先ほど少し遠回りして平民街の方に行ったのですが、住民達には険しい目で見られました。それに子供拐いとかの呟きが聞こえたような……ニナもカナ達と一緒にいますよね」


 ウィルの話を聞き終わった瞬間、ニノの顔は青ざめていく。

 そして空き地を飛び出し、走り出した。


 俺もすぐに彼について行き、彼女達が向かったはずの商店街の方向に走った。


 しばらく走ると、地面に何か落ちているのが見えた。

俺はニノの肩を掴んだ。


 ニノもすぐに足を止めて、地面に落ちているものを見る。


 割られたガラスの小瓶が落ちていた。

 微かに腐った生野菜や魚のような悪臭が漂う。


 これは彼女の、リリィが自衛のために持っていた液体だ。


 ここに落ちているということは、彼女達に何かあったのだろう。


 そして遠くないところに緑色のぬいぐるみが落ちている。

 

「これは……カイ兄さん、これは何か知っているの?」


「リリィのだ」


 俺は簡潔に答えた。


 ニノもすぐに何かを察したように、不安な表情を浮かべた。


 匂いはまだ濃い。

 そんなに離れていないはずだ。


 ニノはぬいぐるみを少し見つめてから、それを拾い上げた。

 俺とニノは再び街の方に向けて走り出した。

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