女の子達のデート
ファルムの大通りに並ぶ建物はどれも華麗で、立派な意匠が施されていた。
カターレの町並みも綺麗だが、ここはそれ以上に華やかだ。
行き交う人々も、綺麗なドレスや清潔な正装に身を包んでいる者が多い。
逆に平民らしい身なりの人は、あまり見かけない。
その中で比較的質素な服装をしている私達は、少し浮いている気がした。
「東領は貴族が多いって噂だけど、本当? ニナ」
「本当だよ。特に東領の中心部は貴族の住宅地って感じ。この町は商人が入りやすいから、買い物の場所って感じなの」
ニナは得意げに説明し出した。
「ニナは東領出身?」
私は話の流れから推測したことを、そのまま口に出す。
「そうだよ! ニナとニノは、ここから隣の町に住んでたの!」
ニナは笑顔で答えた。
(なら、今回は彼女達にとって里帰りにもなるのかな)
「ニナとニノは、家に帰らないの?」
「うーん……どうだろう。ニナとニノ、パパとママに黙って家を出たから、帰らないと思う」
ニナは笑顔を崩さなかったが、声色がほんの少し沈んだ気がした。
「ねえ、あそこのお店。綺麗なドレスが並んでる! 入ってみよう」
カナは話題を逸らすように、すぐ近くの服屋を指差した。
「わあ、あのピンクのスカートかわいい! 行こう行こう!」
私はニナとカナに手を引っ張られ、服屋に入った。
「いらっしゃいませ! どんな服をお探しで――」
店員は満面の笑顔で挨拶をしてくれた。
だが、私達を見るなりその笑顔はすっと消える。
「あー……すみませーん。うちには平民の服を置いていないのです」
遠回しに出て行けと言われた。
店内には高そうなドレスがずらりと並んでいる。
貴族向けの店なのだろう。
「はあ? 私達、お客さんなのよ! 何、その態度!」
カナが不満そうに声を吊り上げる。
「すみませーん。でもお客様方には、ここのドレスは少々高価すぎるかと」
店員は嘲笑うように手で口元を押さえた。
カナは今にも暴れ出しそうな形相をしている。
ここで騒ぎを起こすのはまずい。
「カナ。私、服より何か食べたい」
私は彼女の腕を軽く引っ張った。
ニナも元気よく乗っかる。
「食べ物? ニナ、甘いもの食べたーい!」
「あなた達がそう言うなら……」
カナは渋々、店を出た。
背後から愉快そうな「ありがとうございまーす」が聞こえてくるが、私達が振り返ることはなかった。
屋台が並ぶ通りまで歩くと、ようやく少しずつ平民らしい人の姿も見かけるようになった。
鮮やかな色をした瑞々しい果物や野菜。
香ばしい匂いを漂わせる肉串。
可愛らしく飾られたお菓子。
美味しそうな食べ物が並び、ニナのテンションは一気に上がった。
「わあー、全部美味しそう! 何を食べようかなー」
彼女はあっちこっちへ走り回り、屋台を素早く見て回った。
「逸れるわよー」
カナが少し声を大きくして呼びかける。
ニナは肉串を少し眺めた後、私達のところに戻ってきた。
「ニナね、甘いお菓子が食べたいの!」
そう言って、飴菓子を並べた店までカナを引っ張っていく。
(さっき肉串を見てた気がするけど……本当に甘いものが食べたいのかな)
小さな疑問はすぐに心の奥へしまい、私は二人の後を追った。
一通り腹を満たした後、私達は雑貨屋に入った。
どうして入ったかというと――
「ニナ、ニノにお土産を買いたい!」
その一言で、私達はニナのプレゼント選びに付き合うことになったのだ。
「せっかくだから、リリィちゃんもカイに何か買わない? カイ、喜ぶと思うよ」
「うーん、考えておく」
いつも荷物を持ってもらっているし、お礼に買ってもいい。
でも彼は本当に喜ぶだろうか。
そもそも、彼に懐かれた理由がまだよく分からない。
「カナは買わないの? サックスとかに」
この一週間の旅で、カナとサックスが結構親しいのはなんとなく分かっていた。
「そうね。サックスだけプレゼントがないのもかわいそうだし、何か選ぼうかしら」
――では団長は可哀想ではないのか。
そう思ったが、私から何かを贈るなんて絶対にない。
彼も喜ばないだろう。むしろ気味悪がられる。
私は店内に並ぶアクセサリーをざっと眺めた。
視界の端に、ぬいぐるみを見つめるニナの姿が映る。
彼女の顔から表情が消えていて、少し珍しかった。
(あれは熊……いや、犬?)
緑色で、頭の上には耳らしきものがついている。
どこか不格好で、奇妙なデザインのぬいぐるみだ。
「そのぬいぐるみが欲しいの?」
私はさりげなく聞いてみた。
私の声を聞いた瞬間、ニナはぱっと笑顔を作った。
そしてそのぬいぐるみの隣に置いてあった、女の子の人形を抱き上げる。
「ううん! ニナはこっちのお人形さんが好き!」
いつもの笑顔、いつもの声。
それでも、さっきの無表情を見てしまった今――その笑顔がどこか嘘っぽく見える。
「……この人形がいいの?」
確認するように、私はもう一度問いかけた。
ニナは驚いたように目を見開いた。
「リリィ姉ちゃんは、この人形をかわいいと思わないの?」
「別に。どっちかというと、隣のぬいぐるみの方が面白いデザインだと思った」
そう言って、私はその謎のぬいぐるみを持ち上げた。
ニナは口を結び、微かに息を呑んだ。
そして抱き上げていた人形をそっと置き、私の手からぬいぐるみを取った。
「……リリィ姉ちゃんが欲しいって言うなら、ニナはこっちにする!」
そう言って、ぬいぐるみを抱えてカナの方へ走って行った。
(欲しいとまでは言ってないけど……。きっと言い訳が欲しいだけなんだろう)
私は再びアクセサリーへ視線を戻した。




