東の町ーファルム
ここからSecond Showです。
今後は文字数もうちょっと均等にしたいと思います。
なお、視点がゴロゴロ変わります。
その度に標記しますので、悪しからず。
引き続きよろしくお願いします。
馬車に揺られて一週間。私達は東領の辺境にある町ファルムまで来た。
私達は空き地を探し、そこで馬車を止めた。
「私は領主に挨拶して、空き地の使用許可を取って来ます。あなた方はリリィ様を砦まで送ってください」
そう言って、ウィルは一人でどこかへ行った。
団長がいなくなったのを見て、カナは私達のほうを向き、透き通った声で言う。
「リリィちゃんを送る人と、荷物を見守る人の二手に分かれましょう。私はリリィちゃんを送るわ。サックス、荷物を見ててくれる?」
「ああ」
カナは素早く役割を振っていく。そしてカイと双子達に目を向けた。
「あなた達はどうする? 自由に選んでいいわよ」
カイは無言で手を伸ばし、私の腕を掴んだ。
そして眼帯で覆われていないほうの、深く青い瞳で私を見下ろす。
「カイは本当にリリィちゃんにべったりね。惚れ薬でも飲ませたの?」
カナは揶揄うように笑った。
「そんな薬作らないよ」
私は適当に返事をする。
惚れ薬を作る材料なんてないし、仮にあったとしても、もっと別の薬を作りたい――と、心の中で密かに思った。
しかしカイが私にべったりになったのは、誰が見ても事実だ。
馬車に揺られたこの一週間、私がどこへ行ってもカイはついて来ようとする。
まるで親についていく雛鳥のように。
(ずいぶん大きい雛鳥ね。まあ、そんな生活も今日で終わりそうだけど)
私は軽くカイの手を解き、自分の荷物を詰め込んだ鞄を持ち上げた。
そもそもエルメさんのところで居候させてもらったのは一年ほどだ。服と実験道具以外、あまり物を持っていない。
カイは無言で手を差し出した。
「ありがとう」
私はその手に荷物を載せる。
知り合って短い間だけど、彼の意図はなんとなく分かってきた。
最初は軽い荷物でも遠慮していたが、その度に彼が不満そうに見てくるから、今では遠慮しないようにしている。
「ニナはね、リリィ姉ちゃんについていきたい!」
「じゃあ僕もニナと一緒に行く」
ニナは元気よく手を上げ、ニノはそれに唱和する。いつもの風景だ。
「ニナニノも行きたいの? それだとサックスが一人だけになっちゃうわ」
カナが少し困ったように言った。
「別にいい。俺一人で荷物を見てる」
サックスは馬車から椅子を取り出し、武器磨きを始めようとしていた。
「そう? じゃあしばらくお願いね。すぐ帰るようにするから」
そう言って、私達五人は国境にある砦へ向かって歩き出した。
――――
「申し訳ありません。領主様から国境を封鎖するよう命じられております」
「封鎖するって、いつまで? どうして封鎖するの?」
「申し訳ありません。お答えしかねます」
早速問題に遭遇してしまった。まさか国境が封鎖されるとは。
(すんなり行けるとも思ってないけどね)
簡単に出られるなら、サーカスに依頼することもなかった。
懸命に兵士と言い争っているカナには悪いけど、ここは諦めるべきだろう。
私はカナの前に出て、兵士に言った。
「分かりました。お仕事の邪魔をしてすみません」
そして四人を連れて、来た道を引き返した。
「困ったわね。東領から出た方が、この国から出やすいと思ったのに。振り出しに戻ったわね」
カナが私の隣を歩きながら、考えるように両手を絡めた。
カナの言う通り、この国の東は陸路に繋がっていて、他国へ行きやすい。
南領や西領だと、他国へ行くには海を越えなければならない。
残る選択肢は北領だけだ。
「今の北領は出入りを制限してるんだっけ」
私はカナに確かめる。
「そうなのよ。一年前から内政がゴタゴタしてるらしくて、出入りが難しくなってるらしいの」
八方塞がりである。
「ねえ、つまりリリィ姉ちゃんは、しばらく私達と一緒にいられるってことでしょう?」
ニナは満面の笑みで私とカナの前まで走り、弾んだ声で言った。
「でも、リリィちゃんはこの国から出たいでしょう」
「出られないものは仕方ないよ。帰ってウィルさんと相談しよう」
私はカナを慰めるように、彼女の肩を軽く叩く。
「それもそうね」
どうにか気持ちを切り替えたカナは、少し微笑んだ。
「ねえねえ、ニナね! リリィお姉ちゃん達と一緒に町を見て回りたい! 女の子同士のお出掛け!」
ニナは後ろのカイとニノに目もくれず、そう提案した。
「いいわね! ずっとリリィちゃんにいろんな服を着せたいと思ってたの」
カナもノリノリである。
「ニナ、僕は?」
ニノはニナの隣に来て、可哀想な目でニナを見た。
「今日は女の子だけで遊びたいの! ニノは帰って待ってて」
ニノは悲しそうに口を開けた。
なんとなく背後に「ガーン」という効果音が聞こえる気がする。
カイは相変わらず沈黙を貫いている。
……たぶん、気配を消してついてくる可能性が高い。
「カイとニノはサックスに合流して、国境が封鎖されたことを伝えてね。私達も少し見て回ったら帰るから」
カイはカナの話を聞くと、不機嫌そうに彼女を見た。
私としては別に女の子だけのお出掛けに拘る気はないけど、カナには結構お世話になった。
彼女も乗る気なら、少し付き合ってあげたい。
「カイ、私の荷物をサーカスまで持ち帰ってくれる? すぐ帰るから」
カイはまだ不機嫌そうだったが、渋々頷いてくれた。
そうして、ニナ、カナと私は町を散策することになり、カイはニノと一緒にサーカスへ帰った。




