旅立ち
サーカスに依頼してから、私はすぐ身支度に取り掛かった。
エルメさんや、お世話になった人たちにも挨拶をした。
私は「サーカスに加入する」という体で、エルメさんに町を離れることを伝えた。
元々、私はエルメさんに拾われたようなものだから、出ていくこと自体はあまり問題にならない。
「そう……あなたの選択なら、止めないわ。でも、いつでも帰ってきていいからね」
エルメさんは、私を引き留めることはしなかった。
けれど、どこか悲しそうな眼差しを向けられた気がする。
(結局、エルメさんはなぜ私を拾ったのだろうか)
今さら疑問に思っても、それを口に出すことはできない。
多分、これは私が知らなくてもいいことだから。
だから、時折向けられる、心配そうで、どこか申し訳なさそうな視線の理由も、私は知らなくていい。
そしてサーカスは、この町で最後のショーを行い、
その翌日、私は彼らとともに旅立った。
二台の馬車が走り、カターレという町を後にする。
彼らは今、中央領を抜け、東へ向かっていた。
「リリィちゃんが一緒に旅に出てくれて嬉しい! このサーカス、男ばっかりだから、もっと女の子と話したかったの」
カナは嬉しそうに私の隣に座り、話しかけてきた。
「ニナもうれしい! お姉ちゃんが増えた!」
ニナも楽しそうに、私の腕を掴んでくる。
カイは私の向かいに座り、何やら不機嫌そうにカナとニナを睨んでいた。
(あの潜入から、妙になつかれた気がする……)
サーカスにいる間は、どこへ行くにもついて来るし、
カナの話によると、カイは時々サーカスを抜け出して、診療所にも来ていたらしい。
それに関しては、正直まったく記憶にない。
(まあ、あの日の秘密は守ってくれているみたいだし、それくらい目をつぶればどうってことない)
東の辺境町に着いたら、私をこの国から出す方法を探す、という話になっている。
だから、この旅も、そう長くはならないだろう。
私は馬車に揺られながら、東へ向かっていくのだった。




