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シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
First Show

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29/55

《カイ目線》

 俺が暴走者全員を縛り上げた頃には、もう彼女はいなかった。

 彼女が立っていた場所には、何かの液体の入った大きな瓶と一枚のメモが残されていた。


 『これを一匙ずつ、暴走者に飲ませて』


 彼女がその場で作った薬だろう。

 分量が多くない。どこまで飲ませられるかわからないが、とりあえず言う通りにするしかない。


「カイ、お疲れ。リリィさんはどこに行った?」

 彼女はサックスと俺の目を掻い潜って、いなくなったのだ。

 そのことに、少なからず驚きを覚える。

(だが、彼女の居場所に心当たりはある)


 事件の元凶であるラヒルもいない。

 ということは、あそこに行ったに違いない。


 俺は地面に置かれていた瓶とメモをサックスに渡した。

「うん? リリィさんからの指示か?」

 サックスがそれらを受け取った直後、俺はすぐその場を離れた。

 後ろで戸惑っているサックスを置いて。


「あ、おい! どこに行くんだ。僕一人でこの人数をどうやって見るっていうんだ。まったく……外で待機してる双子を呼ぶか」


 俺は倉庫に入り、すでに開けられていた地下倉庫を覗いた。

 そこから、微かな光と人の声が漏れている。


「以上が、私のあなたに対する考察。

 経歴自体には興味ないけど、研究内容はなかなか面白いと思った」


 彼女の声だ。

 相手はラヒルという男だろうか。

 だが、その男の声は聞こえない。


 俺は気配を消し、地下倉庫に入った。


 ラヒルは棚に背を押しつけ、青白い顔で彼女を見ていた。

 彼女は俺に背を向けているため、表情は見えない。


 だが、話を聞く限り、彼女は研究の話をしているようだった。

『液体』『適用』『反発』


 内容は難しく、俺には理解できない。

 だが一つだけ、はっきりとわかることがあった。


 彼女の声に、感情が一切こもっていない。

 あの柔らかかった声は、今や凍りついた氷のようだった。


 そして彼女は、ラヒルに何かを注射した。


「……ウーム、デキム」


 ラヒルは最後にそう呟き、意識を失った。

 どういう意味だろうか。

 彼女と関係のある言葉なのだろうか。


 彼女は彼の失神を確認すると、俺の方に振り返った。

 その瞳は、宝石のように冷たかった。

 ――あの白鼠を見る目よりも。


 俺は胸の奥に、熱い何かを感じた。

 心臓が重く跳ね上がる。

 彼女の目から、視線を逸らすことができなかった。


 彼女は指を唇に当て、微かな笑みを浮かべて、俺にこう言った。


「――ここで聞いたことは、秘密だよ」


 この感情の名前を、俺は知らない。

 だが、頭に浮かんだ言葉がある。


 ――美しい。

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