研究の妨げ
「あっそ……じゃあ君たちは邪魔だね」
彼は一瞬で興味を失ったように言い放ち、背を向けた。
そして、すぐそばにある扉を開ける。
そこから、数人の暴走者が、ゆっくりと姿を現した。
暗がりの中で判然とはしないが――
今朝会った執事の姿も、混じっているように見える。
(おそらく、私たちが領主に面会した直後、使用人全員に投薬したのだろう)
――研究を妨げ得る存在を、排除するために。
カイはすぐに私の前へ出て、新たな針を構え、臨戦態勢に入った。
だが、階段を降りてくる暴走者の数は圧倒的に多い。
カイは近づいてくる者から次々と針を投げていくが、補充の速度が追いつかない。
その時、数人の暴走者が私の背後へ回り込む気配を感じた。
すぐに後ずさったが、カイは前方の処理で手が離せず、私には対抗する術がない。
一雫、冷や汗が頬を伝う。
いよいよ、私たち二人が何十人もの暴走者に囲まれ、身動きが取りづらくなった、その瞬間。
二階から、長い棒を手にした誰かが飛び降りてきた。
「はあああっ!」
落下の勢いをそのままに、カイとは反対側――私に迫っていた暴走者たちを、まとめて薙ぎ払う。
「無事か?!」
サックスが長棒を構えたまま、こちらを振り返る。
「無事よ、ありがとう」
サックスの飛び入りで一瞬の余裕は生まれたが、状況が好転したわけではない。
依然として、私たちは何十人もの暴走者に囲まれている。
「二階には人の気配がまったくなかった。領主の部屋も覗いたが、深く眠っている。多分、何か盛られているな。
リリィさん、僕はどうすればいい?」
サックスは長棒で暴走者の接近を食い止めながら、簡潔に報告してくれた。
ここまで騒ぎになっても領主が現れない以上、彼の推測は当たっている可能性が高い。
相手も、領主邸で騒動を起こすことの重大さは理解しているのだろう。
それは、こちらにとっても都合がいい。
「なるべく使用人たちは傷つけずに無力化したい。
カイには中和剤を持たせてあるから、サックスは足止めをお願い」
「了解!」
サックスは長棒を巧みに操り、暴走者たちの進行を妨げる。
カイも次々と暴走者を無力化していった。
――だが、ここで問題が発覚した。
カイに持たせた筒の中の針が、残りわずかだ。
(これは……まずい)
ここは、行動方針を変えるべきだ。
「カイ、針を投げるのは一旦やめて! 糸で拘束して!」
カイは即座に針を筒へ戻し、別の道具を取り出すと、暴走者の群れへ飛び込んだ。
攻撃を巧みにかわしながら群れを駆け抜け、階段や壁を踏み台にして縦横無尽に跳ぶ。
気づけば、一部の暴走者が見えない糸で繋がれ、一纏めにされていた。
カイとサックスが足止めをしてくれている間に、私はポーチから予備の鎮静剤と、エルメさん製の頭痛薬を取り出し、その場で中和剤の調合を始める。
(どれだけ作れるかは分からない。でも、できるだけ多く)
足りなかった分は、事態が収束してから対処すればいい。
私は一心不乱に手を動かした。
それでも、周囲への警戒だけは怠らない。
カイが次々と暴走者を拘束していく動きも。
サックスが長棒を巧みに操り、敵をカイの方へ誘導する姿も。
――そして、混乱に紛れて、ラヒルが密かに倉庫へ入っていく後ろ姿さえも。
すべて、私の視界に収まっていた。




