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シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
First Show

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24/55

最後の静寂

 夜十一時半。

 約束の時間まで、あと半時間。

 私は動きやすい服装に着替え、髪を高く結った。

 今日、半日かけて作ったものを、ジャケットの内ポケットに一つずつ慎重に入れていく。

 大きな鞄は邪魔にしかならないため、小さなポーチをベルトで腰に固定した。


 準備が整ったところで、私は足音を殺し、エルメさんに気づかれないよう玄関へ向かった。


「リリィちゃん?」


 呼び止める声がした。

 エルメさんの声だ。

 どうやら、私の努力は無駄だったらしい。


「どこかに行くの?」


 エルメさんは、いつも通り穏やかな声で問いかけてくる。


「……ちょっと眠れなくて。夜の散歩に」


 どう見ても散歩に出る格好ではないが、なんとか誤魔化す。


「そう……夜は危ないから、早く帰って来てね」


 胸の奥が、少しざわついた。

 これは、罪悪感というものだろうか。


「わかりました。少し歩いたら、すぐ帰って来ます」


 そう言って、私はエルメさんに顔を向けないまま、診療所を出た。


「……私は結局、あなたを救えなかったのね」


 エルメさんの呟きが、静寂の中に静かに響いた。

 

 ――――

 診療所を抜け出したあと、微かな緊張と、必ず目標を果たすという決意を胸に、私は集合場所へ向かって歩き出した。


 少し進んだところで、カイの姿が見えた。

 私を迎えに来てくれたのだろうか。

(打ち合わせでは、そんな話は一言も出ていなかったけれど)


 どちらにせよ、迎えがあるのはありがたい。

 道中で襲われでもしたら、洒落にならない。


 カイは全身黒ずくめの衣装に身を包んでいた。

 いかにも潜入調査向きの格好で、口元は布で覆われている。

 彼は私の歩幅に合わせ、横に並んで歩き出した。


 私たちは、特に言葉を交わさなかった。


 やがて領主邸の近くに到着し、サックスと合流する。

 サックスは私に軽く会釈した。


「リリィさん、作戦を共有したいんだけど、いいかな」

「お願いします」


 サックスは見取り図を、私にも見えるように広げ、潜入経路を説明した。

 基本的には、二手に分かれて行動するらしい。


 屋敷はかなり広く、全員で固まって動くと効率が悪い。

 二階は寝室が多く、調べる部屋も限られているため、サックスが一人で担当するとのことだった。

 私とカイは一階を調べる。

 地下室や隠し部屋の可能性を考えると、二人で行動した方が漏れなく調べられるだろう。


 説明が一通り終わり、私はサックスの手に視線を向けた。

 包帯が巻かれている。


 今朝、カナがネズミの脱走について話していたが、それが原因だろうか。


「あの、サックス。その手って……」

「うん? ああ、気にしないで。大したことじゃないよ」


 大したことがなくても、サックスは武器を扱う人間だ。

 まったく影響がないとは言い切れない。


「ショーは大丈夫だった?」

「問題ない。僕は痛みに強いからね」


 サックスは、私を安心させるように微笑んだ。

 見た目に反して、この人もかなりのお人好しだ。


 カナといい、サックスといい、どうして裏の世界に踏み込んでしまったのだろう。


 ……けれど、それは私には関係のない話だ。


(所詮、任務が終われば、私たちはただの他人に戻るのだから)

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