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シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
First Show

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18/55

作戦会議

「さて、会議を始めましょうか」


 ウィルはテーブルの端に座り、私たちを見渡した。

 彼の右隣には双子のニナとニノが、互いに寄り添うように腰掛けている。そして私はその隣に座った。

 カイはなぜか席につかず、私の後ろに立っていた。

 カナとサックスは、私たちの向かい側に座っている。


「まず初めに、リリィ様の研究報告を共有しましょう。

 リリィ様、お願いできますでしょうか」


 ウィルさんは両手をテーブルの上で組み、顎を乗せながら私を見た。

 私は実験記録を手に取り、先ほどまでに判明した結果を、できるだけわかりやすく説明する。


「――今わかっているのは、これくらいです。

 判明している成分はいずれも正常なものなので、恐らく未解析の成分が、事件の原因に直接関係していると推測されます」


「ありがとうございます。アイリスについては、今後も研究を続けましょう」


 ウィルは満足そうに微笑んだ。

 あの笑顔は、何度見ても苦手だ。


「それでは、私から新たな報告をしましょう」


 ウィルは姿勢を正し、優雅に足を組む。


「ウィル、今日は何してたの?」


 カナが問いかける。

(そういえば、来た時はいなかったような)


「この町の領主を訪ねていました。

 明日サーカスショーがありますので、ぜひお誘いしたかったのですが……残念ながら門前払いを食らってしまいました」


 その言葉に双子たちが騒ぎ出す。


「団長さん、断られちゃったんだ。面白いねー」

「笑えるねー」


 心から楽しそうな声だ。

 この双子たちも、ウィルさんに負けず劣らず性格が悪そうだ。


「人の不幸を笑うものではありませんよ」


 そう言いながらも、ウィルさんの表情は変わらない。

 恐らく、本心では気にも留めていないのだろう。


「話を戻しましょう。

 私が伝えたかったのは、門前払いの理由です。

 どうやら領主は体調不良で、誰とも面会できない状態らしい」


 領主の体調不良は、サーカスが来る少し前から噂になっていた。

 これをきっかけに領主交代があるのでは、と町がしばらく騒いでいたほどだ。


「そして、その体調不良についてですが……執事に話を聞いたところ、原因不明の頭痛と不眠が続いているようです」


 話の雲行きが、怪しくなってきた。

 領主の症状は、町で続出している患者たちのものと一致している。


 そんなはずが――。


「その領主も、この栄養剤を服用してるってことでしょ」


 カナが手を挙げて言った。


「領主は貴族です。

 貴族が、平民と同じものを服用すると思いますか」


 ウィルは珍しく表情を引き締めて反論した。

 カナとサックスは、ようやく事態の重大さに気づいたのか、顔を強張らせる。


 沈黙の中、私は小さく手を挙げ、自分の考えを口にした。


「考えられる可能性としては……

 領主が知らないうちにアイリスを手に入れた、もしくは――」


 ――アイリスそのものが、領主のもとから流出したか。


 その可能性を口にした瞬間、カナとサックスの表情が一層厳しくなり、ウィルは完全に真剣な顔つきになった。


 正直に言って、後者の方が可能性は高い。

 偶然だとしても、貴族が平民向けの品を手に取る機会は、ほとんどないのだから。

 今思えば、領主交代の噂が出始めた時期と、頭痛を訴える患者が増え始めた時期も一致する。


「何はともあれ、領主が流出源だった可能性がある以上、我々はそれを調査しなければなりません」

 ウィルさんはそう言い放った。


「潜入するのー、面白そう!」

「スパイごっこやりたい、やらせて!」


 重たい空気を一掃するかのように、双子たちは意気揚々と声を上げる。


「あなた方はいい加減、自分たちが隠密行動に向かないことを自覚しなさい。やることなすことが派手すぎるのです」

 ウィルはげんなりとした声で、双子たちの提案を却下した。


「「えー」」


 不満げな声を発する双子を無視し、ウィルは話を続ける。


「ここは慎重にいきましょう。まずは領主邸のおおよその見取り図を手に入れます。例の開発者が潜伏している場合、そう簡単に見つかるとは思えません。見取り図を入手次第、領主邸に侵入し、怪しい場所を徹底的に調べましょう」


 簡潔で筋の通った作戦だ。

 問題は、誰が、どのように実行するか――。


「明日の早朝、私はもう一度領主邸に伺います。そこで、どうにか中に入れるよう言いくるめましょう」


 そう言って、カナが手を挙げた。


「私も行くよ。屋敷の見取り図を作るなら、私の動物たちを使った方がいいでしょう」


 この言い方だと、どうやらカナは黒豹だけでなく、他の動物も飼っているようだ。


「そうしましょう。貴族の礼儀作法も身につけているあなたなら、適任です」


 いかにも貴族然としたウィルさんはともかく、なぜ一介の演者が貴族の礼儀作法を身につけているのかは気になる。

 だが、その疑問に目を背け、私もすぐに手を挙げた。


「私も連れて行ってください。領主の診察という名目なら、通してもらいやすいはずです」


 領主の状況が気になる。

 この町に来て間もない私でさえ、領主の素行の良さは常々耳にしている。

 とても、怪しい薬を流通させるような人物には思えなかった。


「確かに、あなたがいれば説明はしやすいでしょう。しかし、本当によろしいのですか? ここから先は、危険を伴いますよ」


 ウィルさんは、私を見定めるような視線を向けてくる。

 ――今さらだ。


 この作戦会議に参加している時点で、私はすでに彼らの“裏”に足を踏み入れている。


「巻き込んだ当人が聞くようなことではない気がしますが」


 嫌味を込めて、そう言い返した。


「本当に、あなたは逞しい女性ですね」


 ウィルさんは、さも面白い生き物を見るかのように笑った。


「速戦即決といきましょう。明日の夕方にはサーカスショーがあります。深夜に屋敷へ侵入します。

 実行役はカイとサックス。

 万一の撹乱役として、ニナとニノは屋敷付近で待機してください」


「「はーい」」


 双子は元気よく返事をした。

 サックスも短く「ああ」と答え、了承を示す。


 そこで、私は再び手を挙げた。


「私も行く」


 今度は、全員が驚いた表情を浮かべた。


「リリィ様、自分が何を言っているのか分かっていますか。これは遊びではありません。素人のあなたは足手まといです」


「そうだよ。リリィちゃんは、自分から危険に飛び込む必要はないの。私たちがちゃんとやるから、あなたは家で待っていて」


 ウィルさんは厳しく言い放ち、カナは心配そうに私を見る。


 無謀だと言われるのも理解できる。

 けれど、私にも譲れない理由があった。


「アイリスの中で、まだ判明していない成分があります。もし開発者が屋敷に潜んでいるなら、その材料もそこに隠されているはずです。それを見分けられるのは、薬の知識を持つ私しかいません」


「そんなの、開発者を捕まえた後に――」


「あなたたちは、その場でどの材料がアイリスに使われているか分かりますか」


 私は、やや前のめりになってカナの言葉を遮った。


「屋敷にアイリスがあったとしても、他人から買い取ったと言い訳されれば、それで終わりです。

 言い逃れのできない証拠を見つけるには、私の知識が必要なはずです」


 その言葉に、誰も反論できなかった。


 それでもカナは、最後まで私を案じて声をかける。


「でも、リリィちゃんの安全は誰が保証するの……?」


「俺がつく」


 議論に終止符を打ったのは、

 それまで一言も発していなかった――カイだった。

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