実験の成果
あれから、だいぶ時間が経った。
日はすでに傾き、少しずつ落ちていっている。
今日の実験結果を記録したら、これで一段落としよう。
今の時点でわかっているのは、栄養剤のおおよその成分だ。
ラベルに記されている効能は、身体能力向上と集中力向上。
そして、実際に含まれている成分は、主に三つに分類できる。
神経を刺激するもの、代謝を促進するもの、そして味を甘くするもの。
それだけを見るなら、普通の栄養剤に見える。
(けど、その中に、まだ分析できていない成分が含まれている)
持ち合わせている道具だけでは、その正体をはっきりさせることはできない。
一方、投入実験のほうでは、微かながら変化を観察することができた。
(投入して一時間後、ネズミは活発に動き回り始めた。
半径五センチのかじり木を与えてみたところ、数秒で半分ほどかじり切った。
さらに二時間後、同じ太さのかじり木を新たに与えると、同程度の時間で完全に二分した)
明らかに身体能力が向上している。しかも、その効果は持続的だ。
一度の投入でここまでの効果が出るとなると、思っていた以上に危険な代物らしい。
これを長期的に投与すると、どうなるのか。
それについては、改めて検討する必要がある。
数日かけて、実験を続けよう。
最後の行を書き終えた、その瞬間――
背後から手が伸び、私の実験記録を取り上げられた。
「ほう。この数時間で、ここまでわかるとは。やはりあなたは優秀ですね」
この無駄に甘ったるい声。
振り向かずとも、誰だかわかる。
「……いらっしゃっていたんですか、ウィルさん」
「ええ。先ほど戻ってきまいりました。
リリィ様がまだいらっしゃると聞き、進捗を確かめに来たのですよ」
振り返ると、ウィルさんは相変わらず爽やかな笑顔を浮かべていた。
「あなたのおかげで、かなり確信が持てました。
この栄養剤こそが、町で起こっている事件の原因でしょう。
これで、次の段階へ進めます」
「……次の段階とは?」
ウィルさんは実験記録をテーブルに戻し、栄養剤を手に取った。
「開発者を捕まえます。
計画を説明する前に、全体会議を開きましょう。
他の者を呼んできますので、少しここで待っていてください」
――――
軽く片付けながら待っていると、ドタバタとした二つの足音が近づいてきた。
「リリィ姉ちゃん来たよ!」
「会いに来た!」
双子たちが元気よくテントの幕を巻き上げた。
多分、ウィルに呼ばれて走ってきたのだろう。
「カイさんと椅子を並べて置いたから、適当に座って」
会議というから時間がかかると思い、あらかじめカイさんと一緒に椅子を用意しておいた。
けれど双子たちは椅子には向かわず、私の目の前に置かれている籠に近づいた。
「この子なーに?」
「かわいいねー」
キラキラした子供の目を見て、本当のことを言っていいのか一瞬迷った。
「……実験用の白鼠だよ」
嘘をつくとしても、私にはうまい誤魔化し方がわからない。
なら正直に言った方がいい。
「へー、実験されちゃうんだ。かわいそうー」
「かわいそうだねー」
双子たちは憐れむ言葉を口ずさんだ。
けれど彼らの表情をよく見ると、二人とも不気味なほど満面の笑みを浮かべ、瞳の奥に仄暗い何かが宿っていた。
見覚えのある目だ。
(この子たちも、やっぱり裏側の人間なんだ)
そして数分も経たないうちに、カナと槍使いの男が入ってきた。
「リリィちゃん、さっきぶりー」
カナが軽く手を振る。
「どうぞ、好きなとこ座って」
二人をテントの中に招き入れた。
槍使いの男に目を向ける。
さっき挨拶できなかったから、今しよう。
「リリィです。しばらくよろしくお願いします」
「サックスだ。よろしく」
彼は軽く微笑みながら名乗った。
思いの外、好青年なのかもしれない。
カナもそうだが、あの腹黒団長の下で働いているとは思えない。
「というかリリィちゃん、しばらく協力し合うんだから、私たちに敬語はいらないよ」
カナは私の向かいの席に立って、そう言った。
私はつい、カイさんに視線を向ける。
カナ、双子たち、そしてサックスたちは快く私を迎えてくれている。
しかしカイさんとの距離感は、まだいまいち測りきれない。
(カイさんとも敬語なしでいいんだろうか)
けれどカイさんは特に反応を示さなかった。
「……わかった。お言葉に甘えて、敬語なしで話すよ」
軽く雑談しているうちに、ウィルさんが入ってきた。
「これで全員が揃いましたね。すぐ会議を始めましょう」
そして、全員がテーブルを囲んで座った。




