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シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
First Show

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13/55

依頼

 あの暴れ出す患者の事件から、五日が経った。

 それからというもの、頭痛と不眠を訴える患者が次々と増え、ときおり暴れ出す者まで現れるようになった。

 診療所はとにかく大忙しで、取り寄せたばかりの薬材も、すぐに底をつきそうだ。


 店主からもらった例の栄養剤も、いつの間にか姿を消している。

 だが、それを調べる暇すらなく、放置したままだった。


 これほど同じ症状の人間が続けて出てくると、この町で何かが起きていると考えずにはいられない。

 エルメさんの作る薬で症状は抑えられているが、それもまた謎だった。

 あれが、ただの頭痛薬でないことくらい、もう分かりきっている。


 それでも問いただそうとすると、いつも話を逸らされてしまう。


(エルメさん、私に何か隠している)


 けれど、私はここに居候させてもらっている身だ。

 彼女が話してくれない以上、これ以上踏み込むのは難しい。


(そういえば最近、カイさんと会っていないな……)


 診療所では姿を現さないでほしいと私が言ったから、きっと律儀に守っているのだろう。

 実際、監視されているという事実すら、頭の片隅に追いやってしまうほど忙しかった。


 今日も、ひどい頭痛を訴える患者が四人。

 暴れ出した患者が一人。


 すべての診察が終わったころには、疲労で思考が回らなくなっていた。


 重い体を引きずって自室に戻ると――

 そこに、ピエロ姿のカイさんが立っていた。


「…………」


 一瞬、言葉を失った。

 許可もなく女性の部屋に立ち入るのは、さすがにどうかと思う。

 あの団長は、最低限の常識すら叩き込まなかったのだろうか。


「……どういうご用件でしょうか」


 部屋の真ん中に無言で立たれるのは、かなり不気味だ。

 用件を聞いて、さっさと出て行ってもらいたい。


「ウィルが呼んでいる」


 嫌な予感が、背中を這い上がる。

 ウィル――あの団長が、私を。


「え、ちょっと、待って。仕事が終わったばかりで――」


 私の言葉を待たず、カイは私を抱き上げた。

 そして、そのまま窓の外へと飛び出した。

 

 ――――

  私はそれなりに上等な椅子に座らされ、目の前ではサーカスの団長が優雅に紅茶を飲んでいた。

 背後には、前回と同じようにカイさんが立っている。


 前回と違う点があるとすれば、私の前にもきちんとお茶が出されていることくらいだ。

 待遇は良くなっているが、疲労が抜けたわけではない。

 正直、早く用件を済ませてほしかった。


「あの……ウィルさん。今回は、どんなご用件で?」


「実は折り入ってお願いしたいことがありまして」


 ウィルは爽やかな笑顔を浮かべる。

 その笑顔が爽やかであればあるほど、嫌な予感しかしない。


「連日、原因不明のまま暴れ出す人が続出している。それに、正体不明の栄養剤も出回っている。あなたなら、もう勘づいているのでは?」


 そう言って、ウィルは机の上にオレンジ色の小瓶を置いた。


(というか……あの栄養剤、カイさんに持って行かれたのね)


「それが、何だと言うんですか?」


 ウィルの真意を探る。

 彼は、私に何をさせたいのだろう。


「実は我々、ある依頼を受けていまして。リリィ様は『エクリプス』という組織をご存じですか?」


「……知っていますけど」


 この国専属の研究組織。

 周辺国より技術が進んでいる理由の多くは、彼らの存在にあると言われている。


「最近、そのエクリプスから追放された研究者がいましてね。どうやら研究方針を誤ってしまったらしい」


 研究方針――つまり、何かをやらかしたということだろう。


「我々への依頼は、その研究者の捕獲。場合によっては――処分です」


 物騒な言葉が、静かに告げられた。


「……つまり、その研究者がこの町の異変に関わっていて、私に調査をさせたい、と」


「話が早くて助かります。我々はこの栄養剤――『アイリス』が、彼の手によるものだと考えています」


 ウィルは指を口元に当てた。

 ――エルメさんにも言わないように、ということだろう。


「あなたに、この栄養剤を秘密裏に調べてほしいのです」


「協力して、私に何か利益はあるんでしょうか」


 厄介ごとに首を突っ込む以上、見返りがなければ割に合わない。


「そうですね……あなたの依頼を一つ、無条件で引き受けましょう」


 その言葉に、思わず困惑する。


(依頼……?)


「説明が足りませんでしたね」


 ウィルは姿勢を正し、胸に手を当てて言った。


「我々《サーカス・ルミナ》は、表向きはただの娯楽団体。しかし裏では、高額報酬でどんな依頼でも請け負う“何でも屋”です。――もっとも、私の信条に反する依頼はお断りしていますが」


 そして、微笑む。


「あなたがこの協力関係に同意してくれるなら、その証として。あなたの依頼を一つだけ、無料かつ無条件でお受けしましょう」

 

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