《カイ目線》
彼女に籠を押し付けられたあと、しばらく診療所の中を観察していた。
窓越しに微かに見えたが、どうやら中で男が暴れているらしい。
その姿は、昨晩の男の状態を彷彿とさせた。
診察が終わり、人だかりが消えていく瞬間を見計らって、俺は籠を診療所の扉の脇に置いた。
そして、そのままテントへと向かう。
「町で唯一の診療所に勤め、基本的な医療知識を持っている。薬の知識も、調薬できるほど身につけている。加えて、昨晩見せた鋭い観察眼と冷静さ……彼女は、想像以上に使えそうな人間ですね」
ウィルは優雅にソファへ腰掛け、俺の報告を聞いていた。
「それに、暴れ出す患者と、この怪しい栄養剤。彼女は、いい情報源にもなれそうです」
籠を置いた際、あのオレンジ色の栄養剤だけは、こっそり持ち帰ってきた。
これは任務に関わるものだと、直感が告げていた。
「カイ。次のサーカスショーが開かれるまでに、彼女をここへ連れてきなさい」
「……どうするつもりだ」
命令である以上、従うつもりではあった。
それでも、なぜか理由を知りたくなった。
「おや、理由を聞くなんて珍しいですね。情でも湧きましたか? 知り合ってから、まだ一日も経っていないというのに」
「…………」
何も答えない。
俺に情などないことは、ウィルが一番よく知っている。
ただの揶揄だ。
「まあ、いいでしょう。教えておいた方が、動きやすいでしょうから」
ウィルは机の上の紅茶を一口啜り、言った。
「例の依頼について――彼女と、正式に協力関係を築こうと思います」




