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シャドウサーカス〜闇と光の出会い〜  作者: シン
First Show

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11/55

急患

 帰り道、カイがふいに口を開いた。

「薬、自分で作っているのか?」


 意外だった。

 彼は私に興味などないと思っていたから。

 私達はあくまで、監視する側とされる側の関係だ。


「診療所で処方している薬は、全部エルメさんが作っていますよ」

「……お前は?」

「私も一応、エルメさんから学んでいます。患者さんに処方することはありませんけど」

「なぜだ?」

「私、正式な医師じゃないから」


 エルメさんとは師弟関係だが、私は医師を目指しているわけではない。

 ただ、あそこにいる理由が必要だった。

 それだけだ。


 そうこうしているうちに、診療所の近くに差しかかった。

 診療所の前には人だかりができている。

 今日は休診日のはずだ。

 普通なら、人が集まるはずがない。


(ということは――)


 私は手に持っていた薬材の籠を、カイに押し付けた。

「あとで診療所に届けて。私、先に行く」


 反応を待つ暇もなく、診療所へ駆け出した。


「エルメさん! 急患ですか?」


 人混みをかき分け、診療室に入る。

 エルメさんはすでに髪をまとめ、マスクをつけていた。

 診療台の上では、男が暴れ回っている。

 数人がかりで押さえつけられていた。


「あ゙っ゙……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」


 男は苦しげに喘ぎ、必死に拘束を振りほどこうとする。

 数人でようやく片脚を押さえられている状態で、皆、汗を流していた。

 相当緊急な状況だ。


「リリィちゃん、ちょうどいいわ。診察道具一式を持ってきて」


 いつもの穏やかな口調とは打って変わり、エルメさんは的確に指示を出しながら患者を観察する。

「みんな、しっかり押さえてね」


 脈を測り、心音を聞き、ライトで瞳孔を確認する。

「脈が速い。瞳孔が散大しているわ。リリィちゃん、鎮静剤と、いつもの頭痛薬を」


 疑問は浮かんだが、今は聞いている余裕はない。

 私は薬棚から二本の瓶を取り出し、机の上に置いた。


「三分耐えて。すぐに鎮めるから」


 エルメさんはそれぞれを注射器に取り、まず鎮静剤を男の腕に打つ。

 しばらくすると、男の動きは徐々に弱まっていった。

 完全ではないが、その一瞬を逃さず、もう一本の薬が注射される。


 一分ほどして、男は完全に力を失い、眠りに落ちた。

 押さえていた人達は、ようやく解放されたようにその場に座り込んだ。


「お疲れさま、みんな。しばらくは大丈夫よ。ご家族の方はいらっしゃるかしら。患者さまの状況を説明したいの」


 地面に座り込んでいた女性の一人が、ためらいがちに手を挙げた。

「あの……恋人です。さっきまで一緒に出かけていました」


「そう。わかったわ。あなたはここに残ってちょうだい。ほかの方々には、あとでお手伝いのお礼をしますので、カウンターで連絡先を登録してください。リリィちゃん、お願いね」


「承知しました。みなさま、こちらへどうぞ」


 私は他の人たちを案内し、診察室を後にした。


――――

 全員の登録が終わる頃には、エルメさんも患者の恋人と話を終え、診察室から出てきた。


 恋人の女性は、ひどく感激した様子でエルメさんに礼を述べ、手伝ってくれた人たちにも直接お礼をしたいと言ってきた。

 だが、こちらから他人の連絡先を教えるわけにはいかない。最終的には、治療費を多めに支払うということで、彼女も納得してくれた。


 手伝った人たちも、最初は「お礼なんていらない」と口を揃えていた。

 本当に、この町にはいい人が多い。

 これも、この領がきちんと治められている証なのだろうか。


「お疲れさま、エルメさん。患者はどうしますか」


「ご苦労さま〜。もう薬は処方したから、目が覚めたら簡単な検査だけして、すぐ帰していいわ」


 治療中はあれほど凛としていたのに、終わった途端にいつもの気の抜けた調子に戻ってしまう。

 オンとオフの切り替えが激しすぎるのは、相変わらずだ。


「患者さん、何があったんですか」


「町を歩いてたら、急に苦しみだして暴れたんですって。今朝から頭痛がひどかったらしいけど、今日は休診日でしょう? だから薬だけもらって出かけたみたい」


 確かに、頭痛薬程度なら、診療所に来なくても買える。


「特徴は、瞳孔の散漫と、身体能力の急激な上昇ね。しばらくは定期的に検査してもらうつもりよ」


 ――瞳、身体能力。

 それって、昨日襲ってきた男と同じじゃ……。


「エルメさん、もう原因はわかっているんですか」


「そうねぇ……心当たりは、あるわよ〜」


 はっきりしない言い方だ。

 一年ほど一緒にいるけれど、エルメさんはこういうとき、何を考えているのか読めなくなる。


「それより、リリィちゃん。頼んでたお使いは?」


 ――しまった。


 慌ただしさに紛れて、カイさんの存在を完全に忘れていた。


「急いで戻ってきたので、外に置いたままです。取ってきます」


 そう言って診療所の外を覗くと、扉の横に、薬材の入った籠がきちんと置かれていた。

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