アイリス
私達は薬材を扱っている店に来ていた。
「店長さん、薬材を取り寄せに来ました。リストにあるものは、あるだけ持ってきてください。ないものは来週また来ますので、取り置きしておいてください」
「おー、リリィちゃん。ちょっと待ってくれ」
目の前にいる、かなり年配のおじさん――この店の店長は、人の良さそうな笑顔を浮かべ、リストを受け取ると店の奥へ入っていった。
カイは物珍しそうに、店内をきょろきょろと観察している。
しばらくして、店長は大きな籠を抱えて戻ってきた。
「リストにあるやつは、なるべく揃えてきたぜ。ほかのは今週中に用意する。確認してくれ」
言われた通り、私は籠の中身と数を確認し、メモを取る。
「それにしても、リリィちゃんが男を連れ歩いてるとはなぁ。恋人か?」
「違います」
こんな関係に誤解されるのは心外だ。こちらは好きで連れ歩いているわけではない。
「そっか、よかったぜ。リリィちゃんは町一番の美人だからな。恋人ができた日には、町の男どもが狂い出すだろうよ」
「大袈裟ですね。そんなにアピールされた覚えはありませんよ」
微笑みながら、やんわりと否定する。
「大袈裟じゃねぇさ。こっちはいつも相談されてるんだ。『診療所の子と話したいんだけど、どのくらいの怪我なら治療してもらえますか』ってな」
「そんな自傷予告をされたら断ってください。そんな患者が増えても困ります」
世間話をしているうちに確認は終わり、籠を持って帰ろうとした。
「確かに受け取りました。領収書は診療所に送ってくださいね」
そう言って店を出ようとすると、店長に呼び止められた。
「あー、待ってくれリリィちゃん。実は見てほしいものがあってな」
店長はカウンターの引き出しから、オレンジ色の液体が入った小瓶を取り出し、テーブルの上に置いた。
「最近、この栄養剤が流行っててな。『アイリス』って言うんだが、飲むと力が漲るらしい」
「ふーん」
そんな薬がないわけではない。ただ、大抵は一時的な効果しかなく、後に副作用が出るため、推奨されないことが多い。
「問い合わせも増えてきてて、扱おうか悩んでるんだが……どうにも怪しくてな」
店長の商人としての勘が告げているらしい言葉を聞き流し、小瓶の蓋を開けて匂いを嗅ぐ。
(甘い香り……栄養剤って大体まずいのに。この甘さも流行の理由なのかも)
蓋をしっかり閉めてから、店長に尋ねた。
「これ、買い取らせてもらってもいいですか? 調べてみますので」
「おっ、元々エルメさんに見てもらうつもりで取り寄せたんだ。代金はいらねぇよ」
「ありがとうございます。何かわかったらお知らせします」
今度こそ私は、ぼんやりしているカイを引き連れて店を後にした。




