第94話 帰還とも違うけれど
まだ数ヶ月も経ってはおりませんが……ジャディス国へ戻ってみることになりましたわ。
最後の繭殿から帰還してから数日かけて準備を整え。
転移方陣を何度か使用し、国境まで来ましたが……関所を越えるあたりで空気がびりびりしたものを肌で感じ取れるほどでした。
天候なんて可愛らしいものと言えるくらいに、雲行きが怪しく気味の悪い霧が道を塞いでいましたの。
わたくし以外に、リデル様とご一緒ですが……あの夜以来の来訪にしても、これは異常であると顔をしかめられましたわ。
「……これは、たしかに穢れをまき散らした以上の封印が施されている」
「……聖浄をさっそく」
「ああ。頼む」
本来、祖国だった場所とは言え、二度と自分のスキルを使うまいと思っておりましたが。
『わたくし』と密接な関係のあった、冥府に通ずる場所と化しているのなら放っておくわけにはいきませんわ。リデル様がライオス様方からいただいた布を何枚か宙に舞わせ、その間にわたくしは言祝ぎを紡ぎましたが。
「……やはり」
「……ひと言くらいの紡ぎでも」
節をひとつ紡いだだけで、リデル様が舞わせた布は穢れから虹色の布へと変化しました。
これでは、何枚も用意したところで同じ。鍵が存在するとされる場所はジャディスの城の玉座になると聖獣様方からお聞きしましたが……関所手前でこの程度ではわたくしたちの無事が保証されません。
仕方がありませんが、対策も兼ねて……国境の宿舎に移動することになりましたわ。わたくしたちふたりだけでは解決できないことをほかの方々に通達するための時間を作るのに。
リデル様がそのお仕事をされている間、わたくしは染まった虹布たちをひとにしようと繕いました。
(役に立つかもしれませんわ。本来なら、ライオス様方のお仕事かもしれませんが)
じっとしている間にも針を使って繋いでいく。この作業が稚拙なものだとしても、なにかの役に立つと信じて続けていく。終わる頃にはリデル様のお仕事も終わられたようで……部屋に入るなり、労いの言葉をかけてくださいましたわ。
「ひとりでこんなにもか」
「少し、雑な繕いですが」
「そんなことはない。継ぎ目がわかりにくいほどだ」
リーリルお姉様の方がお上手ですのに、リデル様の言葉に嘘がないように感じますわ。それだけの仕事が出来ているのが少し誇らしく思い、針を片付けたあとにはきちんと食事を取ることにしましたの。
明日以降に皆様がお越しになられるかはわかりませんが、今だけのこのふたりの時間を大切にするために……その、リデル様は。
添い寝とは言え、いっしょに寝ようと言ってくださいましたの!! とても驚いてしまいましたが、殿方と寝室をいっしょにするなんて初めてでしたからときめきが止まりませんでしたわ!! ですが、疲れていたのは本当だったのかで温かいリデル様の腕に抱かれるとすぐに寝てしまいましたが。
次回は水曜日〜




