第76話 知ってしまったからには(クロノソティス視点)
「……ああ。月のあの子が教えてしまったか」
ジャディスのことを。
冥府との繋がりのことを。
レティの存在そのものが、『作られた』ものだということを。
だけど、最後のところまではまだヤハルも教えてあげていないようだ。そこは一旦記憶を抜いておいてあげよう。
水鏡越しに、そっと抜くような仕草で僕の手元に『記憶』が届く。淡く光っているそれを手の中に握れば、僕の中へと吸収されていく。
「今はまだ……ダメなんだ。レティ」
あとひとつ。あとひとつの繭殿が浄化されたとしても。
僕の封印でこじ開けないように気を付けていた『冥府』の入り口がジャディスにあることは変わりない。
何もなく。
漂う亡霊たちを糧に。
穢れが穢れの中へと閉じ込めてしまっている場所。
あそこに、イリスの『虹染め』を施すのはまだ若い彼らには到底難しい。
なら、僕がすべきことは繭殿の次に彼らの『試練』となる穢れの流れを作るまで。
神殿ひとつ程度なんて、可愛らしいもの。
僕の髪をじい様同様の『金』に戻すくらいの、聖浄を成すには……もう少しレティを鍛えてあげないと到底無理だ。
穢れは汚れ。
汚れそのものを穢れでないようにするには、繭殿で毛束を食べた聖獣たちの吐く『繭糸』がこれから必要になってくる。
彼らを『起こした』のはそのため。
あの世界で何百年もかけて、眠りと目覚めを繰り返し。『まぼろしの狭間』を見せてきたのは僕の神としての成せる業だとしても。
アーストとセレスト。
それぞれを忌み嫌う存在にさせたのも、血を与えた僕のせい。
だからこそ、子孫となったあの子たちを浄化させるのにいざなうのも、親に近い僕の役目だ。
「……レティ。血と穢れの塊。僕の孫娘と言ってもいい子。……まだ、今は泣かないで。苦しまないで。君が『ヒト』であるようになるには……もう少し、時間が必要なんだ」
リデルと巡り合わせるように、境目で出会うと仕向けたのは……僕の力。
スキルを簡素に見せかけ、実は浄化を徐々に加えていたと見せていたのも……僕のまやかしの術。
レティはずっと、あの境目で迷子になっていた。
現実との境目で、除け者扱いになっていたと『勘違い』させておいて……断罪されるように、まぼろしを見ていただけだ。
そうしないと、心からの望みを持てなかったんだ。リデルと出会うことで、喜びを知ったあの時に視点を置いてきてしまったから。
リデルたちを助けるためにも……そうするしかなかったんだよ。レイシア。
人形でない、けど、ヒトでもなかった『君』を形あるものにするのには……こうするしかなかった。
だから、ヤハルたちとの会話も、少しいじらせてもらうね?
次回は水曜日〜




