第75話 老成していても愛くるしい
『ふむ。久しく食すこれは……格別っ』
『……うん』
羽虫様もとい、ヤハル様と聖獣のヒューリ様。
わたくしが浄化させていただいた毛束をとても美味しそうに召し上がっています。お邪魔してはいけませんので、わたくしとリデル様は少し離れたところで休憩用の食事をしていますが。
『穢れを少しずつ剥ぐしか出来んかった儂では到底無理な仕事じゃったが。これは待った甲斐があったのお?』
『……無理、させた』
『たしかにな? しかし、聖なる乙女と言っても良いあの力。……ただの浄化だけではあるまい』
『……聖浄』
『そうじゃ、それじゃな!』
もふもふと食べながらも器用に会話されていますが……か、可愛過ぎますわ!! 陽の聖獣様方もたしかに愛らしかったですが、こちらはこちらで別の可愛さがあるような気がしますの!!
(蛇の胴体は艶々していますが……すべすべでしょうか?)
ああ、いけませんわ。このように邪な感情を抱いては。わたくしの一番はリデル様ですのに……その考えがバレかけているのか、リデル様はわたくしの方を見て苦笑いされていますもの。
「……触りたいのか?」
「あ、いえ。……いえ」
「とはいえ、少し気難しい方のようだ。今回は難しいかもしれない」
「そうです……ね」
とりあえず、こちらも食事に専念したあとにお話となりましたが。ヒューリ様はゆっくりと毛束を召し上がっていらしたので、ヤハル様が代わりにお話ししてくださることになりましたの。ヤハル様はある程度召し上がったせいでお腹がポッコリと膨らんでいましたわ。
『さて。穢れを『染め』に変換出来る奇跡。それを可能にしたのが、そちか? レイシアとやら』
「はい、ヤハル様」
『ふむ。色々抱え込んでいるようじゃが……横の不愛想な王子のお陰もあって、いい笑顔をしておるな? とにかく、こちらの繭殿の穢れを剥がしてくれて助かった。多少、手荒だと言った失言は許しておくれ? あれはヒューリが受けていた穢れの名残のようなものなのじゃ』
「「……名残??」」
『そうじゃ。陽のなかで溜め込んでいたものを相対する方角によって……変換していた穢れが邪気へとさらに変じた。その名残じゃな。今はすっかりないが……この穢れの中枢となる国境がいよいよ怪しいわい』
「……どこなのですか? それは」
リデル様がお聞きなさると、ヤハル様は『おや?』と首を傾げられました。
『そこの乙女のこともあって知っていると思ったがの?? 昔の呼び名でもあったが、ジャディスだったか? 冥府への入り口にさせられている……憐れな亡霊たちの国よ』
「……ジャディス? え?」
『おや? その様子だと違う知識を埋め込まれておったか?』
「だって。その……あの国は、わたくしにとっての」
祖国に変わりない。クロノ様を介して、封印を施した国だと言われたそこ。
ですが、ヤハル様のおっしゃる言葉を理解したら……それは間違った認識だとされてしまう。
つまり、あの国は最初から『無かった』とされている国だということ。
わたくしとリデル様が出会った場所すら、まぼろしだということですの??
「……不可思議なことが多いが。しかし、ヤハル殿。彼女にとっては祖国に変わりない。俺も少し前に訪れることが出来た」
『それこそが、『まぼろしの狭間』での出来事だったのじゃろう。乙女をお主が救い出す『方法』としての』
『……そう。だから、繭殿の穢れが一気に膨らんだ』
あとからつけくわえるようにして、ヒューリ様がそうおっしゃったので。わたくしは一瞬めまいで気を失いかけましたが歯を食いしばって我慢しましたわ。
次回は月曜日〜




