第59話 レイシアを考えて③(リデル視点)
「へぇ~? 真面目に公務をねぇ?」
「……冷やかしか? ディルス」
普段は宰相候補にまかせっきりの公務を、珍しく俺自身が捌いているのがそんなにも珍しいのか。
俺の実務は、結局『虹染め』優先だったから……即位するまでの仕事など、二の次でいいのは父上からも言われていたから気にしないでいた。それが今は、『王太子妃』候補になったレティのために、『時間をつくる』理由のために処理している。ディルスが報告ついでに眺めてきたのだが、にやついた笑顔なのがやけにムカつく。
自分は婚約者のリーリルと堂々と触れ合えるのに、俺は……俺は、レティの手に触れただけで心臓が高鳴るのを抑えきれないなどと、結構弱気だ!! 清めるたびに、どこもかしこも美しくなる女性が自分の婚約者となれば!!? 恋わずらいをただでさえ抱えているのに、緊張しないわけがないだろう!?
「冷徹王太子が、婚約者のために勤しんでるって聞いたぜ? ほーんと、あの嬢ちゃんに首ったけだな?」
「……悪いか」
「まさか? 今までお飾りボンボンでしかなかった、乳兄弟に春だぜ? 祝福しないわけないだろ。一応」
「……最後の言葉が余計だ」
「なーんだよ。口説き文句のひとつでも教えてやろっかと思ったのによ?」
「……そんなの。レティには効きやしない」
「あ? あの嬢ちゃん、意外と堅物?」
「……自分が粗悪品だと思っている節があるんだ。なら、俺も素のままでいるだけだ」
「ほ~。ま、たしか公爵令嬢だったのに、自分の婚約者に婚約破棄させたんだって?」
「だいたい俺も調べたが……記録が、おかしい」
「は?」
そう。俺がジャディス国に侵入した時と後の記録。それらが『矛盾』と言えるくらいに書き換えられていたのだ。俺やレティの記憶にあることと、文字で残された記録が全くと言っていいくらい違いが出ていた。
婚約破棄をさせたのはレティで間違っていないのだが。それを仕向けた当人は……レティの父親だと記されていたのだ。レティは父親にも宣告したとは言っていたが……どうも、俺には矛盾しか浮かんでこない。
つまり、レティの元婚約者は『態と』浮気の現場を作るように差し向けられていたのではと。
レティが、本気で『イリス国』の縁者であるなら……俺と接触があったことで、『帰す時期』を決めたことになる。娘本人には何も知らせずに、自分勝手に動いたように思わせて。
ディルスにもその記録を見せたが、やはり俺と同じような違和感を顔に出していた。
「クロノ様がわざわざ『俺たち』に休暇を言い渡すなんて……子どもの頃ならともかく、だいたい成人した年齢にはいっさい言ってこなかったのに? おかしくないか?」
「まあ、嬢ちゃんも成人手前くらいかそこらの年齢……だけど、疲れてないのが逆に変ってことか?」
「スキルで相応の魔力を消費したにもかかわらず、元気なのがかえって心配されたのか。だから、俺も念のため二日ほど間を置いたんだ」
「……なるほどなぁ? ジャディス国の周辺、もう洗ったのか?」
「そろそろ報せが来てもおかしくはない。……受け取り、一度頼めるか?」
「あいよ」
ひとりよりも、ふたり以上の確認が欲しいときがある。それが大将軍への道筋を確約されたディルスになら、頼んでも問題がない。女性であれば、婚約者のリーリルが適任だ。普段から、女官としてレティの話し相手にもなっているから適切者として、こちらも問題なかろう。
ある程度の書簡整理が終わったところで、宰相候補を呼んで確認のためにそれらを持って行かせた。久しぶりにまともな公務をしたことで、頭がいくらか疲れた。レティといつものような食事が出来ないのは残念だが、明後日でそれが叶うのだから今は少し仮眠を取っておくことにした。
次回は金曜日〜




