第52話 見てらんねぇ(ディルス視点)
乳兄弟の王太子殿下が、まあひと目惚れしたのはいいとして。その独占欲が強いのがいかん。俺にはリルっつー女がいるのに、あいつと姫さんが仲良さげにしているのにまで嫉妬するのはなあ?
『穢れた王太子』。
『悪しき存在』。
などと、イリスの恩恵を受けている連中らから、罵倒を浴びるのに慣れていたせいか人恋しさを忘れようとしていた。それを、あの姫さんと出会ったことで切り替え以上の手腕で婚約者としての契約を結ばせた。
姫さんにはわかっていないようだが、でろでろ甘々に……かつ、丁重に扱っているあいつを、俺は生まれてこの方見たことがない。姫さんはリデルの仕事を尊敬していると言っているが……まったくの、脈無しでないことはわかった。
リルが報告に来てくれたんだが、どうやら姫さんの方にも変化があったらしい。
「姫様の御心には、殿下が宿りつつあると思うのです」
「……そりゃ、リデルにはさっさと報せてやりたいがダメだな?」
「いけませんわ。これは、お互いの問題ですもの」
恋情。
思慕。
とやらは、あとから湧いてくるとも聞くが。姫さんはどっちかわからずじまい。どちらにしても、あの堅物野郎に寄り添える女が出来るのはいいことだ。アーストの政略結婚はなかなかに困難で嫁いで来たいという姫君らも少ない。
なので、むりくりだがアースト国内の貴族らの中で……特に事情を知る令嬢が嫁ぐのがほとんど。稀にセレスト側からも嫁ぐことはあったらしいが、姫さんはどっちに属するイリスの血族かわかっていない。
調べたが、姫さんの祖国は穢れによる『封印』がきちんとされていた。そこは、クロノ様が穢れで『死』を迎えさせないようになんとかしてくださったんだろう。
「リル」
「はい?」
そっと顎をすくい、顔を近づける。軽く口づけただけだが、両目できちんと見える俺の婚約者はマジで可憐で美しいな? もう何度もしているのに、相変わらず少女のように俺の前では恥じらうんだ。
「……閨はダメか?」
「いけませんわ。明日、姫様方をお送り出来ません」
「今回のように、すぐ戻ってくるだろ?」
「それでも、ですわ」
それと、ともうひとつの報告にと持ってきた『布』を見せてもらったのだが。
『染め』の技術の粋と言ってもいいくらい、美しい染め上げになった穢れを利用したそれ。
今もまあ可愛い顔立ちしている姫さんだが、明日にまたリデルと朝対面したら……あいつのことだから、囲うとか隠すとか言いかねんな?
「……まだ穢れは残っている感じか?」
「わかりません。姫様の、無理ない範囲でとお願いしたまでで」
「……わからんな」
穢れを浴びに浴びても、スキルである程度は元に戻る。聖浄の概念はそんなもんだと思っていたが……その考え方は変えた方がいいかもしれん。茶の髪がどことなく煌めくような輝きを宿していることを、リデルを含めて周りはまだ伝えていない。
姫さん自身に、まだまだ秘密は多いが、どこからどう調べればいいかがさっぱりわからんときた。
シーディルと呼ばれたあの国の内情は、封印された今では周辺の聞き込みくらいしかまともに出来ないが……それくらいしか、出来んだろうな?
(リデルもリデルで調べてるだろうが……さっさと、思いの丈を吐き出した方が楽なのに)
とは言っても、姫さんの『仕事ひと筋』の表情しか見てないから……脈無しだと勘違いしてんだろうな? 姫さんの前でしか、あいつまともに緩んだ表情も見せてないのに……姫さんも相当鈍感だな。ライオスたちも焚きつけたのに、意味なかったってこの間ぼやいていたよな。
(めんどくせ!!)
あと、俺とリルの閨の回数が一気に減ったのがめちゃくちゃ嫌だ!!
次回は水曜日〜




