第3話 気まぐれが本気になるのは
「殿下、こちらへ」
「ああ。レティは無事に。……この国の処遇は、手筈通りに」
「はっ!」
身綺麗な老執事風の配下に、リデル様は命令をしましたの。その手順も最早決まっていたのか、彼方此方へと多くの騎士が配属されていきますわ。
わたくしはわたくしで、リデル様に抱えていただきながら馬車の中へ。さすがに、ずっと抱えられえているわけにはいきませんもので……お隣に座ることになりましたが。
「レティ。少し旅路はかかるが……順を追って、君からの質問に答えよう。先に言っておくが、二度とこの国には帰って来れない」
「それは全く気にしておりませんわ」
「……潔い。じゃあ、あの演出は本当に君自ら?」
「ええ。浮気三昧で嫌になっておりましたもの」
「俺も調査済みではあったが……あれはたしかに女性の敵だ」
一度しか、お会いしていない殿方。
わたくしが、押しかけの勢いで仕事を申し出ようとされた方。
その方が、市民などの市井ではなくて……まさか、隣国の王太子殿下などと誰が思うのでしょうか? わたくしだって、内面は物凄く驚いておりますわ!! 王族に相応しい貴公子姿は眩し過ぎますもの!!
「……わたくしは、リデル様のお国でお仕事はいただけますか?」
身の振り方でも、わたくしはまずそれが知りたかった。婚約の申し込みは一応されましても、あれはおそらく形式のみ。わたくしの持つユニークスキルが目当てのための演出。
とは言え、飾りの妃のこともありますから。側室の可能性も十分でしょうけど。
「それはもちろん。衣食住については、こちらで保証することを約束する」
「それはありがたいことですわ」
「……君のスキルのせいで、冷遇されていたのも本当か?」
「冷遇……でしょうか。たしかに期待はされておりませんでした」
「……なるほど。であれば」
「む!?」
口の中に、ふわっとしているのにもにゅもにゅした何かを押し込まれましたわ! ですが、噛むと優しい甘さで溶けていくような……とても不思議な食感ですの!?
「当たり前のものも当たり前じゃない。適当な貴族の子息を与えてただけ。…………なるほど、処罰はさらに加算しておくべきか」
もにゅもにゅを飲み込むのに必死で、リデル様のつぶやきがよく聞き取れませんでしたが……何故か、少し怖かったですわぁ。
「ごくん。……美味しゅうございました」
「今のをもっと美味い食い方にしたかったが……動き出すから、火は危ない」
「ひゃ!?」
急ぐ旅なのか、思った以上に馬車の轍が早く動きまして……リデル様にうっかりしがみついてしまいましたが、彼は小さく笑っているだけでしたわ。
「レティ。君には絶対楽しい生活を送らせてあげることを、ここで約束しよう」
強い意志と言葉。そして、顔を上げれば涼しげな笑顔。
嘘偽りのない誓約に、わたくしはレディの作法は出来ませんでしたが。出来るだけ丁寧に頷きましたの。
「ありがとうございますわ。貴国に到着して以降の、お仕事にも一生懸命努めますわ!!」
「……リフィール=イシア=フォンベルト。イリス=アースト国の王太子として、レティの身の安全を約束する。そろそろ外に降りて我が国の出迎えを見ようか」
正式な名を告げてくださったあとに、リデル様はわたくしをまた抱っこされましたの。掛け声で御者が馬車を止めてくれたのか、リデル様はそのまま飛び出しましたの。
既に夜明け前だったのか、普通は見えないはずの……巨大な虹の橋がこちらに向かってくる光景が見えましたわ!!?
「まあ、朝日に虹ですの!?」
「虹紬のセレスト側が貸してくれただろうが。……少し、じっとしてろ」
「はい?」
ぴょん、という具合にリデル様が跳び上がりましたの!? わたくしは抱えられてましたので、また腕を回そうとしましたが。リデル様に待てと言われてしまいました。
「君のスキルを、この国布に……使えないだろうか?」
「こ、この巨大なのをですの??」
「……頼む」
初めて、スキルをここまで求めていただけた。であれば、そのご期待に応えない理由はありません! 言い換えれば布の洗濯と同じですわ!!




