運命の山 デナリ
「デナリ、知らないか。」
茜はふっと寂しいしい表情を見せた。加奈子は、まずかったかなと思った。
あ、先輩、本当に無知でごめんなさい!デナリってなんでしょうか?
「デナリは植村直己さんが遭難した山。マッキンリーって言えばわかるかしら。」
「あ、その山の名前、聞いたことあります!」
紀代が大きな声で答えた。
そういえば、植村さん、遭難したんだよね。で、行方不明のまま、いまだに遺体が見つかってないってニュース聞いたことがあった。マッキンリーという響きも記憶にあるけど、なんでデナリなんだろう?
茜は二人があまりにも可愛かったので、一から教えてみようかなという気持ちになった。
「デナリという言葉は、先住民の言葉で、「偉大なもの」という意味なんだ。だから私は後からつけたアメリカ人の言葉より、デナリって言葉を使ってるの。アラスカにある山だけど、アメリカで一番大きい山でもあるの。夏でも寒くて、エベレストより登頂は難しいっていうのが登山家の声よ。植村さんは日本人で初めて登頂に成功したけど、最後はこの山で遭難してしまったの。」
そうだったんですか。
私はあまりアメリカの歴史には詳しくないけど、なんでアラスカだけアメリカなのかな?とか、インディアンとか住んでたところにヨーロッパ人が植民地活動して、カナダとアメリカ、メキシコなどの国になったぐらいのことしか知らなかった。
「ま、今日はここまで。さ、書類書いたら、事務局一緒に行きましょう!私は復学届出すから。そしたら、山岳部は5名になって、廃部も逃れるわ!」
と言うと、颯爽と茜は立ち上がり、半地下の通路を歩いていった。
「ねぇねぇ、なんか茜さんって超かっこよくない?私、やっぱりここで良かったわ~。
あんな先輩憧れちゃう! 私もいつかデナリ、行きたいな!」
私はまだまだ日本の低山でさえ登ったことないのに、そんなエベレストより難しい山に登るなんて想像もできなかった。でも、いつかはそんな日が私にも来るのだろうか?
パソコンを閉じ、ため息をつく洋子。
そっかぁ。お母さん、だからか。山は怖いよって言ってたのは。
そしてお母さんのライフワークがあの研究につながるきっかけが茜さんとの出会いだったのね。
洋子は母のパソコンを一旦閉じ、ソファで休憩した。
その茜さんが今どうしてるのかな?
母の死を教えないといけないかな?
連絡どうしよう?
洋子は母の手帳を探してみた。
あった!
洋子は、溝口茜が連絡欄にないかどうか調べてみた。