母の最期のメッセージ
洋子は突然、全く関係のないことを母にぶつけた。
「なんで、私の名前は洋子って言うの?この名前で、ずいぶん、悩んだのよ。今どき洋子もないでしょ!昭和見合いで嫌だった!」
「ごめんね。これはあなたのお父さんが南野陽子が好きでね、で、漢字の画数がいい洋子にしたの。くだらないでしょ?」
私はその南野陽子ってだれだか知らないし、お父さんのことは今でも許せない所あるので、自分の名前がそんなことで付けられたことに悲しかった。
「洋子、名前で落ち込みことないでしょう。今のあなたは、もっと大きな命題に差し掛かってる。わたしは、あなたにその仕事を託したいのよ」
「母さん、そんな大きな仕事できるのかな?私に?」
「出来るわ。私の子だもの」
「これを見て」
画面がどんどん、海の中へと映し出されてゆく。
「太平洋よ」
大きなウミガメが泳いでいる。
よく見ると、体中に糸が巻きついている。
「もう何十年も前から海の中は人工のもので溢れていた。地上だけでなく、海の中も汚染が進んでいたの。大気汚染と海洋汚染。そのことに人はどれだけ関心を持って生活してきただろうか。日常買う食品や製品が、じつは生物にとって、とても負担になっていた。人類が滅びる前に、いろんな生物が犠牲になっていたのよ」
「こうのとりも、おおかみも、かわうそも・・・。」
「そうね。絶滅危惧種から絶滅種まで含めて、人間がこの地球上に出現してからわずか5万年ぐらいに何千種にも及ぶ。そのことと引き換えに人類はついに100億人を突破した。ピークはここまで。種としての繁栄は、多くの生命の儀性の上に成り立った」
映像が日本の里山風景と変わった。
「なんか昔の日本?」
「そうね。昭和の初期の頃。まだまだ日本の山が豊かな時代だった頃ね。民話に出てくるタヌキやキツネ、ウサギさんなど、人と動物は共生しながら生きていた時代。人の営みによって生物が滅ぶことがめったになかったの。少なくともこの日本の里山ではね」
「里山を守る・・・」
「そう、よくわかったわね。さすが私の子。里山を守り、その生態系を取りもどすこと。人は火を使い武器で動物を殺してきた。そして鉄を作るために木を切り倒し、畑を作るため、牧畜をするため、工場を作るため、森林を破戒してきた。日本は縄文時代から木を敬い、動物を神様として敬ってきた歴史があるの。それを思い出してほしい。自然と共生していた時代を」
「私なんかにできるかな?」
「出来るわ。茜さんも加奈ちゃんもいるじゃない。残された人類が覚醒してゆけば、必ず出来る」
私は母の熱い思いを聞いた。
「最後に私からあなたへのメッセージを言うわね」
「はい」
「人も自然も、すべてはこの地球という母なる大地の作った生き物。つながってるの。微生物がいなければ巨木も育たないように、人は愛がなければ生き残れない。愛は太陽の力。地球という大地に太陽の愛が降り注ぐことによって、こ゚の星は生命であふれたの。人類の使命は、その愛を取り戻すこと。そして今こそ、その愛を自然に返すこと」
でも、どうやって?
映像が消えた。
再生を戻しても、もう何も出なかった。
母との最後の別れだった。
私は、自分でも持て余すぐらい、大きな使命を授かってしまった。
明日、明日になったら、加奈ちゃんと茜さんに言おう。
母からのメッセージを。




