幽霊部員
「加奈子ちゃんと、えっと、き、き」
「紀代です!」
「あ、そうそう!紀代ちゃん!」
「悪いんだけど、これから俺バイトで、行かなくちゃいけないんだ。」
「あ、おれも今日は絶対出席しないと落第というか8年生なんで退学になってしまうから、入部の手続き、悪いんだけど、加奈子ちゃん、代理でやってくれないか?」
え、どうしよう!どうやって?書類はどこ?
「部室の角の所、奥ね、そこに引き出しのあるキャビネットあるから、その1段目に書類あるよ。で、ハンコは2段目。名前書いて、学部長に提出しておいてくれないか?あ、たぶん、加奈子ちゃんの書類もまだ提出してないので、一緒にお願いします!」
2人に頭を下げられてはしょうがない。
分かりました!なんとかします!
幸い、私と紀代は、午後からフリーだった。
じゃぁ、部室に行こうか。
「いぇーい!」
なんともノリがいい。
山岳部の部室は、第2校舎の半地下にある。
この半地下には、いろんな部室が並んでおり、ドアの前には各部活の道具やらなにやらおいてあり、
雑然とした感じの通路を歩いてゆくと、一番奥が山岳部の部室だった。
加奈子と紀代が部室に入ると、山岳部らしく、ザイルや登山靴、ピッケル、使い古したリュックなどが所狭しと、部屋の中に置いてあった。
「えっと、キャビネットでどこにあるのかしら?角にはないよね?」
確かになかった。
仕方なく二人でしばらく探してみる。
その時、ドアが開いた。
「誰?そこで何してるの?」
え?そっちこそ、誰?って感じだった。
「私?私は明朗大学山岳部部員で2年生の、溝口 茜。」
2年生? もしかして、先輩の云ってた人って、この女性?
風貌からは山岳部ぽくはなかった。だぶだぶのデニムにシャツ、髪型はポニーテール。
なぜか、サンダルだった。ペディキュアをしていて、オシャレな雰囲気の女性だった。
「ごめん、ホント、ここで何してたの?場合によっては通報するよ。」
あ、私たち、今年から山岳部に入った植田と山口です!今日からよろしくお願いします!
「あー、そっか。君たちが。でも、西城さんからは一人って聞いてたけど?」
紀代が慌てて答える。
「あの、私は今日、入ったんです!で、入部書類を探してて!」
「なんだ。それならここだよ。」
茜はドアの外を指さした。
部室の中ではなく、外にキャビネットが置いてあった。
なんで、そこに?
「たぶん、去年、部員が一斉にやめて、新人募集のために、いつでも入部してもらいたくて、
キャビネット出したんだろ。ハンコも入ってる」
確かに。でも、この溝口 茜さんという女性。
なんで、急にここに来たのか?