茜さんからの電話
母の日記がそこで終わっていた。
もしかしたら、また念じれば何か出てくるかもしれない。
でも、もう今夜はここでやめておこう。
話しが前世に及んで、果たして母は正常な意識だったのか?
少し怪しく感じてしまったからだ。
そして輪廻転生のフォルダは相変わらず、開かずの間、だった。
よく日、佐々木加奈さんから連絡がきた。
「もしもし、洋子さん、驚かないでくださいよ!あの茜さんとコンタクト出来ました!電話来たんです!会社に!」
「え、本当ですか?」
私はついに茜さんと話すことが出来るかもしれないと心が躍った。
「電話番号も分かりました。どうしますか?連絡をしますか?」
そうか、考えてみたら、茜さんは家に電話したことがあったのだ。
だからうちに電話が来てもおかしくなかった。
でも、今回は会社に電話が来た。
一体、何のために?
「加奈さん、茜さん、なんでそちらの会社に電話したのかしら?」
「実は、石井さんが加奈子さんの全集を作るにあたって、あらゆる知り合いのつてを探して、手紙を送りまくっていたんです。そこで、茜さんのことを知っている人が茜さんに伝えたようなのです」
なるほど。石井さんが。
「じゃぁ、石井さんも喜んでいるでしょう」
「そえはもう。ただ気がかりなことがあって」
「何?」
「茜さん、今は日本に住んでいるのです」
え?
私は絶句した。
あんなにスイスに行くことを楽しみしていたのに、日本!
「すいません、もしかしたらスイス行き、なくなるかも知れまっせん」
「いいのよ、いいのよ。私たちの目的は茜さんに会う事。スイス行きは過程でしかないもの。日本ならすぐ会えるかもしれないしね!」
「そうですね。茜さん、今は、どうも熱海にいるらしいのです」
え?熱海?
なんだか、私はふうてんの寅さんのようなイメージを持てしまった。
あちこちふらふらと現れて、最終的に暖かい島に住んでいた寅さん。
あ、茜さんは違うか。
「では、私、今夜でも電話します。いえ、今から電話します」
「そうですか。取材はまたあらためてします。その時は洋子さんも一緒ですよ」
「わかりました!」
そういって電話を切った。
しかし、茜さんの電話番号を知ったはいいが、かけにくい。
とりあえず、茜という名前でスマホに登録してみる。
何を話したら?
日記の中では大学生だった茜さんも、今は60代半ばの女性。
緊張する。
その時、電話が鳴った。
茜という文字がスマホの画面に浮かんだ。
え?茜さん?
加奈さん、私の電話番号、教えたの?
恐る恐るとってみる。
「もしもし、洋子さんですか?わたくし、野口茜と申すものですが」
その声は若々しく張りのある声だった。
緊張した。
手のひらから汗がにじみでてくるのを感じた。




