放射能、そして隠蔽
茜さんのマンションに着いた時、生きて帰れたと思った。
部屋を開けると、家財道具が散乱していた。
「けっこうやられているわね」
幸い、停電はしていなかった。
テレビをつけた。
テレビではどこの局も地震と津波のニュースで溢れていた。
「これから日本はどうなってしまうんでしょう?」
私は携帯の緊急警告音と大きな揺れにめまいがしていた。
なにか、ずっと揺れているような感覚。
「とりえず、寝ましょう。水分とお菓子しかないけど食べないよりましよ」
実はここまで来る途中、コンビニというコンビニ棚から商品が消えていたのである。
わずかに残ったスナックを買い、水は茜さんがストックしてあったミネラル水をいただいた。
時折揺れる中、私は泥のように眠ってしまった。
起きたときはもう夕方になろうとしていた。
地震が最初に起きてから丸一日が過ぎていた。
「起きた?なんか食べる?」
茜さんによるとガスは止まっていたが午後に復旧。
冷蔵庫の中の食材でありあわせのご飯を作ってくれていた。
「何から何まですいません。あ!どうしよう。バイト!」
「何を言ってるの。バイトどこじゃないわ。今はあきらめましょう!」
茜さんは続けた。
登「山でも天候不順が続けば下山する。
下手にビバークして登頂を目指すと、凍死してしまうか滑落死してしまうかのどちらかだという。
今は、下山する。つまり、下手に家から出ないで情報収集する。
そこからよ。」
私は茜さんの言う通りにした。
しばらくして緊急速報がテレビで流れた。
福島原発1号機が爆発したのだという。
「茜さん、これって放射能が漏れるんじゃ?チェルノブイリみたいに!」
「私は原発詳しくないのだけど、ネット情報も確認しましょう。マスコミはこれから何かを隠蔽するかもしれないから」
隠蔽? 何を?
メルトダウンという言葉がよぎった。
そして悪夢は続いた。
原発3号機、4号機が次々と爆発したのだ。
「もう東日本は終わり」
こんな言葉がネットに溢れていた。
時の首相が関東以北を捨て、地域住民の移動を検討している。みたいなことをいう人も出てきた。
真偽のほどは定かではない。
ドイツの気象局が原発が流れたであろう噴煙の行方を検知してると噂され、そこにアクセスした。
放射能を含まれるだろう噴煙は福島の北側だけでなく、群馬、栃木、茨城、埼玉、東京まで流れている図が出てきたのだ。
これは被爆する!
私は恐怖におののいた。
「加奈子、実家は群馬よね?家族とは連絡とれた?」
「はい、先ほどとれました。うちはなんとか無事です。ただ放射能は目に見えないので心配です」
「そうね。それは東京も同じだわ。水道水は利根川系を使ってるから、東京の水は飲めないかも」
茜さんは普段から水道水は飲まないらしい。だから部屋にはミネラル水が豊富にストックしてあった。
「登山に行くときはこの水を持ってゆくの」
私は今では都会では貴重な汚染されていない水を飲むことができた。
でも、実家は?
そういえば、西城八十男先輩は生きているのだろうか?
確か、宮城の気仙沼に帰って家業を継いだと聞いたけど、気仙沼が大火事になり、とんでもないことになっていたニュースを見た時、すぐに連絡を入れたが全く通じず。
日ごとに死者が倍増され、数百人の死者がいつの間にか数千人単位になっていた。
「一体、何人の人が死んだのだろう?」
いまだ止まぬ余震と放射能に覚えながら、やがて春がやってきた。
しかし、都内のどこも、桜まつりは中止。
いや、それどころか、あちこちの公園で放射能が検知され、ますますパニックになっていた。
私は茜さんのマンションから自分のアパートに戻ってこれたが、未だに群馬の実家には帰っていなかった。
私は3年生になり新しいキャンパスライフを楽しむはずだった。あの日までは。
しかし、こんな時に登山部に入る新入生もなく、しばらく大学の講義も休講の文字が多かった。
そんな時、野口さんが部室に走ってきて言った。
「西城さん、生きてました!」
みんなその知らせを聞いて喜んだ。
よかった。知り合いは誰も死ななかった!




