加奈と茜
「どうも、今日はわざわざご足労頂きありがとうございます」
深々とお辞儀をする佐々木加奈。
小柄だが、すらっと伸びた脚に、やや日焼けしたような顔。
この子も登山家なのだろうか?
母の先輩だった西城八十男を思い出した。
「では、これが航空チケットです」
スマホでも今はいいのだが、彼女は紙のチケットの方が思い出になるからと、今回は紙のチケットを用意したそうだ。確かに今はどこに行っても電子決済だ。確かに思い出が残りにくい。写真も考えてみたらアルバムという形で持っている人など今はいない。昭和の遺物と言っていいだろう。
しばらくスイスでの行程や茜さんのインタビューの件について話してくれた。
「加奈ちゃん、それでさ、茜さんとはどこで会うの?」
私はビジネスライクな会話に、そろそろ飽きてきたので、あえてちゃんづけして聞いてみた。
「すいません、私、硬かったですか?ホントは全然硬くないんですよ。むしろはっちゃけてるタイプ。でも、まだ入社3年目だし、まだ大人しくしてなきゃいけないじゃないですか?って、こんなため口じゃ怒りますよね?」
私は笑ってしまった。
こんなに笑うのはいつぶりだろう。
母が亡くなってからこの数か月。
思えば忙しさと悲しみで、笑うことを忘れていた。
もしかすると、夫が今回の旅を快く許諾してくれたのも、どこかで私を心配してたからか。
「すいません、洋子さん。実は、私も茜さんがどこに住んでい居て、何をしてるのかわからないのです。ただスイスにいるのは確実です。知り合いの方から、彼女はアルプスのふもとにいると聞きましたから」
わからないまま行くのか・・・。
これは相当な賭けだな。
「それで、その知り合いって?というか、加奈ちゃん、いつどこで茜さんに会ったの?」
「実は、私が高校生の時に逢ったのです。」
彼女は、茜さんと逢った時の経緯を教えてくれた。




